【感想・ネタバレ】漱石と倫敦(ロンドン)ミイラ殺人事件のレビュー

あらすじ

英国へ留学した夏目漱石は、下宿先で夜毎、亡霊の声に悩まされ、思い余ってシャーロック・ホームズに相談した。このことがきっかけで、彼はホームズが抱える難事件の解決に一役買うことになる。それは、呪いをかけられた男が、一夜にしてミイラになってしまったという、世にも奇怪な事件であった!? 著者が、自信を持って読者に贈る、本格ミステリーの力作。【本電子版は、ルビは総ルビではなく、旧版に基づいています】

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ネタバレ

 島田荘司の作品にハズれなし。素晴らしいホームズ・パスティーシュなだけでなく、夏目漱石のユーモア溢れる文体までそっくりに書いていて、尚且つしっかりと本格ミステリの醍醐味を味わえるのだから恐れ入る。
 謎がとても魅力的。密室状態の部屋で死体が一瞬でミイラ化、外からの侵入は不可能、果たしてトリックは如何に? ミステリ好きなら涎が垂れるであろう。私は垂れた(笑)。

 巻末のエッセイは島田さんの少年期のエピソードが知れて興味深かった。私も世代は全く違えど、小学生の頃の愛読書は江戸川乱歩の少年探偵シリーズだったので共感である。
 本作を「総ルビ版」として再刊行した意義についても触れられており、推理小説(探偵小説、本格推理小説)の読者の裾野が広がって欲しいという願いには賛同しかない。

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2025年01月09日

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ネタバレ

初島田荘司作品。
Audibleにて。

シャーロック・ホームズは、映像作品でしか知らないので読んだことないし、漱石も脱落した人間だけど楽しめました。
自分の好みの文体なのかも。

本編もいいけど、最後のエッセイが素晴らしくて、少年少女じゃないけど胸にじーんと響いた。
そして、作者のことが好きになった。
我ながら単純すぎる。
だけど本当に、この人の作品をもっと読みたいと思った。
絶対読む!
近頃がっかり作品ばかりが続いていたから、余計に感激したのかも。


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2023年03月02日

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ネタバレ

読み終わったあと、ホームズと漱石と、そして島田荘司の作品を「他のも読んでみようかしらん」となる作品であると思う。

正直著者の他の作品を読んでいる方であれば、甲冑が出てきた辺りでなんとなくトリックの肝自体は気づけてしまうような気もするが。

ただ最後の別れのシーンの美しさも然ることながら、未来の小説家に向けた特別エッセイは何故かは分からないがとても心に染みた。














「経験から言えることですが、世の中のことがすっかりわかるまで、書くのを待たなくてはならない理由なんてなにもありません。いくつになってもわからないことはあるし、若い頃にはよくわかっていて、次第に失われる世界や知識もあります。また物語というものは生き物で、もしもそれが傑作なら、書くという行為自体がわからない部分をあなたに教えてくれます。読者にとって意味深い物語は、世の中の仕組みを何も知らない頃に書いたものであっても、不思議に矛盾は現れないものです。それは、あなたという純粋な魂を通し、天の誰かが、世の中に対して語っているからです。もしもあなたがこの本を読み、へえこんな世界もあるんだ、面白かったな、と思ってくださったなら、ちょっと書くことも考えてみてください。あなたの内側に、あなた自身も知らない、巨大な書く能力が潜んでいるかもしれません。ぼく自身小学生の頃、自分の内部に物語を書く力が潜んでいるかなんて、考えてもみませんでした。野山を駈けめぐったり、絵を描いたり、野球をやったり、模型を造ったりする力はあると思っていましたけれどね。」

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2024年01月20日

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ネタバレ

んんんこれは評価が難しい。
いや面白いことは面白かったのだが。

夏目漱石の渡英時期・下宿先がホームズの活躍時期・ベイカー街に近しかったことから、両者が邂逅する物語。
夏目視点とワトスン視点が交互に描かれるが、同じ出来事なのに描写が大きく食い違う。
特に夏目視点のホームズは酷いの一言で、完全な狂人、しかも周囲はそれを踏まえて腫れ物のような接し方。
ここに何か大きな仕掛けがあるのかと読み急いだが、そうではなかった。

中でもショッキングなのが、モリアーティは架空の人物だとワトスンに言わせたこと。頭がおかしくなる前のホームズの活躍は確かだがモリアーティ関連はワトスンの創作だと言う。最後まで読んでもこれは覆らなかった。
シャーロキアンには噴飯ものではなかろうか。それとも、世の中にはホームズパスティーシュが溢れ過ぎていて、なんでも来いという心境なのだろうか。

冒頭で、「夏目視点の描写には少々脚色がある(意訳)」という注釈があるのを加味しても説明がつかない。
ワトスン視点の描写があまりに本家の再現度が高いため、かえって「夏目視点の方が真実なのでは?」という錯覚に陥らせてしまう。しかし夏目視点の方も夏目優位に書かれているはずと考えなければ公平ではない。
この作品を読んで自分が夏目寄りに感じるのは、自分が夏目作品の教養がないために夏目の作風を感じ取れていないのかもしれない。それがわかったら、「夏目視点の描写も大概嘘っぱちだろうなぁ」なんて感覚で双方を面白おかしく読めるのだろうか。

