あらすじ
13世紀、フランス。 “天啓”を受けた羊飼いの少年・エティエンヌの下へ集った、アンヌ・ルー、ベッポら数多の少年少女たち。 彼らの目的は聖地エルサレムの奪還。 だが国家、宗教、大人たちの野心が行く手を次々と阻む――。 直木賞作家・皆川博子が作家生活40年余りを経て、ついに辿りついた最高傑作。
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Posted by ブクログ
世界史上、有名なエピソードに基づくお話。
「少年十字軍」と言えばいい印象を持っておられる方は少なかろう。
当時のヨーロッパや聖地をめぐる云々、縁のない日本で育ったものにはなかなか理解しがたいものがあるし、安穏と状況に納得いかぬことが多々ある。
それはおそらく、当事者においても同じことであったろう。
哀れな少年と彼をめぐる仲間たち、愚かな大人、誰一人幸せを享受できぬまま終わるストーリー。
この先、彼らに平安が訪れるかどうか、かすかな希望すら打ち消される不安感。
ヨーロッパや中東、アフリカ北部は歴史的にもこの先安定することはないことを知っている現代のわたしたち。
悲哀のもとに終わってゆくであろう彼らに、つかの間の安息を願ってやまない。
著者は昭和5年生まれの方、ということだが、古さを感じさせないどころか、新人作家のようなみずみずしさを含んでいる。故に作品中の哀れな人々の描写を冷静に受け止めることができた。
前知識がなくとも楽しめる1冊なので、機会があれば是非読んでいただきたいお話である。
Posted by ブクログ
クライマックスの『試練』『選択』の残酷さよ……
が、この二つこそが人間が一生負い続けるものなのかとぞっとした。
なんといっても作者の筆力の素晴らしさ。手に汗握ってしまった……
物語としても、これだけの人数が出てくるにも関わらず、一人一人が生き生きと活写されている。
十三世紀という時代、どれだけ「神」という存在が人を救い、その何倍も人を苦悩させたのか。正直、何もかも「神」中心になる当時の人々の心情には寄り沿えないが、無垢な人々がいるのと同じくらい、狡猾に「神」を利用している人々の逞しさにも感心させられた。
キャラクターがすべて素晴らしい。
ラスト、「無」から生きる手ごたえを取り戻したいと思ったガブリエルの目に、実はルーこそが神のように見えたのかも、なんて思ったり……