あらすじ
短編に凝縮された桜庭一樹のエッセンス!
死んだ男を囲む、二人の女の情念。
ミッションスクールの女子たちの儚く優雅な昼休み。
鉄砲薔薇散る中でホテルマンが見た幻。
古い猫の毛皮みたいな臭いを放つ男の口笛。
ダンボールに隠れていたぼくのひと夏の経験。
日常に口を開く異界、奇怪を覗かせる深淵を鮮やかに切り取った桜庭一樹の新世界!
6つの短篇小説。解説・杉江松恋
【目次】
「モコ&猫」
「このたびはとんだことで」
「青年のための推理クラブ」
「冬の牡丹」
「五月雨」
「赤い犬花」
感情タグBEST3
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(モコ&猫)
読みながら泣いてしまった。
甘酸っぱさと気持ち悪さと純粋さがそれぞれ侵食するようにじわじわとある。私はモコのような女の子が好きだし、猫のようになりたかった。
猫がモコに対して時々抱く殺したいような心持ち、悲しいけれどなんとなく分かる。猫は謎だ。猫は勝手だ。でもそれだけモコは特別だった。
田舎者から見る、異彩を放つ都市、東京。
モコは猫にとっての東京だったのではないか。愛しているけど分かり合えず、ずっとそこにはいられない、東京。
(このたびはとんだことで)
七竈に出てきた犬と一緒の技法だ!と読みながら思っていたので、後書きにもそれが書かれていて嬉しかった。
女は美しくも滑稽で、恐ろしいな。
(青年のための推理クラブ)
読書クラブの方も大好きだったので、なんだか懐かしい気持ちになった。爽やかでよい。あっちもまた読み返そう。
(冬の牡丹)
私には姉がいるが、姉に対して文句を言い出したら止まらない感じはよく分かる。ここぞとばかりに言っちゃうね。あるある。
昔から絶対敵わないし、一生勝てない相手。姉。
妹よ、お前は越えていないのだ。決して姉を越えてはいない。越えるってなんだよ。結婚したら偉いのかよ。子ども産んだら人に勝てんのかよ。つらい。牡丹の気持ち、泣いちゃう感じ、わかる。
でも我が家は仲良し姉妹です。やはり若いうちに喧嘩してぶつかっておくべきだ。
田沼さんに癒された。ああいう人が牡丹の近くに居てくれてよかった。牡丹は家を出て正解だった。
(五月雨)
なんともファンタジーで、それでいて穏やかな小説だろう。
清香は加瀬亮で脳内再生した。かっこいい。
(赤い犬花)
大好き。号泣。
そもそも私は都会っ子と田舎っ子の組み合わせがめちゃくちゃ好きなのだ。たまらんわそりゃ。
太一の喋り方が現代っぽくてリアルで、それがすごく可愛い。柔らかくって優しい感じ。しかし度胸はある。それがまたいい。
それぞれ家庭に問題があって、でもそれに順応しながら生きている。順応できない子は生きていけない。いやだな。
大人がダメダメでも、それを反面教師にして子どもは育つのかもしれない。
でも大人が子どもを苛めちゃダメだ。見放しちゃダメ。向き合わなければ。
Posted by ブクログ
奇譚集、と銘打っているだけあって何とも奇妙な感覚をもたらす短編集。ただ設定が異質なのは骨になった男が妻と不倫相手のやり取りを傍観する表題作と、夜のホテルでホテルマンが見た幻の話「五月雨」だけで、他は日常で有り得る話。しかし大学で一目惚れした相手をただ見つめるだけの話「モコ&猫」が、アパートの隣人との交流から己を振り返る「冬の牡丹」が、田舎での地元の子との冒険「赤い犬花」が予想外の歪さを見せてくる。映写機でのフィルムを見せられているような距離感から急に距離を詰めて揺さぶって来る語りがが桜庭さんらしい。「冬の牡丹」「赤い犬花」に漂うどうしようもない切なさが響いた。
Posted by ブクログ
桜庭一樹さんの神秘的な世界観には
定期的に触れたくなる。
期待に違わず、ちょっとひやっとするようなお話が多くて満足した。
それぞれが独立したお話なので、読みやすい。
すぐに桜庭一樹さんの世界に入れた。
モコ&猫
冬の牡丹
が好きだった。
Posted by ブクログ
相変わらず、没落貴族のような男性と、気の強い女性を描かせるとピカ一美しくなる作家さんだなあ。
冬の牡丹と、赤い犬花、が好き。
五月雨、は伝説の一族の話を長編で読みたい。赤朽葉家みたいに、長い時間に跨がったお話に仕立ててもらって読みたい気がした。
Posted by ブクログ
初読。①赤い犬花②冬の牡丹③モコ&猫…の順で好き。カラーの異なる6編の短編なのに、どれにも桜庭さんらしい匂いがついている。そして長編につながる匂いもする。「赤い犬花」はアニメになりそうな映像が浮かんできた。夏の一瞬のきらめきが永遠につながりそうでいて、やっぱり二度と訪れないと知っている幸福感と切なさで泣けた。「冬の牡丹」の家族に裏切られた感じが寂しいようなおかしいような。「モコ&猫」の好きの距離感に心震える。
Posted by ブクログ
