【感想・ネタバレ】文庫解説ワンダーランドのレビュー

あらすじ

基本はオマケ、だが、人はしばしばオマケのためにモノを買う。マルクス、漱石、松本清張。『武士道』『なんクリ』『永遠の0』──古典名作にベストセラーがずらりと揃う文庫本、その巻末の「解説」は、読み出すとどうにも止められないワンダーランドだった! 痛快きわまりない「解説の解説」が、幾多の文庫に新たな命を吹き込む。

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単行本にはつかないが、文庫本のほとんどには解説がついている。この解説が千差万別。作品のキズや欠点をあげつらうものから、褒めて褒めて褒め通すものまで。あたりさわりのない解説から、解説者自身の自分語りに終始するものまでと、多種多様。
本書は、そうした解説についての解説。いわばメタ解説。なんともワンダホーな企画、俎上に載せる文庫本のチョイスもナイス。
とくに夏目漱石『坊ちゃん』、林芙美子『放浪記』、太宰治『走れメロス』、高村光太郎『智恵子抄』の章が秀逸。赤川次郎『三毛猫ホームズ』の章では、鶴見俊輔が赤川の大ファンということも書いている。鶴見は赤川が書いた本の冊数よりも100冊も多く読んでいるそうな!?

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2025年07月01日

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『日本の国語教育は、文学教育というより道徳教育だとよくいわれる。「主人公の気持ちになって考えなさい(共感読み)」と「作者のいいたいことを五〇字でまとめなさい(教訓読み)」のような質問はいまも授業につきものだ。』(p.90)

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2022年05月13日

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論壇誌や新聞の書籍解説などとは違い文庫の解説は大抵は一人なわけで、そこにおそらく緩み、油断が生じてしまう。
ある人は作品や作者に媚びへつらい、ある人はあくまでも自己顕示欲の発露として終始する。
つまり、どうしてもイキったりカカったりしてしまうツッコミどころ満載の不思議な風習なのであった。
こんないじりがいがある素材を見つけた斉藤先生の快刀乱麻は止まらない。三島由紀夫だろうが大江健三郎だろうが果てはおそらく精神的な師でもあろうと思われる小林秀雄までも。完膚なきまでにおちょくっている。本当に気持ちがいい。
それでも最後の二篇、戦争題材のものに関してはしっかりと重くシリアス。戦争への同調圧力はもちろんだが平和や民主主義のそれも同等に警告しているのが感動的。

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2021年03月28日

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斎藤美奈子さんが岩波の小冊子『図書』に連載した文庫解説の批評集。著者らしい毒舌やユーモアに満ちていて、軽快に読める。本領発揮だなぁ。

文庫解説はどうあるべきかに正解はない、というのが本書の最後に書かれているが、著者自身は、国語(文学の鑑賞)よりも社会科(地理的歴史的背景)を重んじている。本が書かれた時代的背景は、十数年もすれば忘れ去られてしまうからだ。実際、本書でも、『小公女』の背景にある階級差と植民地の問題や、1940年に書かれた『走れメロス』を日本の戦時体制のパロディとして読む視点など、後世の読者にとって有益な指摘がたくさんある。

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2021年02月16日

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それほど気にしていなかったオマケに思っていた、文庫本の解説コーナー。
でも、オマケだからいいやとはならなくて、しっかり読んでしまう本好きのサガでもあった。
その文庫本の解説に光を当てて、解説・分析・批評のおかしくもほろ苦い本。

当然、文庫本の著者と「解説」者は別人だ。
そこが肝心なところね。
だしこの本によると、著者は解説者を選べるらしい。

ちなみに
あの解説って稿料もらえるんだろうか?もちろんもらえるだろう。
だけどね、この文庫がふたたびブレイクして売れ、著者の印税が増えたとして、
「解説」者は恩恵を受けるのかなあ?というはしたない疑問がわく。

そういうわけなら、「解説」者はあまり力が入らないのでは・・・。
なんてことは、いっさい分析してない、よ。

さて、「斎藤美奈子節」満載、おかしみの中に厳しいご指摘がある。
曰く、解説とはその作品について述べることなり。

当たり前だ。
けれども、
著者の友人としてお付き合いのあるひとは、その成り行きをとうとうと書き綴る例。
作品に関係ない持論を述べるパターン。
難解な解説でその解説に解説がいりそうな例。

あるある。
「本当の解説とは?」この本文を読んでください、わかります(笑)

わたし、途中まで読んできて
「はて、こんな厳しいこと言っちゃって、斎藤さん、解説お書きになってるよね」
と、このご本に「解説」は無いから(笑)著者の「あとがき」に走った。

