【感想・ネタバレ】文車日記―私の古典散歩―のレビュー

あらすじ

こんなにも身近なところに、古典の世界が息づいている。私たちの人生そのままに、かつて、生きて戦い愛した人々がいる。――「古事記」「萬葉集」から若山牧水まで、民族の遺産として私たちに残されたおびただしい古典の中から、著者が長年いつくしんできた作品の数々を、女性ならではのこまやかな眼と、平明な文章で紹介し、味わい深い古典の世界へと招待してくれる名エッセイ集。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

田辺聖子の作品はいつか読むぞ〜と思っていたけど、エッセイ集からでもいいのかな?どうなんだろう?と思いつつ、冒頭の文章がすんなり入ってきて心地よかったのでそのまま読んでみることにした。
全部読み終えての感想は、わたしは今まで日本の古典を軽視しすぎていた…ということだった。
まず、著者が古典の作者や登場人物を、同じ生きた人間として親しみを持って接していることが新鮮だった。わたしにとっての古典は教科書のもの、そして読みづらい文章が大きな壁となって、共感するまで辿りつくことができなかった。あとは日本語の美しさ!日本語そのものの奥行きの深さに目がいき、日本語に対する興味がぐっと出てきた。こんなことは初めてかもしれない。
なぜ今まで日本の古い読み物を軽視してたんだろう?千年以上の時を超えて今も読まれているものであれば、その内容や表現力は絶対に素晴らしいものなのに…これからは自分の国の文学にも目を向けなければ、という気持ちにさせてくれた。

印象に残っている文章をいくつか記録しておく。
「額田女王の恋」
→初っ端の文章で、古典で描かれる恋愛とはこうだ、という印象を持たせてくれる。額田女王という今でも有名な人物の恋愛は、尊く素敵なものに思われる。幼いころはじめて大海人皇子に会って、そのまま一緒に馬に乗って駆けて、夏の紫草が咲き乱れる花野で過ごした思い出…その後二人の仲は引き裂かれるけど、何年ものちに再開してよんだ歌の美しさ!
 あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖ふる
 紫の匂える妹を憎くあらば人妻ゆえにわれ恋ひめやも
この二人が恋仲であったことを周囲の人は当然知っていて、それを堂々とよむお互いの関係性が素晴らしいと思う。古代は恋愛に対してもっとオープンだったらしいけど、現代って恋愛の大変なところに目が行きがちな気がする。
「あね・おとうと」
→大津皇子と大伯皇女の兄弟愛を超えた関係性が美しすぎる。不穏な情勢の都から、姉に会いたい一心で馬を駆ってきた青年の切実な気持ちを想像すると切なくなる。
「老いゆく君」
→従臣が主君に対してよんだ歌ではないかと著者が言っており、面白いと思った。
 天なるや月日の如くわが思へる君が日にけに老ゆらく惜しも
身分の高い主に対して、自分の老いには目を向けず、従臣の世界の全てだった主が老いていく悲しさを歌っている。そこには忠誠だけでなく、性愛も感じる、とのこと。やっぱりいつの時代にもいろいろな関係性がある、と思わせてくれる。
「知盛最後」
→武士の最後、かっこいい
「幾山河」
→若山牧水の歌の素晴らしさ…女学生が夢中になったとあるが、社会人のわたしがすごく感銘を受けている
 白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君
「シャロンの野の花」
→以下引用
われはシャロンの野の花 谷の百合花なり 女子等の中にわがとものあるは荊棘の中に百合花のあるごとし わが愛する者の男子等の中にあるは林の樹の中に林檎のあるがごとし 我ふかく喜びてその蔭にすわれり その実は口に甘かりき 彼われをたづさへて酒宴の室に入れたまへり そのわが上にひるがへしたる旗は愛なりき

0
2025年08月19日

「エッセイ・紀行」ランキング