あらすじ
エルミーヌの王都リムリアの王立学院で学んでいたカレンスは、父危篤の知らせを受け、急ぎ故郷に帰った。五年前、妹リーンベルが魔物棲みだとわかり若い命を散らしたとき、守ってやることもできず、逃げるように都に行ったカレンスにとって、久しぶりの故郷。だが、死を前にした父に託されたのは、余りにも重い“秘密”だった。一方リムリアには隣国ラバルタの魔導士派遣団が滞在、魔導技術の受け入れを巡り、政治的対立が起こっていた。魔導が禁忌とされてきた国エルミーヌで、新たな道を切り開こうとする青年の戦いを描く『魔導の系譜』続編。第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作シリーズ第2弾!/解説=大森望
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Posted by ブクログ
前作『魔導の系譜』が一組の師弟の成長と絆のお話なら、今作は友情と愛のお話。
時系列が被っているので版元の宣伝ツイートではどちらから読んでも問題なし、となっているけれど、解説で1巻の盛大なネタバレがあるので刊行順に読む方が安心だと思う。
前作の舞台ラバルタでも魔道士は差別の対象だったけれど、今作ではラバルタ以外の国も描かれて、そこでも形は違えど差別は存在することが描かれる。エルミーヌのそれはラバルタにおける苛烈とはまた違ったエグさがあって背筋が冷える……。
今作の主人公カレンスは前作のゼクスと違って恵まれた才能や力はなく、直接差別的な視線を向けられる対象でもない。可愛がっていた妹が魔物棲みと発覚した途端、その兆候に気付いていたにもかかわらず庇うことも行く末を見守ることもせず逃げてしまい、それを仕方がないと思うような弱い人間。だから差別対象とされている存在に直接的な害意はなくとも、間接的にはひどく傷つけているし、そのことに気づきもしない。こう書くと彼がとても酷い人間に見えてしまうけれど、一読者たる自分の現実世界での振る舞いを振り返れば彼を責めることはとても出来ない。それは現実社会における差別に無関心だった頃の自分の姿そのものだから。
このシリーズはファンタジーの世界を描いているけれど、社会の中の差別の有り様については現実社会と変わるところはないように思う。
カレンスが仕方がないと思いながら、もしくは無自覚のうちに傷つけた妹や友人は、当然のことながら彼や己を取り巻く社会を酷く恨んでいる。侮蔑し、殺意すら抱き、カレンスが成長し自らの仕打ちに気付く頃にはその暗くて深い溝は決定的なものとなっていて、とても埋められるような生半なものではなくなっている。
でもカレンスには自らの行いを直視して、許されなくても彼らの傍にありたいという意思があった。これがとても尊いことだと思う。カレンスだけでなく事の次第を知った際のナタリアの潔い謝罪もすごい。そんな行動をとれることを尊敬する。
そしてカレンスに傷つけられた妹や友人は、彼の仕打ちを許せない、裏切りだと感じながらも、彼を愛していた心を捨てることが出来ない。
ここがこの話の好きなポイントだなと思う。一度は罪を犯すほどの暗い澱に囚われて、聖人君子みたいに全て水に流してまた仲良くしましょうなんてとても言えない。長年抱え続けた許しがたさや怒りの感情はそう簡単に忘れられるものじゃない。けれどそれと同時に愛することだってやめられない。そんな感情抱えたことのない私には想像もつかないけれど、相反するものを同時に抱えるのはとても苦しいことだろう。けれど救いでもあるのだろうな。笑顔なんて見せてやるものかと思いながらリーンベルが僅かに微笑んで見せるラストシーンに胸を打たれた。
ところでカレンスの事にばかり触れたけれど、表紙に出てくるもうひとりの主人公(?)アニエスが読んでいて大変気持ちの良い人物で一気に好きになってしまった。彼女は文句なしに作中一番格好良い人物だと思う。
彼女自身がなくしたいと願う差別については話の傍流なのか今作ではなにも進展がなかったけれど、頁の外側で少しずつ社会の有り様が変わっていくようにと願う。