おう!
「なんだけど、もしかして私、自分で自分の首絞めてない?」
とあった。
100は超えないけどそれなりにお書きになって、しかもお得意だとか。
この本の雑誌に連載中にも「解説」の仕事ありで「冷や汗タラー」だったそう。

30篇以上、ベストセラー・名作など本の「解説」部分を比較検討、展開する批評は斬新。
現代文学史でもあり、読書指南でもあった。

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2019年03月13日

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毒舌書評で知られる斎藤美奈子が古典文学から現代まであれやこれやの「解説」をメッタ斬り。文庫のオマケと考えられがちな末尾の「解説」に注目しただけでもかなりの変わり種だが、さらにその解説をどう読むか、解説はどうあるべきかを例の歯に衣着せぬ論調でまくしたてるのだから、これは必読だ。

三島由紀夫(『伊豆の踊子』)を「チンプンカンプン」と斬って落とし、井伏鱒二(『富嶽百景・走れメロス他八篇』)を「ふざけてんの?」とこき下ろす。反戦小説『少年H』(妹尾河童)に寄せられた著名人の書評を「翼賛的な絶賛体制」と揶揄すれば、返す刀で児玉清(百田尚樹『永遠の0』)の零戦賛美を「作品を相対化する視点がまったくない」と一刀両断。

そういう読者にわたしもなりたい。

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2018年10月18日

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普段、文庫の解説は注意して読むことはないが、『こういう楽しみ方もあるんだ』と新発見。読書の別の楽しみ方を教えてもらった。
ばっさばっさ切りまくる文章は痛快。著者の読書量の凄さも感じることができる。

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2018年02月20日

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この840円の本を書くため、斎藤さんがどれほどたくさんの本を精読したか考えると、本当にすごいと思う。そして、本当に面白かった!
わかりやすいところでは、例えば、「走れメロス」の解説。角川文庫のカバーの紹介文みたいに、「メロスがんばれ!」と、私は一度も思ったことはないが、太宰治を知らない純粋な小中学生なら思うのだろうか、そしてそういう「読み」が正しいのか、とずっと疑問に思ってきたが、それを否定するような解説もなく、太宰作品の中では最も嫌いな一つとなっていたのだが、

「<メロスは激怒した>ではじまり<勇者はひどく赤面した>で終わるテキストは、心身ともに「裸」だった若者が「見られている自分」に気づいて最後に「衣」を手に入れる物語である。この瞬間、メロスはコドモ(赤子)からオトナ(赤面を知る)に変わるわけで、『走れメロス』は「裸の王様」ならぬ「裸の勇者」の物語とも言えるのだ。」(p35~36)

という斎藤さんの「読み」に初めて納得できる「メロス」の解説を読んだ気持ちになった。心から納得した。
難解と言われる小林秀雄については

「小林秀雄はかつて「試験に出る評論文」の代表選手だったのだ。試験に出る評論文の条件は名文であることではない。「論旨がわかりにくいこと」だ。」(p148)

で、また納得。そして

「そうだった、思い出したよ。コバヒデの脳内では、よく何かが「突然、降りてくる」のである。こういった箇所を読むと(少なくとも私は)鼻白む。しかし、小林にとってはこの「突然、降りてくる」が重要で、こうした一種の神秘体験を共有できるかどうかで、コバヒデを理解できるか否かが決まるといっても過言ではない。」(p150)

でさらに納得。
『少年H』については

「もしかして、妹尾河童も「こうありたかった少年像」を描いたのではないか。戦争の欺瞞を鋭く見抜き、母を雄々しく守り、敗戦の日に天皇の戦争責任に思いを致すような少年を。このような物語は読者に歓迎される。「日本人はみな本当はHのように戦争に反対したかったのだ」という気分を共有することで、庶民の戦争責任は免責されるからである。」(p234~235)

 当時を生きた人でないとわかりにくい安保闘争やバブルの頃のベストセラーの読み解きも面白いし、もちろん渡辺淳一の部分は笑える。
 納得しないまま読んできた作品やその解説を、この本で初めて納得できた。
 こんなに面白くて中身が濃くて840円か。30分で読めて中身スカスカで、他の文献を当たったのか大いに疑問の本が倍の値段することもあるんだから、大いにお買い得の本。
 今度は翻訳読み比べをやってほしいなあ。
 ついでに言うと、この本のあとがきに引用されている、著者の恩師、浅井良夫の文章がまたわかりやすくて面白く、この師にしてこの弟子ありってことだなと深く感心したのであった。

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2017年04月01日

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文庫本には大抵つけられている解説に着目して批評した本。著者が結構好きなので本屋で見つけて購入。

文庫の解説って完全にオマケ扱いしてて、好きな作家なんかが書いてたらラッキーぐらいの感覚だったんだけど、解説にもタイプがあること、時として「解説してるのこれ?」と思った感覚は自分だけじゃなかったことなんかが知れて、ほんと読んでラッキーな本だった。
そして夏目漱石はやっぱり天才だと思った。「三四郎」、再読します!

