あらすじ
何があっても変わらずに、笑っている。あの人はそんな“冷たい”人だった――。社命で携わった仕事に贈賄の容疑がかかり、失踪した望月正幸。正幸の浮気相手、妻、娘。変わることを余儀なくされた人たちの思いは。希望は訪れるのか。一言一句にいたるまで確かな手によって掬い取られた詞藻豊かな連作短編集。繊細にして力強い心情描写は至高の域ともいうべき。『羊と鋼の森』と時を同じくして書かれた傑作、待望の文庫化!
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Posted by ブクログ
たぶん、この人の書く文章がとても好きなんだと思う。本格ミステリーでも恋愛小説でもないけれど、読めてよかったと感じた作品。
感情を文字に表す技術とはこういうものなのかと知る。
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宮下奈都さんの雰囲気が、改めて好きだと思った。小さなボタンのかけ違えで失敗するし落ち込むし孤独になる。けれど、いつかそれが掛け合わされる時は必ず来るし、救われることはなくても和らぐことはある。そんなふうに思えた作品だった。
Posted by ブクログ
やっぱり宮下さんの作品が好き。
言葉がこんなにスっと入ってくるのはどうしてなんだろう。
贈賄を犯した望月正幸の話かと思いきや、望月のまわりの人の話。事件は主題に置かれていなくて、事件の影響で「逃げる」ことが必要になった人々の話っていうのが正しいかな。
次は誰の話だろう、と思いながら読んだ。何人か出てくるけど個人的にはハズレの話がない。
宮下さんの作品は常に「どこかにいそうな人」しか出てこない。だからこそ共感できる人も多いだろうし、心理描写がリアル。
読み終えたらちょっと心が温まる、心地よい読後感。
Posted by ブクログ
いいものを読ませていただきました…というのが本を閉じたあと最初に湧き上がってきた感情でした。最初はミステリー的な内容なのかと思ってたけど、見るべきところはそこじゃなかった。
昔の自分が「人に隙を見せることなく生きていくこと」こそが大事なことだと信じ込んで、振り返ってみれば窮屈な人間だった気がするなぁ…というのを思い出しました。じゃあ今はどうなんだって話なんですが。
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本を選んだ動機が不純で、読み終えて自分が嫌になったし、却って吹っ切れた部分もあった。
やっぱり宮下奈都さんの書く文章は美しくて胸を打つ。大好きだ。
「相手の幸せ」ってなんだろうね。
夫婦や愛人や友達恋人。
それを一番に考えられて、行動できるって、わたしにはできない。
この物語に出てくる人たちは、みんなそれぞれ一生懸命で、相手のことを考えていて、きっといつか救われてほしいと読んでいて思わされる。
いつか、あの家族は出会えるんだろうか?
幸せになれるんだろうか??
終わり方が秀逸。
だけど、そんな人でも不倫するんだな…
誠実そうな、結局家族が一番なひとでも…。
どうしてそうなってしまったんだろうね。
このお話の中では重要度はあまり高くないとは思うのだけど、宮下先生ならどう考えて、どう表現されるのか、気になる。
私は作家さんを人生相談のプロだと思ってるところがあるらしい。笑
Posted by ブクログ
逃げる弱さと逃げる強さ。その先にあるものとは...。前半3編は重く苦しいが、4編目以降は一歩を踏み出す勇気をもらえる。秀逸なプロットと最終話での心温まる展開にふっと落ちてくる安堵感...。いいね! すごくいいですよ!
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変わってしまうことが普通なのに変わらない望月さんが怖くて、変わらないことを恐れながら生きていくのに、それでも変わっていくのはどうしても変えられないから、それをどういうふうに自分らしく大切にしていくんだろうと考えさせられた。
クールだったルイが笑って、父親の面影を残してることが救いでもあるし、変わってくことだけど変わらない事実でもあるんだなとおもった。
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「今までの宮下奈都さんとは違う感じだけど、読んでみて。面白いと思うよ。」
そう娘が話してくれたその前日に、この本を買っていた。不思議な偶然にビックリした。
宮下奈都さんは、なぜこうも謎解きをしないんだろう。ミステリーよりもミステリアスな展開に、彼女の拘りと視点と深みを感じ、さらに彼女が好きになる。
逃げろ。逃げるな。諦めろ。諦めるな。
「逃げてるように見えても、地球は丸いんだ。反対側から見たら追いかけてるのかもしれねーし」
こう思えば、一歩が踏み出せるかもしれない。
「自分に正直でいれば、すべては自分で選んだことだと納得することができます。」
Posted by ブクログ
共感できるフレーズがたくさんあった。だからこそ過去の傷を抉られているような気がして苦しかった。