とにかく、作者がなぜこのような書き方をしたのか意図が読めない。
正直、作者が島田荘司という信頼のおける大作家でなければ駄作と断じていただろう。
しかしこのようにつらつら感想を纏めていると、こう考えを巡らすことにこそに意味があるのかもしれない。

なお、最終章は文句なしに素晴らしく、こんなにも戸惑うのに読後感は爽やかという不思議な作品だった。

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2023年11月08日

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面白かった。
ロンドン留学中の漱石が、下宿の幽霊もどきに困ってホームズに相談にゆき、そこから一緒に殺人事件の捜査に当たる、って設定からして面白くないわけがない。
密室の中で一夜にして人がミイラになるという殺人事件も、島田荘司ならではの不可能設定だし、漱石視点とワトスン視点で描かれるホームズの様子の違いもユーモラスだし、いやさすがに読ませるなあという感じ。
漱石視点の「ホームズさん」ほんとにやばくてねえ……。ワトスン視点も、漱石視点と合わせるとオイオイって感じで。どちらの文体もこってりしていて島田節全開。

トリック自体にはそこまでの目新しさもないんだけれども、設定と描写の妙で面白さが増している感じ。
ホームズ短編からの小ネタも満載で、ホームズファンなら倍楽しめる。
猫のシーンもまた、漱石小ネタ。
リンキイ夫人を訪ねてコンウォールに行くシーンとか、テムズ川の別れのシーンなんかには、作者特有のロマンチシズムがあふれていて、ジーンとしてとてもよかった。
異文化理解、相互理解の先にある、人類愛というのかな……。

年少者も楽しめる総ルビ!ということで、子どもにも勧めてみたけど、ミイラ殺人事件というタイトルで「こわいからいい」と断られてしまった。コナン読んでるのに!? まあ、まだ漱石のことも知らない低学年のうちに読むよりは、もう少し大きくなってからの方が楽しめるかもしれないな。

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2021年06月15日

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 正典をミステリと捉えている人には少し物足りないトリックかもしれないが、冒険活劇、あるいは人間ドラマとしては十分面白かった。
 おかしくなってしまったホームズにずっと付き添っているワトソンは心が宇宙より広いというか神のように慈悲深いと言えばいいのか分からない。恐らく『語り手』としての役割を与えられたために当人の人格描写が半端になっているのだろうが。極度のワトソニアンでもなければ許容範囲と思われる。

 ワトソンサイドの文体が延原訳風味になっているのには思わずにやりとした。挿絵のタッチがどちらの視点かによって変わっているのも良い。

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2013年11月19日

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以前読んだ『吾輩はシャーロック・ホームズである』と同様ホームズと漱石のコラボものであるが、個人的にはこちらの方が断然面白かった。

謎は少し簡単で、すぐトリックとかがわかってしまうので純粋にミステリとして読むと甘い感じがするけど、読ませる文章力と、何よりワトソン視点と夏目視点でのホームズの違いが面白かった。
夏目視点でのホームズは中盤まで(特に序盤)はえらいことになってる。
あまりにワトソン視点と違うのでどっちが真実に近いんだろうと悶々とする。
なのでホームズは完璧な人じゃなきゃいやだ!って人は読まない方がいいかと…。
私はこんなホームズだとしても好きなんですが。

最後は感動もあり、気持ちの良い終わり方で良かったと思います。
私が夏目漱石についてもっと詳しければもっと楽しめたんだろうなぁとも思いました。

ちなみに同じくホームズと漱石もので山田風太郎の『黄色い下宿人』というのがあるのですが、なんと家にあってすでに読んでたことが判明したのですが、当時ホームズに全く興味が無かった私はほぼ忘れてしまってるのでこれを機に再読したいと思います。

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2013年10月19日

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夏目漱石がロンドン滞在中に、名探偵シャーロックホームズと知り合う。
夏目パートとワトソンパートで物語りは進む。
ワトソン視点では従来のように多少の奇行はあるものの、紳士的で理知的なホームズ。
しかし夏目視点でのホームズの扱いがすごい。
ホームズの女装に対して”皆は見事な女装に、ホームズだと気がつかない”のではなく、
”ホームズだから、係わり合いにならないように、気がつかないふりをしている(気持ち悪いし)”といった風な表現。
読み進めるうちにこの落差が逆に快感に思えてくる不思議。

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2013年06月01日

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島田荘司を初読。ホームズ作品への愛が満ち満ちている作品でした。展開の仕方がまるでコナン・ドイルが描いたホームズのようで、安易なパロディとは括れないレベル。漱石とホームズが同じ時代、同じ場所に居たというのに驚いたし、実在の人物と非実在の人物のコラボレーションというのも面白かった。何より素晴らしいのはラスト。お互いのプレゼントがとても素敵でした。

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2012年07月22日

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推理そのものよりも、最後の帰国による別れのシーンのここで明かされるメモの答えが素晴らしい。ホームズのバイオリンのシーンも含めて。それだけでも読む価値があるものであった。それに、ワトソン目線と漱石目線で細かく違うのがまたいい。解釈なのか言語によるニュアンスなのか忖度なのか、考えるだけでも楽しい。

岡圭祐さんの「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」の時も思ったことだが、ホームズのシリーズも読みたいものだ。60作もあると言うのでなかなか手をつけるのにも躊躇うところだが、また興味が湧いてきた。

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2022年12月23日

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私には漱石風の文体が漱石風であって、漱石では無いと感じてしまった。でも、漱石とホームズがお好きな方は是非一読されることを勧めたい。

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2018年08月26日

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