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2023年05月20日

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いやー切り口が面白かった!
共感するものもそうでないのもあるけど、解説にここまでフォーカスして今まで考えてみたことのない角度からの分析は新鮮で面白かったです。

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2023年03月16日

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目の付け所がいいですね。赤川次郎の解説を鶴見俊輔が書いてるなんて、よほどのファンしかたどり着けない意外な情報とか、自分も読んで「何だかな〜」と感じた松本清張『点と線』は解説の平野謙や有栖川有栖がきっちり急所を指摘している事実など、思わず「そうだったか」と唸らされた。

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2021年07月25日

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文庫解説に目をつけるとは!なかなか斬新な批評だった。文庫解説は誰のものというと、当然読者のためのはずだが、作者のためや自分のための解説が多いという。その取り上げ方、切り捨て方がなかなか痛快!作者の個人史に引きずられた解説や与太話に過ぎない解説も困ったものだが、こうやってこの本に取り上げられて読んでみると面白い。
作品の社会的背景を捉え、読書の指針となる、あるいは視野を広げる解説が優れているということらしいが、これが結構難しいことらしい。だめな解説や優れた解説の書き手の名前が挙げられていて、なかなか厳しいね。
松本清張のアリバイトリックの不備を突いた批評家がいて、「ええー、これじゃ作品自体が成り立たないじゃないか」とあきれてしまった。あの有名な「点と線」や「ゼロの焦点」ですよ。小林秀雄の文も解説もわけがわからんと切り捨ててあるのも留飲を下げる感じかな。

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2020年10月28日

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上野千鶴子のあとだからか、セジウィックのホモソーシャル論を駆使しても、軽く感じてしまう。しかし、この軽妙さが斎藤美奈子だったと思い出す。

最後の戦争文学を斬り、解説よ作品に屈するな、は良かった。

・太宰と漱石の立たされている位置、まなざしの違い
・サイード『知識人とは何か』:知識人にとってもっとも必要な要素は、専門性の中に閉じこもらない「アマチュアリズム」だ
・同時代の読者には説明過剰に見えても、数年後の読者にはもう通じない。それが現代。後世の読者に必要なのは、国語よりも社会科なのだ。

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2019年07月12日

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出遅れた。出版されて1年も過ぎている。
いつもながら、文庫解説を評するという、目の付け所が素晴らし過ぎて…

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2019年01月07日

Posted by ブクログ

文庫の解説が大好きだ。
わけのわからない解説がついているとがっかりするし、本文に劣らぬ輝きのある解説もある。
そんな解説好きはきっと珍しくないはずだ。
本書はそんなニッチな、マニアックな、「解説」にスポットライトを当てた珍しい本。

まずは名作から。
『坊ちゃん』の解説だ。
実は読んだことがないが、「痛快な勧善懲悪劇」(13頁)という認識はあった。
しかし、だ。
それを覆す悲劇として読んだ解説があるそうだ。
奇をてらいすぎじゃないか、何でもかんでも本流に逆らえばいいってもんじゃない。
あるいは、赤シャツがうらなりからマドンナをとったのではなく、マドンナの方から赤シャツに近づいたのだとした解説もある。
物事というのはここまで違った見方ができるものか。

太宰の解説をした井伏鱒二。
智恵子抄の解説をした草野心平。
信じられない豪華さだが、思い出話に終始する。
それはわかった、しかしあなたが今すべきは「解説」であって思い出話じゃない。
背景が主人公でどうする。
紙幅がそれで占められてしまい、消化不良この上ない。
結構あるんだ、この手の解説。

小林秀雄の文章は難解で大学受験の試験問題にも頻繁に使われる。
教科書にも載る。
でもいまだに私はよくわからない。
解説もわかりにくい。
あれはなぜあんなに難解なままなんだろうか、私の読解力がないのか。
しかし著者は言う、「権威による権威付け」と。
なんでも簡単にすることだけがベストではないが。

奥深い解説の世界。
著者はそんな解説にエールを送るが、私も同様に声援を送りたい。
「出でよ、戦う文庫解説!解説は作品の奴隷じゃないのだ。」(238頁)

蛇足:本書は文庫ではなく新書だ。

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2018年04月17日

Posted by ブクログ

文章が小気味いい。ぽんぽんと、アラレのように飛んでくるといおうか。言っている内容はけっこう高度なようで、いて、ときにくだけたりもする。読んでいて楽しかった。著者のプロフィールをみたら、もう60を超えているんだね。もう少し近い世代の人かと思ったけど。とはいえ、前から知っている著者さん。そしておれ自身も40代半ばになったことを考えると、そういうものかもしれない。

