あらすじ
大学入試の歴史の良問は、本当は大人のためにある!
慶応義塾大学教授で、思想史の新たな視座を提示してきた著者が、有名大学の記述式入試問題に挑む。
【世界史】
・十字軍が与えた影響(慶応義塾大学)
・オランダ400年史から近代が見える(東京大学)
・女性参政権が1920年前後に実現した理由(一橋大学)
・補講「キリスト教はなぜ世界を支配できたのか」
……など
【中国史】
・科挙が日本に入っていたら?(京都大学)
・清朝はなぜ近代化できなかったのか?(早稲田大学)
・共産党が中国を統一できたのはなぜか?(京都大学)
……など
【日本近代史】
・統帥権の独立とは?(一橋大学)
・昭和恐慌の経済政策(東京大学)
・日本はなぜ中国大陸で失敗したのか(慶應義塾大学)
……など
【昭和の戦争】
・大日本帝国憲法と日本国憲法(一橋大学)
・1920年代の米国がつくった国際秩序(京都大学)
・戦争責任と東京裁判(一橋大学)
……など
【戦国時代】
・南北朝内乱が戦国時代の種を播いた(東京大学)
・「日本の村」の起源(一橋大学)
・一向宗とキリスト教(東京大学)
……など
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Posted by ブクログ
私が歴史に本格的に興味を持つようになったのは、予備校時代に河合塾の石川晶康先生の講義を受けたからである。「歴史に流れなんてない、っつうの」が口グセ。実はそれは現代のパラダイムで過去を安易に語るな、ということを言っていたのだと思う。これ出るぞ、は本当に出題されていたが、要するに学会誌に丹念に目を通して出題者の関心を捕捉していたんだろう。「聖と賤はコインの裏表だからな」なんてことを板書して力説していたし(これはのちに網野善彦を読み漁ることにつながった)、「7-8世紀の対東アジア外交は押さえとけ」の教えは今、娘に引き継いでいる。
さて本書は、そもそも小学校から一貫校で大学受験自体未経験という著者が大学入試の記述問題に解答していくという内容。これを読むと、本格的に学問をする上でこの程度の歴史の知識はある意味基礎インフラであって、暗記も何も自然に憶えてしまって当然のレベル、ということがよくわかる。
個人的には隋から共産革命に至るまでの中国史を「華北と中原のせめぎあい」と捉える視点が面白かった。そして多くの入試問題が、それに気づかせよう、という裏テーマを持っていることも再認識できた(このあたり、東大と京大の学派的違いへの言及などもあり興味深い)。
「改めて感心するのは、これらの問題を解くために必要な知識は、すべてとは言い切れないけれど、およそだいたいは高校の日本史と世界史の教科書に載っているという事実ですね」(「おわりに」より)。歴史に限らないがAI時代だからこそ「知識」の大切さをこどもに伝えないとなあ、という感想。
Posted by ブクログ
・十字軍は、政治的な影響、経済的な影響、文化的な影響をもたらした。
・教皇と諸侯の力をそぎ、王と商人の力が伸長した。中世が崩壊し、絶対王政が幕を開ける。
・ヨーロッパはユーラシアから見れば「辺境」であり、進んだ東方の文明やイスラム帝国やモンゴル帝国からは放っておかれた。そのおかげで、自分のペースで近代化を進めることができた。後の日本は西洋列強からの植民地化の危機感で慌てて近代化が必要だった。
・宗教改革は諸侯に都合がよく、皇帝権と結びついていたカトリックから干渉を受けずに領域を統治できるようになった。
・ルターが聖書をドイツ語に翻訳し印刷技術で頒布したことにより、教会抜きに神と人間が直接対話できるようになった。教会の中抜き。
・普段話している言語で聖書を読むことにより、共有言語をもとに「民族」「国民」意識を高め、後の国民国家の創生に寄与。
・夷狄である清の冊封体制化に入った朝鮮の屈辱感が、「小中華思想」を生んだ。
・「中華」文明の中心であった明が夷狄である清に滅ぼされた。「中華」文明なき後、朝鮮がもっとも儒教精神を保ち、朝鮮こそが「中華」の後継者であり守護者である。清に従属しながらも、腹の中では清を見下すという屈折した感情を抱える。
・北から南に攻め入って中国全土を平定するのか中国史の必勝パターン。江南が中国を統一したことはない。南宋と元。共産党と国民党。
・農民を味方にしなければ最終的な勝者にはなれない。農村から都市を包囲する共産党と、支持基盤が硬軟の浙江財閥だった国民党。言い換えれば、農民の前に敵を設定してそれを乗り越えて、農民が実際は搾取されていても自分たちが主役だと錯覚すれば倒れない。