でもそれが快感だった。自分の感情が言語化されているからだろうか。共感してもらえた気になるからだろうか。登場人物に「読書はせっかくの逃避なのに」と言われてしまいそうだ。
Posted by ブクログ
贈賄、ひとりの会社員が失踪…という始まり方から、真実が明かされる系なのか?じゃあ、「たった、それだけ」は何のことなんだろう?という風に読んでいました。
気付いたら真実の解明ではなく、各話の登場人物の過去と小さいけれど確実な変化を追いながら、、ラストはあたたかい気持ちになります。でもちょっと贈賄の件の真実も知りたかった…(笑)
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良かった。ただよかった。
望月さんを巡るお話。
好きな人を売ってしまうこと。それを受け入れて逃げること。涙という名前。奥さんの窮屈さ。
心に残ってる
Posted by ブクログ
続きが読みたくて、気づいたらAM2時でした
涙と書いてルイという名前の女の子が、これからの人生を幸せに過ごせるように、心から応援したくなる物語です
Posted by ブクログ
第5話までの主人公は怖くて、「聞く」ことができない人だったけど、第6話の大橋くんは「聞く」ことができる素直さを手に入れた人。
最後に円を描くように1話1話が繋がるので、読みやすかった。
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ルイが心を病まなくてよかった。
可南子に対しても、受け入れる感情を持ててよかった。正幸がなぜ贈賄に関わることになったのか、浮気癖は本当にあったのか、可南子への愛情は本当はどうだったのか、は謎のままだけど、ラストでもしかしたらこの親子が再会できるのかも、と思わせて救いがあった。
続篇があるといいな。
Posted by ブクログ
贈賄が発覚前に逃げ出した望月正幸をめぐる人々、贈賄を告発した望月の愛人、望月の妻や姉、一人娘などを主人公にした連作短編。
詞藻豊かな表現ながら、余りに物語の余白が広いために、最初の1・2話は戸惑いの方が大きく。読み進めるうちに物語の流れは判ったものの、登場人物達の性格が捕まえきれず、その「思い」に置いてけぼりを食わされた感覚が続きます。
回収してない伏線も沢山あるのだけれど、最終章で物語は見事に円環を閉じ、そうした事はどうでも良くなってしまいました。
お見事です。
Posted by ブクログ
後半に向かっての物語の加速度が半端ない。後書きも含めて素敵すぎる。
人生って本当に色んな人と、その方からもらった言葉とその時の感情と一緒に生きてる。
ルイちゃんの未来がとても幸せで素敵なものとなりますよぉに。
Posted by ブクログ
死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いなら、そこから逃げてもいい。そして、もし死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いのではないかと思うような人が近くにいれば、「どうしたの?」と声をかけてみる。悲痛な声を聞いてあげる。「たったそれだけ」のこと。あなたが聞くことで、もしかしたらその人は苦しみから逃げることができるかもしれない。もしあなたが声をかけることができず後悔してしまうことになれば、それは将来、自らの苦しみとなる可能性がある。もし声をかけたることができたら、それは将来、自らを苦しみから逃すことになる…そんなメッセージが本作から伝わってくる。
「逃げるということは、むしろ前へ進む方法かもしれない」この言葉に妙に納得して、ずっと頭から離れない。非難するのではなく、受け入れる気持ちを持ちたい。
賄賂の罪を不倫相手から告発され、失踪する望月。
14歳の夏休みに自殺をした同級生・加納くんに声がかけれなかったことを今もなお悔やむ夏目。不倫相手の望月正幸が賄賂で苦しんでいると思い、その苦しみから逃すための行動であったのだと思った。
一方で、好きな人を裏切った行為に夏目の複雑な気持ちもわかるような気もする。
失踪した望月正幸の妻・可南子。夫の不倫、夫の失踪…夫のいない家に可南子と残された子供ルイ。そこにもう一人の彼女が現れる。
悶々とする日々で彼女が出した結論は、もしも夫が変わらないことで可南子たちを守ろうとしたのであれば、「私も変わらずにあの人を待つ」。
「ただ、待っている。笑顔じゃなくていいから。あの人が無事に生きのびて、私とルイも無事に生きのびて、どこかでまた会えることを。」
それほど強い精神力を持っていない彼女が、この決断をしたことに、なぜか誤った方向に向いているような気がしてならなかった。
純粋無垢な望月の少年時代を5つ違いの姉・有希子の視点で回想する。
有希子の元に警察が来る。横領の罪で失踪していることを知った有希子。やさしい弟。まっすぐな目をした弟。涙を必死に堪えたいた弟。弱い弟。そんな弟が失踪、贈賄?ありえない。
少年だった正幸が姉に投げた言葉「辞めなければよかったの?辞めたら逃げたことになるの?あきらめちゃだめなの?」が、今の望月自身の行動にリンクしているように感じて、悲しくなった章であった。