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2017年10月05日

Posted by ブクログ

いやはや、大物作家達を含め、斎藤美奈子さんがバッサバッサとぶった切っていく様が痛快な一冊でした。大物作家も含むとは言え、その対象は文庫の「解説」。「解説」と言うのが単行本にはなくて、文庫になって付くものと言うこと自身今まで気付いてなかったのだが、解説といってもいろいろなバリエーションがあるんだということが良く分かった。斎藤美奈子さんの毒舌による「解説書評」を愉しむのと併せて、読んでみたいなぁと思っている古今東西の有名な書物に触れるきっかけにもなりました。

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2017年07月02日

Posted by ブクログ

中学から高校にかけて、ヘヴィメタルを愛好していました。
CDも随分と買いました。
今はどうか知りませんが、当時、ヘヴィメタルのCDを買うと、ライナーノーツ(解説文)を書いていたのは必ずと言っていいほど伊藤政則でした。
そして、この伊藤政則の書くライナーノーツを読むのが楽しみでした。
早く読みたくて、封を開けるのがもどかしいほど。
時にはライナーノーツを読みたくてCDを買うなどという暴挙に出たこともあり、あのころは本当にどうかしていました。
ただ、ライナーノーツというのはCDに付いている「おまけ」などではない。
少なくとも、私にとってはCD本体と並ぶ1個の商品だったような気がします。
文庫本の最後に付いている「解説」も同じではないでしょうか。
自分は本も割と読みますが、この解説が結構大好物。
その文庫解説に焦点を当てたのが本書です(前置きが長い)。
著者は切れ味鋭い論評が身上の文芸評論家、斎藤美奈子さんですから、面白くないわけがない。
たとえば、先年亡くなった渡辺淳一の項なんて、何度も吹き出しました。
ナベジュンの作品の文庫解説は、ナベジュンが選考委員を務めていた頃に直木賞を受賞した(あるいは大変世話になった)女性作家が担当していることが多い。
つまり、ナベジュンには頭が上がらないんですね。
ただ、「ナベジュンが描く女性像や恋愛像は、ぶっちゃけ男の幻想か妄想の賜で、今日の女性読者には違和感のほうが強い」(213ページ)。
しかも、人並み外れて感性に優れた女性作家たちです、おいそれと褒めるわけにはいかない。
どうするか。
斎藤さんいわく、「褒めず殺さずの高等テク」を使っているのだそうです(笑)。
谷村志穂も桜木紫乃もみんな苦し紛れといった筆付きで、角田光代の解説にいたっては「もはや半分ヤケッパチである」というから笑います。
夏目漱石の「坊ちゃん」は解説を担当した人たち間でも大きく見解が分かれていたのだなとか、太宰治の「走れメロス」は解説に恵まれなかったのだなとか、個人的には得るところ大の本でした。
CDのライナーノーツもそうですが、小説の解説も「おまけ」ではないのだと再確認した次第。
これからも文庫本は解説と共に堪能したいと思います。

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2017年02月21日

Posted by ブクログ

やはり著者の「文芸評論」はひと味もふた味も違っていて、抜群に面白い。妊娠や紅一点に着目したり、名作を後ろから読んでみたり、なるほどねえと楽しませてもらってきたが、今回取り上げているのは文庫解説。

いやまったくさすがの目の付け所で、文庫解説についてまとめて論じたものって目にしたことがないような。単行本を読んでいても、解説を楽しみに文庫を買うことがあるくらい、面白いのがある一方で、なんだか身内でのホメ合いに終始していたり、全然やる気のなさそうな「読んでないんじゃ?」というのがあったり、いろいろ突っ込みどころがありそうだ。

ここのところちょっとなりを潜めてた気もする、著者の鋭い舌鋒(「悪態」といった方がいいかも)が久々に快調で、実に楽しい。笑いながら読んだ。

唸ってしまったのは、庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」2012年新潮文庫版についた、苅部直による新解説。この作品にはじまる四部作には、強い思い入れがある。私は子どもの頃から本の虫だったが、高校生の頃これを読んだとき初めて、本の中の世界を自分とつながったものとして感じたと思う。軽々とした文体の底に、なにかしら切実な焦燥のようなものが感じられてならず、旧解説に書かれていたような「機知とユーモアにあふれた愉しい風俗小説」とはまるで思えなかった。苅部は書く。