モコ&猫
触れたい、近づきたいとは思わず、ただ見つめていたい男の話。これを恋や愛と言っていいのかは分からないけれど、感情ってそんな単純なものじゃなくて矛盾を含んだものだよな〜と。
このたびはとんだことで
死後に妻と愛人の争いを見守る男の視点で進む。女の愛とは重いものです、と言わんばかり。
青年のための推理クラブ
誰が現実ではどんな人で、誰になりきっているのか掴むのに若干苦戦。違う人格として過ごす空間が少女たちには必要だったんだなと。
冬の牡丹
今回はこれが一番刺さった。
かつては父に一番に認められている自分を軸に生きてきた、現代的で慎重で"残念な"美しい女性。でも途中から風向きが変わって、結婚していない彼女は家族から下に見られるようになる。どう生きれば良かったのか自問自答する彼女の姿が苦しい。"世間"みたいなものから外れたお隣さんの居心地の良さ。
五月雨
吸血鬼と吸血鬼と戦う町の人間の話。桜庭先生あるあるだけど、島根とか鳥取って妖怪とか怪奇みたいな伝承が根強く残ってたりするのかな?とか思ったり。
赤い犬花
これも良かった。両親の離婚のために一時的に預けられたどこかも分からない田舎で、姉を自殺で亡くした少年と一緒に、姉の死の真相を求めて険しい山奥を目指す話。家へ戻る最後に急に現実に戻る感覚になるんだけど、困難を共にした少年とのある種特別な絆が描かれていて良かった。普通の友達とは違う、特殊な環境や状況でできた友達の感覚ってなんか分かる気がする。
Posted by ブクログ
【モコ&猫】 普通でない愛
【このたびはとんだことで】 男の骨壺を挟んだ妻と愛人
【青年のための推理クラブ】 と見せかけて?
【冬の牡丹】 残念美人のグダグダ
【五月雨】 吸血鬼もの
【赤い犬花】 少年が田舎で冒険
Posted by ブクログ
完全にノンシリーズで関連なしの短編集。解説にも同じ趣旨の話があったが、長編作品のある一部分を切り取ったかのような味のある作品が揃う。つまり、この続きを見てみたい、とか、彼らのその前の話を見てみたい、という感情が湧き出てくる。それだけ、各編の登場人物は濃く、その設定は魅力的である。「モコ&猫」の好きでいることの不思議な切なさ、「冬の牡丹」に見える漠然とした生き辛さは心に響いた。
Posted by ブクログ
短編集。「モコ&猫」「冬の牡丹」が好きでした。男女の歪なようにも見える濃い関係を描かせるとピカイチな作家さんだなと改めて実感する作品集でした。
Posted by ブクログ
2016年、9冊目はラノベ脱却期の『少女には向かない職業』以来、おそらく、十数年振りの、桜庭一樹。その短編集、6編収録。
モコ&猫:大学生時代の憧れと、恋愛の狭間のようなイビツな想いの回顧譚。いやぁ、自分が、いかにミステリ脳で読んでいたか、というコトを反省させられた。冒頭で気付かされて良かったよ。
このたびはとんだことで:表題作。既に別れた若い浮気相手と正妻の修羅場に居合わせる男の話。コレは展開の予想はつきました。しかし、大オチは上手いと唸ってしまった。
青春のための推理クラブ:ミステリ仕立て。そこで感じた違和感は、その後……。自分のような、桜庭一樹初心者と、フリークとでは感想異なるんだろうな。
冬の牡丹:30代、独身、彼氏なし、一人暮らし、派遣OLの物語。近しい人との疎外感と、思わぬ人との親近感。
五月雨:ホラー・テイスト。ややベタな題材ではある気もするが……。一方で、空気感をココだけガラリと変えるのは、さすが。
赤い犬花:少年の夏休みの1日の冒険譚。絡めてあるのは、二人それぞれが抱える、少し重たい現実。でも、ラストはホッコリ。
見事に6編、方向性の異なるモノを並べてきた。しかも、言葉の紡ぎ方が上手い。句読点、「っ」、「ー」を上手く使って、時にリアリティーを、時にリズムを演出。比喩や描写が実に内容、雰囲気にあった一工夫をしている。会話回しにもセンスが溢れている。
全体として、それぞれ、★★★☆☆~★★★★☆で、大ハズレはない。一方、今回は、今後出会うであろう長編への期待も込めて、少し辛め、★★★☆☆としました。
Posted by ブクログ
「モコ&猫」 ふうがわりな恋。
「このたびはとんだことで」 浮気、特殊な語り手、奇譚。
「青年のための推理クラブ」 ヴァーチャルな友情。
「冬の牡丹」 娘と(仮想的な)父。本書一番の力作か。
「五月雨」 伝奇。Vハンター。
「赤い犬花」 夏休みの少年たち、その背後にあるのはマチズモに潰された少女。ジュブナイル。
わが生涯ベストに入る「青年のための読書クラブ」のプロトタイプはもちろんのこと、
作者の多様さが感じられる短編集。どれもよい。
単行本「桜庭一樹短編集」とは並びが異なっている。
並びが違うだけで随分印象が変わるなと驚く。
あと、単行本の会田誠の絵もいいけど、文庫のカバーも素敵。