あらすじ
北海道・網走に住む小説家の加納豪は、かわいい妹の彩を溺愛していたが、彩が商社に就職して夕張でひとり暮らしを始め、やがて同期の奥津と結婚することになり悲嘆に暮れる。しかし婚約者・奥津の浮気が発覚し、彩はショックで飛び降り自殺してしまう。奥津への復讐を誓った兄は、奥津を網走に誘い出し殺害する。奥津の遺体を車に隠しアリバイを構築するために夕張に向かう途中、加納は交通事故を起こしてしまう――。
ここから物語はふたつに分岐していく⇒
A:交通事故で人身事故を起こし、殺人が露呈した場合
B:交通事故を起こしたものの事なきを得て、殺人が露呈しない場合
……果たして加納の運命やいかに。
ふたつのパラレルワールドがひとつに結びつくとき、衝撃の事実が明らかになる。
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Posted by ブクログ
自分が人を殺した時に目撃者がいた時、その人間を殺すか殺さないかという、もしかしてのストーリーがずっと続いているのだと思っていたけど、その節々にちょっとおかしいなと思うところがあってそれが残り50ページぐらいになっとる時にようやく違和感が表面化してきて登場人物の量にパニックになって色々整理しながらエピローグを読んでいくとどんでん返しが待っていた。復讐の愛憎劇。
Posted by ブクログ
お初の方の作品。ミステリでもしも〜だったら、をやろうとした意欲作。2つのパターンのお話が交互に進み、主人公はまったく違うラストを迎える。その試みは面白かったんだけど、読んでいるうちに頭がこんがらがって、しかもエピローグを読んでもなかなか内容についていけなかった。まあついていけなかったのは自分の理解力が無かっただけなんだけど。まさか二つの物語の時間軸がそもそも違っていたのにはびっくりした。確かにAは現代ものの割に表現が古いなあとは思ったけども。これを整理してラストに繋げたのは本当に凄い。
Posted by ブクログ
AB2つのIF話が交互に描かれる物語。
『彼女の倖せを祈れない』『彼女の血が溶けてゆく』で主役だったフリーライター・銀次郎が中盤以降登場する。
<あらすじ>
小説家の加納は、愛する妹・彩の自殺に疑惑を感じていた。
そして調査により、妹の婚約者で会社の同僚の奥津が、会社の同僚たちに加納と妹は肉体関係があると風潮したことが判明。
妹はそれを苦に自殺したと判断した加納は奥津を殺害。
その偽装工作を終えて家へ帰ろうとした時、加納の運転する車の目の前に突如男性が現れて、、、、、。
ここから物語は2つに分岐する。
A・・・男性をひき殺してしまった場合
B・・・男性を轢かずに済んだ場合
AB2つの話が交互に進む
Aの場合
加納はひき殺した男性・猪澤の死体を隠し、奥津殺害事件を捜査する警察からも逃げ切ることに成功。
しかも猪澤は奥津を恐喝していたらしく、行方不明扱いとなった猪澤は奥津殺害の容疑者として指名手配される。
Bの場合
奥津殺害現場近くで猪澤に目撃されてしまった加納は、そのことをネタに猪澤から脅迫される日々が続く中、
フリーライター・銀次郎も現れ、彩の事件の真実が見えてくる。
<オチ>
エピローグは銀次郎の記事として真相が語られる。
IFの世界のように語られたABの話。
実はAの話の30年後の話がBだった。
Posted by ブクログ
殺人を犯した直後の行動の違いで、二つの異なるストーリーが同時に描かれる。それぞれのストーリーで切羽詰まった展開が繰り広げられ、やがてそれぞれの終わりを向かえるが…。
些細な違和感も上手く回収してくれているが、構造がややこしいが故に、エピローグの説明してる感が強いのは少しいただけない。
Posted by ブクログ
○ 総合評価 ★★★☆☆
〇 サプライズ ★★★☆☆
〇 熱中度 ★★★☆☆
〇 インパクト ★★★☆☆
〇 キャラクター★★☆☆☆
〇 読後感 ★★★☆☆
〇 希少価値 ★☆☆☆☆
「犯行直後に目撃者を殺した場合」と「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」の二つの設定に分けて「パラレルワールドを描いた作品」だと思わせることがミスディレクションになっている。
プロローグで,「犯行直後に目撃者を殺した場合」の視点人物である花田欣也(加納豪)と編集者の間で「パラレルワールドをテーマにした小説を書きたいんです。」という会話をさせることで,自然と、この作品がパラレルワールドを書いた小説だと思わせている。
実際は,パラレルワールドを描いているわけではなく,「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」は「犯行直後に目撃者を殺した場合」の30年後を描いている。そして,読者にパラレルワールドを描いていると誤信させるような仕掛けが随所に仕掛けられている。
まず,プロローグの花田欣也(加納豪)と編集者の会話で「会話が重複する部分は省略するんです。」と言わせているところがポイント。これにより重複した会話が省略されていると思わせる。実際は,時代の違いが分かってしまうような読者を誤信させるために不都合な会話を省略している。登場人物の名前も誤解を生じさせるように設定。視点人物は「犯行直後に目撃者を殺した場合」では「花田欣也(加納豪)」。「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」では「加納卓也」。いずれも「加納さん」と呼ばせることで読者を誤解させる。また,加納卓也が花田欣也のマネージャーをしているという設定なので,「花田欣也の印税で生活している」など,「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」も「花田欣也(加納豪)」が視点人物だと誤信させようとしている。加納彩という名前も花田欣也(加納豪)の妹と娘の二人の名前として登場している。