〈これは戦いの小説である。あえてもっと言えば、知性のための戦いの〉
〈ひたすら「感性」の解放のみを称揚して「知性」を嘲笑するような「狂気の時代」〉に対して〈「薫」がひたすら守ろうとしているのは、「ぼくの知性を、どこまでも自分だけで自由にしなやかに素直に育てていきたい」と語る、知性にむけた願いである〉

著者曰く、〈薫の悩みは、大衆社会を前にした「インテリの悩み」である〉〈知識人/大衆という線引きが失効した時代に、自分は知識人としていかに生きていったらいいのか。それが「赤頭巾ちゃん」の命題だった〉

ああそういうことだったのかあ、とこれには深く納得。ワタクシ、もともとこういうたぐいの小説にすごくヨワイ。そのことを自覚したのも、著者の「名作うしろ読み」で読んだ「トニオ・クレエゲル」の評だったのだが。あれは「凡人は呑気でいいなあ。インテリの僕は苦しいよ」ってことだとバッサリ斬られていて、ぐうの音も出ませんでした。「赤頭巾ちゃん」もその系譜だったのね。

田中康夫「なんとなくクリスタル」にも、最近になって高橋源一郎による新解説がついたそうで(なんと「なんクリ」は「資本論」と似てるという内容)、どちらも〈その後の歴史を俯瞰できればこそ獲得した視点〉だと著者は言う。〈こうした解説が出現するまでには三○年四○年の時間が必要だった。事件的作品の咀嚼には意外と時間がかかるのだ〉とあり、確かにそうだと思った。

このあたりについて、著者は次のようにもまとめている。
〈思えば日本の青春小説は、あるいは近代文学は、「三四郎」以来、「知識人いかに生くべきか」という、一種ホモソーシャルな問いを一貫して追求してきたのである。だが戦後、空前の大衆消費社会が出現、この問いは急速にリアリティを失う。そうして生まれたのが、一方では「(こんな時代にそれでも)知識人いかに生くべきか」を問う小説であり、一方では「知識人なんかクソ食らえ」とせせら笑う小説だった〉

その流れで、漱石と鴎外にも触れられている。漱石は門下生と言うべき集団を作ったが、鴎外は作らなかった。山崎正和は「阿部一族・舞姫」の解説の中で、白樺派の同人や漱石の門下たちのことを評して、〈こうした友情の異様な君臨は、一方では、前近代的な「若衆宿」のなごりでもあったろうが、他方では、伝統的な人間関係の崩壊の産物であったことも、疑いない〉と書いているそうだ。若衆宿!思いもよらない見方だよなあ。

また、高村光太郎が「純愛の人」というイメージでとらえ続けられるようになったのには、草野心平が書いた「智恵子抄」の解説によるところが大きいとあって、これまたなるほど~であった。光太郎が戦争協力詩を書いていたこととか、智恵子の病気はそもそも光太郎のせいではないかと思われることとか、文学好き以外にはあまり知られていなくて、光太郎の清潔なイメージは不動だ。解説恐るべし。

リービ英雄による原民喜「夏の花」の解説について述べたくだりには、「戦争文学」への新鮮な視点があると思った。リービ英雄は、「夏の花」のような文学が可能になったのは、〈私小説という近代の伝統〉〈「自然現象の中の私を書く」という近代文学の手法が働いているからである〉と指摘しているそうだ。言われてみれば確かに。著者が〈痛いところを突かれた感じ〉〈大きな辛い物語を共有する国民。だから自分にも他者にも国家に対しても戦争責任が追及できないんだ、といわれているような感じがする〉と書いているのも実にその通り。

えーと、一番笑ったのは、小林秀雄についての章。なんと著者は小林を「コバヒデ」と呼んじゃってる。コバヒデ!なんだか一気にそこらのオジサンみたいな気がしてくるではないか。大体小林秀雄とか江藤淳とか、そのあたりの人を論じるとなると、眉間に思い切りシワを寄せなくちゃいけないような気がするんだよね。そういう「権威」の匂いが斎藤美奈子さん、キライなんだな。教科書で習った「無常という事」、よくわからなかったのを覚えている。センター試験で「鐔」に当たっちゃった人たちには、今でも深く同情してしまう。

最初の方で、〈批評の要諦とはひっきょう「これってあれじゃん」だと私は思っている〉とある。あ、物真似がしばしば鋭い批評に見えるのもそれかな?とちょっと思った。違うかな…。

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2017年06月28日

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ネタバレ

<目次>
序にかえて  本文よりもエキサイティングな解説があってもいいじゃないか
第1章   あの名作に、この解説
第2章   異文化よ、こんにちは
第3章   なんとなく、知識人
第4章   教えて、現代文学

<内容>
文芸評論家(って何で食っているのか?)による文庫の解説をくさしたもの。『図書』に連載の記事をまとめたもの(だから、岩波新書)。確かに、文庫解説って、読むけど、何かわからないものが多かった。「解説」でないものが多いことがよく分かった。そして、ここまで抉っても大丈夫なのだろうか?という心配も。そして、この本を読んでいて、著者も含めて、「文芸評論家」には、出版社の編集上がりが多いことも分かった。しかし、やっぱり「文芸評論家」は何をしていて食っているの?こうした解説?

