【感想・ネタバレ】羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季のレビュー

あらすじ

太陽が輝き、羊たちが山で気ままに草を食む夏。競売市が開かれる秋。羊を死なせないよう駆け回る冬。子羊が生まれる春。羊飼いとして生きる喜びを、湖水地方で六百年以上つづく羊飼いの家系に生まれた著者が語りつくす。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

作者はイギリス湖水地帯で600年続く牧羊農場に生まれた。イングランド北西部、マターデールと呼ばれる渓谷で、遠くにペナイン山脈を望むこの地で、フェル(小さな山)で在来種の羊、地域に合った伝統的な羊(ハードウイック種)をいかに持続させていくかを考えながら牧羊を行ってきた。
この風景はここに住む人々が作ってきたものであり、その名はここに住むものしか知らない。彼は「おそらく100年後には、私が羊を山で放牧していたことなどなんの意味もない事実になる」と自嘲気味に語っているが、この本によって、少なくとも人々の記憶には残り続けるだろう。(2023年には続編『羊飼いの想い』も書かれている。未読)

羊飼いたちは先祖から受け継いだ膨大な知恵と、自らの経験を積み重ね、経験に基づく知識を持っている。決して「無知な」農民ではない。にもかかわらず、それを知らないものたちが彼らの生活を脅かすことがある。
都会からやってきたものたちだ。憧れだけで移り住み、彼らの伝統的な方法を理解しないばかりか蔑む様子も描かれる。リーバンクスは皮肉を込めた文章を書いている。

羊を生業とする一年がどれだけ過酷である事か。群れのすべての羊を記憶し、優秀な羊の血統を保つために交配し、納得のいく価格で駆け引きをし、売り買いをする。肉体を極限まで使い、羊のために、最優先に時間を使う。
血だらけの手、出産、動物の死は当たり前の日常であり、彼は子供達にもその現実をきちんと見せるようにしている。子供達が父親を尊敬し、自分も役に立ちたいと行動する姿は誇りに満ちている。
一方で、湖水地方の美しい自然や、四季の美しさ、羊にとっても人にとても過酷すぎる、厳しい冬でさえ美しさに見惚れることがあるという。渡り鳥にも詳しく、リーバンクスは、フェルにどんな鳥がいつ頃渡ってくるかもよく知っており、その描写は私を喜ばせた。
ビアトリクス・ポターも人生の後半は羊飼いとして過ごし、湖水地方での彼女の評判はそちらの方が高い。リーバンクスは、羊飼いとしての彼女をとても尊敬している。

さて、いよいよ彼は羊飼いになる。オックスフォードを出ればもっといい仕事に就けるはず、と言われたが、それは彼の価値観にない選択だった。彼にとっての生き方は、故郷に戻ってそこで暮らすこと、それしかなかった。

教養とは、たとえ自分1人しかいない孤独な土地でも、退屈せずに生きていける力だ、と野田知佑氏の本で読んだ。(どこかからの引用だと思うが)
リーバンクスは1人ではないが、読書が彼の教養であり、家族がその力を後押しする。それでもここでの暮らしが孤独なことに変わりはない。彼が祖父から、そして父から、反抗しながらも受け継いできた意味を、今になって理解しながら、暮らし続けている。

羊飼いであった、河崎秋子さんがこの本に相応しいあとがきを書いておられる。(というより、もう、この人しかいないでしょう!)河崎さんのエッセイ『私の最後の羊が死んだ』もぜひ!

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2024年12月30日

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