あらすじ
ファシズムの暗雲に覆われた1930年代のスペイン、これに抵抗した労働者の自発的な革命として市民戦争は始まった。その報道記事を書くためにバルセロナにやってきたオーウェルは、燃えさかる革命的状況に魅せられ、共和国政府軍兵士として銃を取り最前線へ赴く。人間の生命と理想を悲劇的に蕩尽してしまう戦争という日常──残酷、欠乏、虚偽。しかし、それでも捨て切れぬ人間への希望を、自らの体験をとおして、作家の透徹な視線が描ききる。20世紀という時代のなかで人間の現実を見つめた傑作ノンフィクション。共和国政府の敗北という形で戦争が終結した後に書かれた回想録「スペイン戦争を振り返って」を併録。
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Posted by ブクログ
『Hommage to Catalonia』の訳本は複数社から出版されているが、一部が省かれた版も多数存在するので、原語の内容を溢さず読みたい人には、本書をお勧めする。
未だかつて、こんなにじっくりたっぷり読み込んだ本は無い…。大学のゼミで取り上げる題材だったから、という理由なのだけれど、そもそもは原語で読んでいて、途中あまりに複雑で心折れそうになり、論文書くうえでは母語で読まないことには先に進めず、何度も読み返しては線を引いて付箋貼っての繰り返し。
オーウェルの生い立ちや思想とか理想というものは彼の著作を読むほどによく理解出来ると思うが、この作品は、ある意味、彼の人生のクライマックスのようなものではないかと思う。
イギリスの「上層中流階級の下の方」に生まれた著者がどのような青少年期を過ごし、やがてスペイン内戦に従軍記者として赴くことになったのは何故か。そこで彼は何を見たのか。従軍記者として赴いたハズが、自身が銃を握ることとなったのは何故か。
理想と現実の間でオーウェルが感じたことは何だったか。その後彼の心はどこへ向かっていったか。
ルポルタージュと言っても決して堅苦しくなく読み易い方だと思う。世界が第二次大戦へと向かっていく直前の激動の時代、欧州で何が起きていたのか、その一端を内部から知ることが出来る貴重な書。
Posted by ブクログ
★欺瞞の時代において真実を語ることは革命的な行動だ
ジョージ・オーウェルは、今から62年前の1950年1月21日にわずか46歳で亡くなったイギリスのジャーナリスト・作家。
彼との接近は、ご多分に漏れずSFにどっぷりとのめり込んだ中学生の頃に手にした『1Q84』じゃなかった、未来の管理された醜悪な世界を描いたディストピア小説『1984』が最初でしたが、その後もカール・マルクスの『ルイボナパルトのブリュメール18日』やジョン・リードの『世界をゆるがした十日間』、エドガー・スノーの『中国の赤い星』『アジアの戦争』やアグネス・スメドレーの『中国の歌ごえ』、そしてE・H・カーの『ロシア革命』などと共に、世界のすぐれたルポルタージュとしてこの本を読んだりしました。彼への関心はそれにとどまらず、晶文社のオーウェル小説コレクション全5巻や平凡社ライブラリーのオーウェル評論集のたしか全4巻を読むに至って、奇しくも同時代の同じイギリス人で79歳まで長命だったH・G・ウェルズが、やはり『タイム・マシン』や『透明人間』や『宇宙戦争』などのSFを書いて『世界史概観』や『世界文化小史』などの文明批評・歴史書も書いているのに似て、すぐれたSF作家は空想だけにとどまらず現実の世界にも多大なるコミットをするのだなあと驚嘆したものでした。
「義勇軍に入隊する前日、私はバルセロナのレーニン兵営で、イタリア人義勇兵がひとり、将校たちのすわったテーブルの前に立っているのを見かけた。二十五、六のたくましい顔つきの青年だった。髪の毛は赤みをおびた黄色で、がっしりした肩をもっていた。先のとがった革の帽子を、片方の眼がかくれるほどぐいと引き曲げてかぶっている」
スペインに1936年登場した左翼系共和政府に、反乱を起こしたフランコを指導者とする右翼勢力。右翼側の反乱を援助支援したのがドイツ・イタリアのファシズム勢力で、かたや不干渉政策をとったのがイギリス・フランス。共和政府側支持を表明したのがソ連、そして世界中から熱烈賛同して自発的に参加した義勇軍でした。わがシモーヌ・ヴェイユもそのひとりでしたが、ジョージ・オーウェルは最初のうちは記事を書く記者としてスペインに行ったものの、すぐさま義勇軍の一員となり実弾飛び交う戦場へと潜入し、そこで見た真実の一部始終を克明に書き綴ります。それがこのルポルタージュの最高傑作といってもよい『カタロニア讃歌』です。