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2021年05月03日

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古今東西の文庫の解説を解説した新書。元は、雑誌「図書」に連載されていたものを加筆編集して纏めて物だが、掲載誌が、硬派な岩波書店から出ているので、ある種、他の文庫各社に突っこみを入れやすい環境でもあったから出せた本かもしれない。

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2019年05月18日

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さまざまなる文庫解説の類型。

・その作家専属の解説者の存在
・内容に関係ない解説者の自分語り
・著者との仲の良さの自慢タイプ
・教訓読み取り型、あらさがし型
・解説され損ねるタイプの作家

などなど、ああ小宇宙。

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2018年12月06日

Posted by ブクログ

著名な作品につけられた「解説」。適当に読み流しがちな解説はよく読んでみると実はかなり面白い。独りよがりな解説、作品には殆ど触れず作者の生き様模様ばかり書かれた解説、似たり寄ったりの解説、話があらぬ方向にぶっ飛んじゃう解説、、、。笑える本でした。

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2017年09月08日

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面白かった-。「岸信介の孫という以外のアピールポイントはべつにないのに」とか曾野綾子かーとか,吹いちゃうところ多しという理由もあるけど,なるほどねぇと思わされるところが多い。「よくわからないけど,スゴイらしい」になっちゃうというのは本当にそうだと思うし,「作品を相対化する視点がまったくない」のはまさに私で,良い解説とともに読みたいなぁと思った。
いろんな本を読んで・読み返してみたくなる。とりあえず走れメロスかな。

