あらすじ
450万もの人が国を追われる――泥沼化する難民危機の「最前線」で、いったい何が起こっているのか? 『ガーディアン』紙初の移民専門ジャーナリストが、シリアからスウェーデンまで3大陸17か国をともに歩き、EUの分裂、ISISの台頭、相次ぐテロにつながる問題の本質をあぶり出した迫真のノンフィクション。
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Posted by ブクログ
英『ガーディアン』誌の移民担当記者が精力的な取材に基づいてまとめた1冊。日本語タイトルは『シリア難民』となっているが、原著タイトルは『The New Odyssey: The Story of Europe's Refugee Crisis』で内容はシリア難民に限らず、アフリカや中東のさまざまな地域からヨーロッパを目指す人々を扱っています。
全体の半分は、シリア難民のハーシム・スーキさんがヨーロッパを目指す道のりを著者が取材したものでとても臨場感にあふれています。同じEU圏内でも難民への対処は本当に国ごとに大きな違いがあり、永住権や華族の呼び寄せ可否などさまざまなファクターを加味して、目指す国を決めていることがよくわかります。
また、日本語タイトルのとおり、自分の感覚でも現在のヨーロッパと難民の問題はシリアが大部分を占めているように思ってしまっていました。しかしそれ以外にもアフガニスタンやエリトリア、ソマリアなど政情不安を抱える多くの国々から、険しい山道やサハラ砂漠等多くのハードルを越えてヨーロッパを目指す人々がいることがよくわかりました。これら、ほかの国々からヨーロッパを目指す人々の様子を含めて、本書の残り半分で描かれています。
ヨーロッパ(のうちの多くの国)が難民がやってくるのをいかに阻もうとしても、自国が非魅力的な国であると強く発信しようとも難民たちはやってきます。その理由は著者が本書中に何度も取り上げていますが「ほかに選択肢がないから」。自分の国にとどまっていても暮らしていけないし、それどころか死の危険もある。それであれば、いくら命がけでも、一抹の希望をかけてヨーロッパを目指す。そういった人々の気持ちが痛いほど伝わってくる1冊です。
Posted by ブクログ
「なぜ危険な海の旅の試みを続けるのか」、「ここの人間の慈悲よりも、神のご慈悲を信頼しているからだ」シリアからエジプトに着き、イタリアを目指す難民の言葉。多くが詰まっている。
すぐに解決策を見出せる問題ではないが、こうした事実があることを知ることが、問題解決の本質を探る上では重要。
Posted by ブクログ
未来の家族を守るための手立てが、「国を捨てて難民となること」しかないとすれば―。というレポートです。
もし自分が当事者だと思うと…と想像してみた
Posted by ブクログ
ニュースで難民問題とか シリア情勢とか流れていても
ヨーロッパで起こってる事は
飛行機で10時間以上離れているだけに
あまり 身近に感じていない人も多いと思います。
しかし、災害大国日本ですので 突然の災害にあって
家や 家族や 友人らを なくしてしまうこともあるので
他人事ではないと思います。
この本では 一人の人が どのようにして 移動していくのか著者が 密着したり 生きて逃れてきた人たちを取材したものをまとめていました。
殆どの人は 好き好んで故郷を離れれるのではなく
故郷での 独裁体制や 戦争や 飢えなどから逃れる為に国を離れる。
砂漠を越えるのは 海の上を越えるのと同じくらい大変な事。
昨日まで 普通の漁民だった人が 今日は密漁船となる。
仕事がないから 密航業者になる。
密航業者にお金を払っても すぐには 移動できず
劣悪な環境の中に 留められていたり、
女性はレイプ被害にあったり、食事もろくもできなかったり。
そんな 危険をなぜおかすのか。
船で死ぬかもしれない。
けれど 国にいても 死が迫ってくる。
他に選択肢がないから 密航船に乗る。
船でヨーロッパについたら 安心という訳でもない。
沖で 助けられた時は ホッとするけど 上陸したら 新たに大変な扱いが 待っている。
国で 密入国者を排除しようとしている所では
助けた人が 捕まってしまったりする。
(ボランティアなのに 密航業者とみなされて)
そして 大変な思いをして やっとヨーロッパに辿りついて難民申請しても (申請するまでも大変)
受理できるまでの長い時間。
壁を作って 難民を入れないとする国の考えも 理解できる。
難民が 増えすぎて 共倒れになっちゃうから。
だけど 紛争などが ある限りは 難民問題は なくならないでしょう。
壁を作ったり 国境を警備する 予算を増やすよりも紛争地域に 平和をもたらすように する為の 努力に予算などをついやせないのかなぁと 思いました。
それは 簡単ではなく とても大変な事かと思うけど誰だって 故郷を離れて暮らしたいとは思わないのだから。
皆が 幸せに 自分の故郷で 暮らせるようになることを 祈ります。
Posted by ブクログ
本書は、ガーディアン紙の記者が各地の難民に取材をすることで完成したルポタージュの大作である。本書の主張は次の通りだ。難民の置かれた状況はあまりに過酷で「ヨーロッパの指導者が何を言おうと難民はヨーロッパを目指す」のだから「秩序だった定住政策が最も有効」であり、「難民の絶対数は多いが総人口に占める割合という観点ではヨーロッパ社会は吸収できる」というものだ。本書のこうした主張は、言葉や文化、置かれた社会環境が違っていても、難民たちは同じ人間という仲間なのだという信念に支えられている。そうした信念があったからこそ、これだけの取材を敢行できたのだろう。パトリック・キングスレー氏のこうした態度には本当に尊敬するし、また見習いたいと思わずにはいられない。
キングスレーは、ハーシムという一人のシリア難民が艱難辛苦を乗り越えスウェーデンで定住するまでの道のりを、アフリカや中東でなぜこれほどの難民がうまれているのかという背景と合わせて描き出す。ハーシムは家族思いの父親で、家族をヨーロッパに呼び寄せようと決意する。彼が安住の地スウェーデンへ向かう旅は、文字通り命がけだ。並みの決意ごときで敢行できるものではない。彼らをそこまでの行為に駆り立てる(当時の)シリアの状況を思うと胸が痛くなる。また、ハーシムの言動を通じ、国や言葉、宗教が違っても同じ人間なのだという当たり前の事実を、私は再確認させられた。
2015年の本なので今はまた違っているだろうが、それでも本書は読む価値がある。