小学三年生のルイが田舎の学校に転校してきた。担任の須藤は、前学校で訳ありの退職をしている。そのせいでどうしてもクラスに馴染めないルイに一歩踏み込んで話をすることができない。
ルイの差し出した手がたったそれだけで須藤の葛藤と克服の一歩の助けとなるところに、ちょっとした勇気とタイミングの大切さを改めて感じた。ちょっとしたきっかけ、ちょっとした言葉で、知らない間に人を助けているともあるのだと思えた。
高校生になったルイ。「クール」なルイに黒田トータが突然告白する。大きな身体、ごつい手、太い眉。見た目はいかつい、いかにも喧嘩の強そう高校生のトータ。が、見た目とは異なりルイに向ける言葉はとても誠実で、いつしか心ごトータにむいていくルイ。
きっと、寂しかったのであろう。幸せにならないことが、父への復讐だと思っていたところに、それを否定するトータ。その言葉をルイは待っていたのではないか。父を恨まなくてもいいよとそう言ってくれる人を待っていたのではないかと…
だからルイはトータと一緒にいるのだろう。
介護施設で働く大橋の同僚にベテランの益田という男性がいる。大橋の観察では「歳はとっているけれど、整った顔立ちをしている。朝から晩まで、ときに夜勤まで、決して楽ではない仕事を黙々とこなし、それでも一切不満を口にすることはないこの人の端正な顔が俺は少し怖い。」
この益田が、実はルカの父親、失踪している望月ではないかと思うのだが…ただ、名前も違うし、町の運営する介護施設であれば身元をだますなんてこともできないだろう。でも、やっぱり望月のような気がする。
ここでも、黒田トータの言葉と行動が大橋の人生を変えたことを知る。
ちょっとした言葉、思いやりで人の人生は、大きく変わるのだと感じた作品であった。自分の発した言葉によって時に背中を押されたり、引き戻されたりと、もしかしたら知らず知らずに人の人生に大きく関わっていることがあるかもしれないと感じる一冊であった。
私が今まで感じていた宮下奈都さんとは違ったイメージの作品であった。
Posted by ブクログ
連作になっている。
父であり夫であり上司の罪から物語が始まり、妻、子供、不倫相手等々の連作。
んー、私には何ともモヤモヤして中途半端に終わった感じがした。
でも巻末の解説を読むと[最後はとても満ち足りた気持ちで本を閉じた]とある。
確かに解説を読むと、【なるほど】とそうゆうことかと思いはしたが私は満ち足りた気持ちにはならなかった。
Posted by ブクログ
今まで、逃げちゃダメだ、諦めちゃダメだと、自分を追い込んでいたことに気づいた。
逃げも諦めも、自分や誰かを守るための行為なのに。
逃げて何が悪い。今はそう思える。
Posted by ブクログ
一気に読んでしまった。
謎解きのような要素もあり、色々な登場人物の立場から描かれていてあの時こういう感情だったんだと当事者と他者との比較をしながら読めた。
最後はどうか幸せな巡り合わせがありますようにとかすかな希望が持てる気持ちの良い本でした。
Posted by ブクログ
「たった、それだけ」ってことはない 「羊と鋼の森」が好きで手に取った宮下さんの本です。本を読んでいる自分を客観的に見る機会を与えてもらいました。作品によって楽しんでいたり、懐かしんでいたり、考え込んだり、場面によっても変わりますが、私は基本的には自分の過去と照らし合わせて懐かしんでいるように思いました。私は二度と同じ人生は繰り返したくありませんが、自分のことは好きです。たった、それだけ。
贈賄の罪に苛まれる様子や、逃避行の様子が描かれているのかと思いましたが、容疑者の周辺の人生にスポットを当てていたのが印象的でした。
「たった、それだけ」、「たった、それだけのこと」、「たった、それだけなの?」どう捉えるのが正解なのでしょうか。悪いことは思いだしたくない、良いことは汚したくない、いづれにせよ時間というものに覆い尽くされていくのではないかとおもいます。
Posted by ブクログ
人は過ちをおかすのか、いつの間にか過ちに飲み込まれているのか。突然、居なくなった人。もし、あの時こうしていればと周りの人は後悔を抱く。「決して触れてはいけない幸福な記憶」のみ抱いて生きていく。悲しいのか、幸せなのか。
Posted by ブクログ
宮下奈都さんらしい、丁寧で精巧なあたたかい作品。
話の運びも面白く、分量も多くないため、時間にゆとりがあるならば1日でサクッと読むのにとても良いと思います。
Posted by ブクログ
贈賄犯として逃亡者となった男の周囲の人間による連作短編。
愛人である女性がずっと語り手かと思ったら、妻や姉が出てきて意外だった。
そして、娘に「涙(ルイ)」と名付けた理由は最後まで分からなかった。そういうことや、何人も愛人を作った心情とかが明らかになるのかと思ってたんだけど。
最後がああで、あっけないというか、え、それだけ?となってしまった。
Posted by ブクログ
再読。
連作短編、短いのであっと言う間に読めます。
後書きにもあったけど…
内容的には居た堪れない、
窮屈な感じもするのに
読み終わったあとは満ち足りた気分になる!
「涙」に込められた真意は分かったけど、
でもやって良いことと悪いことの分別は、必要だし
大人でしょうよ…ってなるんだよなぁ…。
解説で、ふむふむとなる。