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2017年07月12日

Posted by ブクログ

ジュニア新書でなくて新赤版~Ⅰあの名作に、この解説「坊ちゃん」(夏目漱石):敗者の文学(江藤淳・平岡敏夫)赤シャツに理あり(ねじめ正一)「伊豆の踊子」「雪国」(川端康成):処女の主題?(三島由紀夫)人生初期のこの世との和解?(竹西寛子)伊藤整の解説はタルい「走れメロス」(太宰治)太宰の徹底紹介(師匠筋の井伏鱒二)云ってみれば一億人の弟(斎藤)「放浪記」(林芙美子)の解説が迷走するのは、雑記帳の抜き書きが三度にわたって行われたからで、林も改稿に改稿を重ねている「智恵子抄」(高村光太郎):愛の詩集(光太郎死後の編者で光太郎に頭の上がらない草野心平)贖罪のうた(駒沢喜美)Ⅱ異文化よ、こんにちは「悲しみよ、こんにちは」(サガン)<パリの自宅に19歳のサガンを訪問>(訳者で34歳の朝吹登水子)「ティファニーで朝食を」(カポーティ)<ティファニーで食堂があるか質問>(訳者でNY在住の龍口直太郎)「ロング・グッドバイ」(チャンドラー)「グレート・ギャツビー」(フィッツジェラルド):男同士の恋愛小説(村上春樹)「ハムレット」(シェークスピア)テキストは錯綜、上演中に脚本の手直しもされただろうから・昔はサムライ今はサラリーマン(斎藤)「小公女」(バーネット)時代に地位を奪われても優しく下々に接するプリンセス(訳者の脇明子)フランセス・エリザ・ホジソンは二度結婚している(野上彰のあとがき)「ヨーロッパ退屈日記」「女たちよ!」(伊丹十三)1ポンド1008円という1965年の高校生にとって一大衝撃(関川夏央)「書を捨てよ、町へ出よう」(寺山修司)著書との交流をだらだらと書く翻訳家の竹内健「武士道」(新渡戸稲造)「葉隠」(山本常朝)日本人の心をもっともっと知って貰いたい(共通の感想だが、著者も盛ってるんじゃない?)Ⅲなんとなく知識人「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫)「なんとなく、クリスタル」(田中康夫)太陽の季節を含めて事件的作品:知性のための戦い(政治学者の苅部直)()批判精神のあらわれ(文藝賞の選評で江藤淳)資本論!空疎さの批判(高橋源一郎)インテリの悩み(斎藤)「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎):思わず唸った。これはまさしく資本論入門ではないか(はったりと脱線の丸山眞男)「資本論」(マルクス)種の起源の解題(向坂逸郎)「されど われらが日々-」(柴田翔)「優しいサヨクのための嬉遊曲」共に(1955・共産党第6回全国協議会・山村工作隊の解体)解説無しには理解不能「モオツァルト・無情という事」(小林秀雄)江藤淳がすべて解説し小林の内面に寄り添おうとして内面の背後にある伝記的事実は伏せる・私小説を書くように評論を書いていた(斎藤)「Xへの手紙」(小林秀雄)「共同幻想論」(吉本隆明)評論の解説は屋上屋を架す作業(斎藤)「三四郎」(夏目漱石)これは日本の青春小説のプロトタイプ(斎藤)「友情」(武者小路実篤)三四郎の白樺派版(斎藤)Ⅳ教えて、現代文学:文庫解説の出番だぁ(斎藤)「限りなく透明に近いブルー」「半島を出よ」「コインロッカー・べービーズ」「半島を出よ」(村上龍):風俗的な騒々しさと奇妙な静けさ・自閉と破壊(三浦雅士)「点と線」「ゼロの焦点」(松本清張)トリックのキズをクサす解説刑事(デカ)の登場(斎藤)「三毛猫ホームズ」(赤川次郎):意外な犯人……。えへへ。トリックを。……。伏線は……。えへへ。すみません(ミステリーの楽しみ方を初心者に説く辻真先)「ひとひらの雪」(渡辺淳一)どの女もどの女も「もてなす」だけ「ビルマの竪琴」(竹山道雄):アジアへの視点を欠いた戦場小説(中村光夫)「二十四の瞳」(壺井栄):知識人の苦悩(窪川鶴次郎)「夏の花」:生涯をかける文学の主題も限られたものである。深いか浅いか、それのみの問題だ(大江健三郎)「火垂るの墓」(野坂昭如):無残な骨と皮の死に様を悔やむ(尾崎秀樹)「少年H」(妹尾河童)山ほどの解説・立花隆・澤地久枝・椎名誠・・・「永遠の0」(百田尚樹)僕の夢(児玉清)大人のメルヘン(斎藤):::文庫解説は「読者のため」「著者のため」「自分のため」~斎藤さんは1956年新潟生まれの文芸評論家、児童書の編集者を経て、三桁には届かないが、かなりの文庫の解説を書いていて冷や汗もの。(児童)文学に教訓染みた解説はいらない。必要なら自分のための教訓を見つけ出すだろう←そうだよね!だから解説やあとがきを私はろくに読まないのだ。伊丹十三の死についてネットで検索して宮本信子も調べちゃったし、中山千夏が未だ生きていることも確認。関川夏央も。なかなか面白い人物だね、斎藤さん。小林秀雄の女性に対する視線が甘えと侮蔑が混じって感じ悪いって。私、庄司薫は読んだけど、田中康夫は嫌悪感があって読んでない。嬉遊曲って何だ?室内管弦楽だって
引用:日本文学の伝統だ。そりゃあ愛読もされるわね。(二十四の瞳を知識人の苦悩と捉え)気分を共有することで、庶民の戦争協力責任は免責されるからである。…だんだん、「念仏」になってくるのよね。(少年Hへの違和感から)

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2017年06月27日

Posted by ブクログ

岩波新書は、大学の般教の授業に相当するレベル。高校生でも社会人でも手に取れる知識や教養の入り口。高校時代そう言われて読んでいた。

新赤版になってから、くだけた内容の物が増えて、それが悪いとは思わないが、ちょっと語り口が雑誌っぽすぎるのが、最初は良くても、うーんと唸った。但し…ここに取り上げた本たちの解説が

「これ読まないと、本当にこの本は分からない?小難しいなあ…あってもなくても変わらないよ。」

と感じた経験は、私に限らず誰にもあるだろうし、それはちっとも変じゃないんだよと提示したことには意味があると思う。

わかりやすいイコール低俗
わかりにくいイコール高尚でお偉いもの

という誤った定義は、未だになんとなくはびこっているし、おエライはずの作品群も、自分なりに読みこなせれば、その時点で面白い本になりうる。やわらかい本だって、読み手の嗜好に合わなければページを閉じられるだけのこと。

解説って、1ページでも読み進めてさせるヒントだったり再読してみようかと思わせて、本を古書店に持っていくのでなく、本棚の常連にさせ、他のものも読もうかと思わせるためにあるのだから。へんてこりんな教養とか権威とか、まして

「これは俺や私には解っても、お前には分かるまい。だって作者と同じところにいるんだよ私は。」

なーんて自分自慢はいらないのだ。そこを喝破した本書は本当に痛快ではあるし、解説から、ちゃんと近代から現代にかけての文学論や教養主義に対する批評になっているのは、さすがプロのお仕事。特に、文学史的には最近の本だけど、普通の読者にはちょっと古くなった本、の分析的な読みは、地口の軽さに紛らせても、やはり鋭い。

