あらすじ
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手にあいた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る知らない男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く二編を収録。
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Posted by ブクログ
表題作の「穴」だけ読んだ。
このホラー感は何?
小学生の夏休みの不思議な体験の大人版という印象。
読んでいてずっと気持ち悪さがまとわりついてくる感覚がかなり良かったですね。
(追記)
「いたちなく」「ゆきの宿」の二作もかなり良かった。こちらのほうがまだ怖くなくて良かったかな
なかなか読み解けていない部分もあるが、面白かったですね
Posted by ブクログ
表紙やタイトルの印象からカフカや安部公房のような小説なんじゃないかと勝手に想像していた。その予想は部分的に合っているところもあれば違っているところもあった。どちらかといえば不条理よりも現実の方がまさっている。
「穴」は、夫である宗明の転勤にともなって、夫の実家敷地内の別棟に住むことになったあさひが体験する不思議な出来事を軸に話が展開する。引きこもりの義兄らしき人物や、認知症の進んでいる高齢の義祖父、世話焼きでなんでもテキパキとこなす姑などと、どう関係を築いていったらいいのか戸惑うあさひ。そして謎の黒い獣の存在。その動物を追って河原の穴に落ちる。それほど深くはないのに、なかなか這い上がれず、たまたま通りかかった近所の世羅さんに助けてもらう。
それまでは同じ県内の都会で仕事も持っていたあさひだが、この田舎に引越すのをきっかけに辞めた。話のラスト、義祖父が亡くなったあと、あさひはコンビニでバイトを始める。この作品は、主婦デビューするあさひの出発の物語かも知れない。都会とは違う論理で動く地方の生活。そういう「現実」に少しずつはまってゆく感覚の描写が、この小説の読みどころであろうか。
併録されている「いたちなく」「ゆきの宿」はどちらも斉木さんという夫の大学時代の友人とその妻洋子さんとの夫婦同士の交友が描かれ、よりいっそう「現実」にそくした内容になっている。
Posted by ブクログ
すごく現実的なところもあるけど、なんかちょっと変、いややっぱすごく変?その絶妙な加減がすごく好きです。
あさひも何かよくわからないけど、そういうこともあるのか?と思いながら、慣れない田舎生活で感覚がおかしくなってるのか?その感じが大げさになっていなくて面白かったです。
穴に落ちた時、きれいにすっぽりしかも微妙な深さ?!で、何だこれ、、と私も呆然としました、、出れそうでなかなか出れない、、
助けてくれた御婦人も何となく奇妙で。
謎の黒い獣もいなさそうで、いそうな微妙な姿形。
義兄はずっと変わった人だけど身なりは小綺麗でちぐはぐで、義祖父がいったいいつまで水撒きをしてるのかすごく気になったけどあさひはずっと最後まで見ているわけでもなく。
田舎の風景も、真夏の昼間の誰もいない道や人の気配を感じない家、草むらの生物や何を踏んだのかわからない感覚はちょっと怖い感じがしました。
他の作品も読みたくなりました。
後の2編の短編も良かったです。
仲悪くはなくて、むしろ良い方だけどお互い大事な部分を理解し合うみたいなのはあまりないのがリアルな感じがしました。
Posted by ブクログ
静かに流されるがままに進んでいく時間
間に入り込んでくる違和感
もしかしてホラーか…?て思う不穏さがあるけどそんな事はなくてスッと終わっていく。
独特の余韻が良い
Posted by ブクログ
穴は難しかったです。姑からの振込依頼のお金が足りなかったこと、水を撒き続ける義祖父、黒い獣、義兄や子供たちの存在、そして穴。
色々考察してみたがわからないことが多い、だが一つだけわかるのはコンビニで働き始めてからは日常がもどったことだけだということ。
いたちなくは妻の語りが不気味でラストもよかった。
Posted by ブクログ
第150回芥川賞受賞作。表題作に2篇の短編を加えたものが本書です。
古今東西のさまざまな文学を渉猟し、吸収して、敬愛の情を持っている人が書いた作品という気がしました。膨大に読みこんだ読書経験の量を背景に持っているので、どこかブルドーザー的な力強さを執筆に転じて発揮できているのではないか。