Posted by ブクログ
上手く感想を纏められませんでしたが、メモとして記します。
『魔導の系譜』に続く〈真理の織り手〉シリーズ第2弾。
本作はラバルタの隣国であるエルミーヌが舞台。主人公カレンスは、妹リーンベルが精霊を創り出す能力もつことを知りながらも、妹が「魔物棲み」と発覚した時に何も出来ずに故郷から逃げるように王都の学院に進学します。カレンスは十分に善良な人間で、当時の彼には、それ以上のことはできなかったのでは?と思います。王立学院で自分を貫くアニエスと友になり、経験を積むことで成長できたカレンスが好きです。
ラバルタ(前作の舞台)では、魔導士は差別され虐げられていますが、魔導士の専門機関やギルドがあり、その存在が認められています。一方、エルミーヌでは魔術は魔物の仕業であり魔物棲みと認定されれば神の元へ還され、存在を抹消されてしまいます。
存在しなかったことにされるのは、虐げられること以上に残酷な気もします。色々考えさせられました。
アニエスの設定が面白かったです。良家のお嬢様で途轍もない美人なのに、学業・武術ともに男子以上の実力を持つ男装の麗人。さらに“女性しか愛せない”という気持ちを公にし、世間の目を気にすることなく自分を貫く、気持ちの良い女性だと思いました。
続編も読みます。
Posted by ブクログ
1のラバルタではなく、エルミーヌという国のストーリー。
レオン、ゼクスももちろん出てくるけど、本筋の主人公はまた別の人物。
エルミーヌでは魔術を使える人々を魔物棲みとして処刑していた。ラバルタが幸せに見えてしまうようなこの国で希望を追い求める人たちの話。
Posted by ブクログ
魔法の存在を認めていない国の話。不思議な力を持つものは異端というところは前の国と同じですが、今回は神の元へ返すという名目で処分されてしまうというなかなかヘビーな国。そんな国で少し田舎に住んでる少年が、大きい町で勉強が出来ることに。嬉しいのもつかの間、妹が異端者と判明。後悔する選択をしたことで、苦悩の中、学校へ。家に戻ったあとはある事実がわかってもう今回の主人公は白髪になるかハゲるのではというくらい苦労に苛まれます。ある意味で罰だったのか。気持ちを改めて問題を解決し最後はわだかまりも少し解消。嫌な終わり方ではなく、続きもあるようなので気になります。
Posted by ブクログ
シリーズ2作目ではあるものの、前作とは主人公が違う。さらに時期も前作の何年後ではなく被せている。前作の登場人物も出てくるが、今作の登場人物もキャラクターが際立っており、人物の整理が必要になる。
ストーリーは根底にあるのは前作同様に成長ストーリー。貴族の若者が外に出て友を得て故郷に帰り困難を乗り越え成長する。この作品の中で魔法は便利なテクノロジーと同等だが使える者は天賦の才能を必要とする。そして周囲からは疎まれ妬まれる。ここまで魔法使いが虐げられるファンタジーも珍しい。
まだ続いてるようなので楽しみとする。
Posted by ブクログ
カレンスとアニエスが中心。隣あう三つの国の魔導士の能力を持つ者に対する態度の違うこと!自分達より下に見ながら日常生活の助けとする国、思いっきり蔑みながら武力として利用する国、存在そのものを認めない国。
どの国も所謂普通の人が一番上なのかな。歩み寄って助け合って生きて行ければいいのに‥‥
Posted by ブクログ
おっと…
LGBTをネタにしたのは失敗だったのではないかな。
この題材は現実にあるものであり、Lだけでも数冊書ける複雑で繊細な話。
それをサブキャラで片手間に扱うのは相当チャレンジングでリスキー。
そして残念ながら、マジョリティが持つステレオタイプなレズビアン像から抜け出せていない。
これは苦笑いする当事者の人がいてもおかしくないかも (好意的なのは伝わるから、怒りはしないだろうけれど…)
前作もディスクレシアについて余り作中に生かせてなかったし、現実の社会問題を無理に入れなくてもいいのでは。
ファンタジーの中でのみ成立する差別問題を扱うことで、かえって現実への普遍的な風刺となるだろう。