【感想・ネタバレ】熱学思想の史的展開3 ──熱とエントロピーのレビュー

あらすじ

「エントロピー」の誕生は難産だった。熱の動力をめぐるカルノー以来の苦闘をへて、熱力学はやがて第1法則と第2法則を確立し、ついにエントロピー概念に到達する。マクロな自然の秘密を明るみに出したそのエントロピーとは何か。「エネルギーの散逸」とのみ捉えられがちな誤謬を正しつつ議論は進む。第3巻は熱力学の完成とその新たな展開。マクスウェル、トムソンらの寄与とクラウジウスの卓抜な総合化、さらにギブズの化学平衡論により制約因子としてのエントロピーの本性が明らかとなってゆく。論文・書簡を含む多くの原典を博捜して成った壮大な熱学史。格好の熱力学入門篇。全3巻完結。

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Posted by ブクログ

熱学はその問題意識において地球環境の理解と不可分に結合していた。文庫版で3巻にわたり熱学史の発展を通じた熱学思想の展開を眺め、現代社会において熱学的な環境観の重要性を説いている。こんにち熱力学と呼ばれる学問はそれ自体厳密であり、三つの法則をもって閉じている。機械的自然観と独立な、一つの自然観的側面の体現とも言える。
詳細な内容では、クラウジウスがエントロピーによる非可逆性の定量化に至る際、〈補償〉の〈当量〉という概念を経たという話が特に印象に残っている。エントロピーに至る問題意識の提示として、現代の熱力学教育で導入しても良いように思う。クラウジウスとトムソンによる、エントロピーの増大とエネルギーの散逸の概念の差に触れているのは、著者のこだわりだろう。前者は後者を包含し、より広い概念であるという論調だが、振りかえってみれば最終章のまとめへ向けた伏線だった。
第三法則の「発見」の過程は興味深い。熱力学を古典の範囲で完全とするために、トムセンとベルトローによる、反応熱と化学親和力の等量性についての法則を「だいたいにおいて正しい」と考え理論仮定に置くことによって第三法則に至ったという経緯については初めて知った。

エントロピーの導入以降、かなり近代的な議論がすすめられる。熱力学が分かってきたかな―と思ったくらいのタイミングで読むと、とても面白い。

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2014年08月24日

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