こういった仕掛けでパラレルワールドを描いていると思わせるが,話が進むにつれて違和感が出てくる。少しずつ,「犯行直後に目撃者を殺して場合」と「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」の視点人物や登場人物の描写にズレが出てくる。これをパラレルワールド特有のズレと読者に誤解させようとしているのだろう。実際,読んでいるときはそのような読み方をし,「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」のラストで混乱してしまった。
それでは,この作品を読んで大きなサプライズを感じたかというと…それほどでもないのである。「混乱した」というのが素直な感情。何が起こっているのか分からなかったのである。この作品を読んでサプライズを感じようとすると,かなり注意深く読む必要がある。あまり注意深く読むと真相を見抜いてしまうので,適度に注意深く読まなければならない。そうすれば驚けるだろう。多くの人はさらっと読んで最後に混乱するのではないか。そういう作品である。
混乱する原因は「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」4のラストで一気に聞いたことがない人物が登場する点にあると思う。エピローグでいろいろと明かされるがエピローグで初めて分かる情報もある。短い作品だから仕方がないのだが,短い描写で多数の情報を与えられると混乱する。「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」のラストは「加納卓也」の名前を出す程度にしておき,エピローグでもっと丁寧に説明すれば印象が変わったかもしれない。この場合は,冒頭で,さりげなく,奥津行彦と加納彩などの会話で,子どもができたら,「卓也」という名前にしたい…とか奥津行彦の子どもが「卓也」であるという伏線があれば,「あっ」と思って驚ける作品になっていたと思う。
泡坂妻夫的というか,折原一的というか,その手の作者のような技巧の限りを尽くした作品。このような作風は好みなのだが,やや不満があるのは見せ方。一流のマジシャンは手品を知らない人でも驚けるような現象を起こすと思う。この作品は手品に詳しい人を驚かすような分かりにくい現象を起こしている手品のような作品。手品に詳しいマニアの評価が高くなりそうな作品だ。泡坂妻夫はこのような作品は書かなかったと思う。そういった意味では折原一の方に近い。★3かな。
○ 仕掛け
パラレルワールドを描いた作品。パラレルワールドの描写において「会話が重複する部分は省略する」という点が叙述トリックに使われている。プロローグの花田欣也のセリフにより,パラレルワールドが描かれているように誤信させている。しかし,実際は時代が異なる。
〇 「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」
視点人物:花田欣也(加納豪)
被害者1:加納彩(花田欣也(加納豪)の妹)
被害者2:奥津行彦
被害者3:猪澤五郎
被害者1を殺害した犯人:羽賀琴菜
被害者2を殺害した犯人:花田欣也(加納豪)
被害者3を殺害した犯人:花田欣也(加納豪)
時代:1986年
奥津と書かれている人物→奥津行彦
〇 「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」
視点人物:加納卓也
被害者1:奥津進也
被害者2:鈴木太郎
被害者3:花田欣也(加納豪)
被害者1を殺害した人物:奥津卓也
被害者2を殺害した人物:自殺
被害者3を殺害した人物:奥津卓也
時代:2016年
奥津と書かれている人物→奥津新進也
○ 登場人物
花田欽也(加納豪)
ライトノベル作家。奥津行彦を殺害
加納彩
主人公の妹。主人公と近親相関をしていた。投身により死亡。警察は自殺として処理
奥津行彦
近親相関で生まれた子であり,奥津家に養子に出された。
春子
加納彩(妹)の会社の同僚
羽賀琴菜
奥津行彦の元恋人。羽賀琴菜の両親が興信所を使って奥津行彦を調べ,近親相関であることを知り,結婚を反対される。加納彩を殺害した犯人。琴菜は獄中で双子を出産する。この双子が「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」の主人公と殺害された奥津
牧村
興信所の調査員
リン
奥津育彦の母。近親相関を憎み奥津卓也と奥津進也に花田欣也(加納豪)殺害を進める。花田欣也(加納豪)殺害の事件の黒幕的存在
西岡
刑事。「犯行直後に目撃者を殺した場合」では中年
和泉
刑事。「犯行直後に目撃者を殺した場合」では若い方。「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」ではベテラン刑事として登場
猪澤五郎
「犯行直後に目撃者を殺した場合」で主人公が車でひき殺した人物。恐喝をしており,恐喝をするときは「鈴木某」と名乗る。
蒼井
Mというバーのバーテンダー
秋津桃子
Mというバーの常連。花田欣也(加納豪)と結婚する。
加納卓也
「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」の視点人物。最後に名前が明かされる。奥津行彦の子ども。双子の弟である奥津達也と花田欣也(加納豪)を殺害する。
桑原銀次郎
「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」に出てくるフリーランスのライター
猪澤光蔵
「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」に出てくる。週刊標榜にネタを持って行った人物
○ 犯行直後に目撃者を殺さなかった場合の仕掛け
○ 「ベテランと若手」の刑事が来ており,「和泉」という名前が出てくる。しかしベテランの方が「和泉」と分かるように描いていない。若手の方が「和泉」と誤信するように描いている。
○ 一人称は花田欣也(加納)ではなく,「奥津」として描かれている人物は奥津行彦の子ども。