あらすじ
21世紀日本の重要課題!深刻化する野生動物と人間の遭遇。保護か、捕獲か、駆除か。解決の糸口はあるのか?第一人者による、まったなしの緊急出版!
保護の対象とされている野生動物たち。そのなかでもツキノワグマの存在が、現代の人間にとって深刻な脅威になると、かつて予測できただろうか。今後さらに顕在化する困難な課題として、早くから注視してきた研究者による考察。
はじめに
第1章 平成のシシ荒れ
動き出した動物たち/受け身なクマ/自然変容説から環境適応説へ
第2章 生息域拡大期の現実
1 人喰いグマはいるのか ヒグマとツキノワグマ/肉食するクマ
2 被害の二重構造
2-1 春期 個体間の距離/クマの子殺し行動/行動の同調性/春期の人里出没/繁殖期の出来事/目撃情報の表と裏
2-2 秋期 採食行動の拡散/秋期の人里出没/沈静化する夏
3 むき出しの都市 河川を移動するクマ/痺れる現場/都市という名のフロンティア/人里に依存するクマ
第3章 近世の相克 「シシ荒れ」森の消長と野生動物
1 生きるための闘い
2 旧弘前藩領での出来事
3 動く森の片隅で シシ垣のある風景/近世における鳥獣害対策/村に雇われた猟師/近世から近代へ/山の消長とイノシシの動き/猪鹿害の再発/里山の奥山化
第4章 狩猟の公共性
1 接近する被害現場 ─バリア・リーフ構造の崩壊─
2 狩猟と農耕 狩猟と駆除、そして個体数調整/狩猟と農耕
3 狩猟の公共性
第5章 クマと向き合う
捕獲と威嚇のメッセージ性/規則性と不規則性/ゾーンディフェンスとオフェンシブなアクション/遭遇しないために
あとがき
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
勉強になった
東北在住でクマがちょくちょく街なかまで出現しているので、タイトルにひかれて手にした本書。
戦前や高度経済成長期など、時代を遡ってクマと人間の生活圏や農業林業の経済活動、狩猟の実態など、様々なアプローチでクマの活動範囲に迫って参考になった。
まとめで、都市と山との緩衝帯の設定や熊が街にいる時の人間の対応、また、犬が熊対策に有効など知った。
Posted by ブクログ
田口洋美『クマ問題を考える 野生動物生息域拡大期のリテラシー』ヤマケイ新書。
クマ問題を通じて、自然環境や人間の生活の多様化、変化などに伴う様々な課題について考えさせられる書籍である。
近年、野生動物による被害が増加しているが、その中でも特にツキノワグマによる被害が増加している。かつてはっきりとしていたツキノワグマと人間の生活域が混じわりつつある。
本書の中でも紹介されている2016年に発生した秋田県鹿角市のツキノワグマによる連続人身事故は衝撃的であった。また、近年では人間の生活区域内でクマが相次いで目撃されている。確かにここ数年、身近にクマの存在を感じるようになった。
自分の暮らす地方の中規模都市の街中をツキノワグマやニホンカモシカが闊歩し、街中の病院にツキノワグマが侵入した例も耳にする。数年前には岩手県北上市西和賀の国道で戯れる二頭のツキノワグマの子供を目撃した。また、友人と岩手県一関市厳美の国道脇の山林に入ったところ強い獣臭を嗅ぎ、確実に近くにクマが居ると思い、慌てて逃げたこともある。
人間が開発という名の元に山を破壊し、山のメンテナンスを止めたことで野生動物の生活圏を奪い、さらに里山を放棄したことで野生動物の生活圏を人間の生活圏にまで広げてしまったのだろう。無論、野生動物側の生活変化もあるのかも知れないが、非常に由々しき問題である。