逆に、わかりやすくて言いたいことをはっきり言っている、『わかる文学論』として本書を楽しむ時、女性雑誌っぽい、ネット語っぽいおしゃべりが、かえって邪魔になることがあって。

うわぁ、そんなに軽く喋らないでも、わかりやすい
から、その飾りを省いて下さい…。

と疲れたのも本当。

冒頭に書いたように、岩波新書が、すべての人の教養の、良き入り口としてありたいなら。この本の語り口が岩波新書と思って、他の本に手を出した時、読者が、内容もろくに見ないで本当は面白いかも知れないのに。

「あ、やべ…斎藤さんの本と違うノリ…。
やーめた…」

となりかねないから…最低限崩しすぎず、わかり易さ明快さだけは維持して欲しかった…。

教えてgooなんか、誰でも書けるんだから引き合いに出したらいかんよ。メディアリテラシーって意味では、未だ紙の本の信頼性って高いのだから…。

品下らず、明快。平易。

これ、文庫解説にも通ずるし、新書で執筆する時の
ルールでもあると思う。読者に媚びず、普通の地の文で、これを書いて欲しかった。

難解すぎるのもノーサンキュー。でもブログや2chの親戚みたいなスタンスも信じられないからよして欲しい。

頑張れ!岩波新書!
頑張れ!文庫の中の名作たち!

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2019年09月18日

Posted by ブクログ

名作とベストセラーが綺羅星の如く並ぶ文庫本。その巻末に併録されている、所謂「おまけ」である解説。本書はこれを主役に据え、毒ある筆致で寸鉄釘刺す「解説の解説」書。誰しもが知っている不朽作品のあらすじと作風と時代背景をさらりと舐め、いよいよ“なっとらん解説”の中枢へ。筆法はあくまでも鋭く容赦なく遺漏なくぶった斬り。その多くの指摘は至極尤もで、作家先生ご指名の御用文芸評論家によるものも多く、解説の解説が必要とする「屋上屋を架す」ような難解極まりないものに出くわし、著者は原理主義的命題に辿り着く。「はたして、解説はだれのためのものか」。初読者への理解促進をミッションに掲げるわけでもなく、読書の愉しみをプロモートする任務を買ってでることもなく、言辞遊戯に没入する独善的文芸評論家に筆誅を喰らわす。中々痛快な本ではありますが、文芸に明るくないと、その小気味さを玩昧できないという絶対条件があることを付記しておきます。

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2017年04月24日

Posted by ブクログ

溜飲が下がる・・とでも言いますか。
昔の巨匠をこてんぱんにするところは楽しい。
裸の王様に「裸だ」と言う少年のようですね。

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2017年03月13日

Posted by ブクログ

【目次】Ⅰ あの名作に、この解説 1 夏目漱石『坊っちゃん』 2 川端康成『伊豆の踊子』『雪国』 3 太宰治『走れメロス』 4 林芙美子『放浪記』 5 高村光太郎『智恵子抄』/Ⅱ 異文化よ、こんにちは 6 サガン『悲しみよ こんにちは』 カポーティ『ティファニーで朝食を』 7 チャンドラー『ロング・グッドバイ』 フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』 8 シェイクスピア『ハムレット』 9 バーネット『小公女』 10 伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』 11 新渡戸稲造『武士道』 山本常朝『葉隠』/Ⅲ なんとなく、知識人 12 庄司薫『赤ずきんちゃん気をつけて』 田中康夫『なんとなく、クリスタル』 13 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』 マルクス『資本論』 14 柴田翔『されど われらが日々――』 島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』 15 小林秀雄『モオツァルト・無常という事』 16 小林秀雄『Xへの手紙』 吉本隆明『共同幻想論』 17 夏目漱石『三四郎』 武者小路実篤『友情』/Ⅳ 教えて、現代文学 18 村上龍『限りなく透明に近いブルー』『半島を出よ』 19 松本清張『点と線』『ゼロの焦点』 20 赤川次郎「三毛猫ホームズ」シリーズ 21 渡辺淳一『ひとひらの雪』 22 竹山道雄『ビルマの竪琴』 壺井栄『二十四の瞳』 原民喜『夏の花』 23 野坂昭如『火垂るの墓』 妹尾河童『少年H』 百田尚樹『永遠の0』

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2017年03月10日

Posted by ブクログ

いくら素晴らしくても、いくら「なんだよこれ」な内容でも評価されず放っておかれることがほとんどの文庫解説を、こんなにきっちり読んで評するなんて。相変わらずすごい人です。

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2017年02月27日

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