以下、ネタバレのある感想と解釈です。
見たことのない獣を追って穴に落ちる主人公の主婦・あさひ。主人公にとってはずっと問題のなかった「世界」を見る視座が、穴に落ちたあと気付きもせずにぐらりと変わっているといいますか、世界のほうがごろっと妙な角度に曲がってしまうといいますか。そこも僕には、読んでいて物理的に穴に落ちたシーンにはとくに何も感じず、そこが過ぎてしばらくしてから「ああ、穴に落ちたというのは……」と時間差で違和感が生じてきたのでした。継ぎ目を感じさせない移行の仕方を作っているのはすごい。
それで、僕が感じたこの移行による違和感はなにかというと、まずは「混沌」という言葉が浮かんできます。主人公が驚くようなことがいろいろ起こって、その事案にたいしての理由付けがうまくいっていないために混沌が立ち現われている。これは読者もそうなんです。主人公はうまく飲みこめていないけど、読者にはわかっているという種類の小説ってありますけども、この作品はそうではありません。細部の奇妙さは奇妙さとして断定されているように読めてしまう。それはまあ、疑って読めばいくらでも疑って読めます。しかし、自ら罠にはまっていきたがるチャレンジ精神をかきたてられるようなものがこの作品にはありました。もっと洞窟の奥深くへいってやろうじゃないか、というような気にさせる。そうしてうまく転がされます。言い方を換えれば、ぞんぶんに読者を作品世界に泳がせてくれるわけです。
で、次は「認識」という言葉から考えていきます。小山田浩子さんは認識というものの扱いが巧みなのです。主人公が自分の周囲の世界をどこまで明確に認識しているか。ある認識はべつのものを認識するときの助けになり、反対に妨げになるときもあり、ときに屈曲させてしまうものにもなる。そして、主人公は物語世界のなかで認識の解像度を上げたり上げられなかったりもする。そのようななかで集められた情報やもともともっている知識などからいろいろ考えていくのですから、地盤がゆるゆるしているなかで構築された判断ができあがっていきます。それで混沌状態を体験することになるのです。そしてこれは二重の意味でもあります。なぜなら、読者の認識についても同様に考えられていて、同様の体験をするからです。しかも、没入感をあまり持たない人でもうまく物語世界の混沌に導かれてしまうくらい、粗がない文章だと思います。
物語の結末では、また違う世界に主人公は足を踏み入れています。このあたりも、うまく認識させずに世界を移行するワザが、作家の手法のみならずこの世間というか社会というかにはあるのです、ということを暗に示唆しているのではないかと感じました。
あとの短編二作は連作です。情景や描写から登場人物の心象を推し量るような読みかたで接したのですが、そこもたぶん作家は計算しているのでしょう。「これはたぶん、女性同士の性愛の予感だ」だとか「エロティックな心象を表わしている」だとか「主人公の不安で落ち着かない心持ちを蛾の死骸の描写でトレースしているんだ」だとかありました。が、しかし、結末までいくとフェイントをかけられたみたいになったのです。まあでも、僕はまだまだ小説の読みは浅いですから、もっと鋭い読みはたくさんあると思います。これだという感想は述べられませんが、この二作もおもしろく読めました。
まだまだ自分の知らない色取りの文学世界はあって(それもこの作品以外にもたくさん)、広い世界なものだよなあ、と可能性の大空を感じるみたいに口笛をふきたくなる読書でした。
Posted by ブクログ
表題作を読み終わって「ああ、土地の人になったんだ……」と腑に落ちた気がした。これまではどこかお客さんのようなぎこちなさや、生活に実感もなく暮らしてる感じだったけど、義祖父の死をきっかけに嫁としてそこに居着いたという感覚。
田舎には田舎のルールがあるとでもいうような通夜の席は異様だったけど、あの場で自覚も出たのかな。そうと決まってからはグズグズ考える頼りなさみたいなものが消えている。役割を得て姑のような人になるんだろう。
義兄の言う事が印象的だったし存在自体も面白かったから、現実に居なかったのはちょっとショックだなぁ。
「いたちなく」と「ゆきの宿」は、夫目線では妻の考えが分からず不気味な人物に映った。これは夫が妻のことを何も分かっていない証拠かもしれない。洋子の前では妻は涙を見せているのである。
「穴」の主人公も夫との意思疎通は出来ていない感じだった。義父と義母の関係もそう。家族ってそういう孤独なものかもしれない。