【感想・ネタバレ】経済学者 日本の最貧困地域に挑む―あいりん改革 3年8カ月の全記録のレビュー

あらすじ

著者の鈴木亘教授は、年金や生活保護など社会保障問題を専門とする経済学者。橋下大阪市長(当時)に年金問題のレクチャーをしたことをきっかけに、2012年3月「西成特区構想担当」大阪市特別顧問に就任した。誰も手を付けられなかった、日本最大のドヤ街「あいりん地区」の地域再生を構想・立案する仕事だ。
以来4年間、多いときには週2~3回大阪に足を運び、「特区構想有識者座談会」座長や、住民参加型の大集会「あいりん地域のまちづくり検討会議」の司会をつとめてきた。
2015年1月にはようやく、一連の改革の「象徴」ともいえる、老朽化した「あいりん総合センター」(1970年竣工)の建て替えに道筋がついた。この一連の経緯を「当事者中の当事者」である鈴木亘教授が詳細に描く。あいりん地区には「人口減少、高齢化、貧困」という日本の大問題が凝縮されており、本書を通じて読者は、これらの問題について深く考え、地域が主体となってこれらの問題に取り組むヒントを得ることができる。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この本の出た10年前に西成にいてたときは直接自分ごととして意識してなかったんですよね。
どっぷり生保ですぐに異動で出てますし。
今帰ってきて外から見てた事業を中からじっくり見るとここからしっかり巻いていかないと中弛みしないかちょっと気になります
求められてるものは揃ってるのであとはどう実行していくかというところになってるように思います。
ただここでオーソライズされてることが本当に細部まで今の担当者に引き継がれているかが重要やと思います。
おそらく担当する管理職それぞれが自分の守備範囲に関わらず知識経験を持ち寄って組み立てていかないと地域とのギャップが広がらないか心配になります。
異動が重なって新しい職員が増えてるなかで僕自身の知識のベースを合わせる意味でもちゃんと読み込まないといけない本やと思って読みました。
まあ今も同じ生保担当なんであまり関わりがないと言えばないのですが(爆)
ただかなり大きな地域課題にどのように対処すべきかという点についてとても参考になる処方箋になってると思います。

「役人がそこまでやるとは思わなかった」
当時の課長も夜回り行かれてたんですね。
僕も木曜日の夜回りで実地勉強しています。
こういうのは言われてやるもんじゃないんですよね。
ただやってることは周りに伝えて自分のスタンスは知っておいてもらう必要があるかなと思っています。
なかなか役所の理論では通じないことが多いですし。
逆に役所にも通じない話も多いですし。
その辺は一次情報として自分で直に耳に入れておかないと自分の頭で考えないんですよね。
その辺は新採すぐの頃から反対運動の担当してたんでよくわかってます。

「新しい流入者と今いる若者が共存できるまちづくりを目指したい」
橋下市長が区政会議で発言されたそうです。
「若年層の転入増加」と「子育て世帯の転出減少」が第三期に掲げられてます。
生保担当してるとリーマンショックの頃からずっと言われてるのでこの地域の人口減は目の前に迫る現実やとわかります。
おそらく日雇い労働者が回していた地域経済が今は生活保護が回しています。
訪日外国人も一定程度影響あると思いますが地域経済を回すほどではないと思います。
そうなるといかに早く新しい流入者を呼び込む土台を作るかというところが重要になるのかなと思います。
僕は訪日外国人よりも定住外国人がターゲットになるのかなと思います。
今の居住者と子育て世帯と若年層の日本人と外国人を含めたベストミックスを目指していかないといけないように思います。

「ホモ・エコノミクス」
経済学の基本は、人間を
「損得に反応する合理的な存在」
と単純化して捉え
「自己の利益を最大化するように行動する」
と考える。
僕の考え方は経済学に沿ってたんやと改めて認識しました。
相手の利害を把握してできるだけ利益に誘導できるようにインセンティブを作るのが基本だと思っています。
この本を読んでそれぞれのステークホルダーの意見を聞くことがいかに重要であるかということがよくわかりました。
この本の出た2016年から10年経って状況がどのように変わったのか。
いや変えてはいけないものが変わっていないかが重要なのかなと思いました。

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2024年08月25日

Posted by ブクログ

やればできる、けれども禿げ上がるほど大変である。
という感想です。
題名で感じるより遥かに読みやすい、テンポの良い文章です。

行政の縦割りと、ごった煮状態の区民の中に入って動き回った経済学者の鈴木亘さんのお話です。
綺麗事と正統法だけでは絶対に解決しない問題を、経済学者の物の見方とフットワーク、広い人材からなるチームワークで、焦げを削いでいくように進んでいく改革が凄かった。

素晴らしいと思ったのは、自分達の話を正直に明かした上で、面倒な相手であってもしっかりと話を聞いて受け入れるという覚悟です。
会議が騒動屋にひっかき回されても、様々な立場の方達と揉めることになっても、ゴールに向けて包摂していくという姿勢が強く優しく堅実で確実でした。
排除し押し殺して進んでいったら、またどこかで揉めることになる。
そりゃそうだろうと思うけれど、楽で早い解決法として押し通されている事も少なくない。
自分が解決する側に回った時に、鈴木亘さんのようなやり方ができるだろうか。
胆力という言葉が浮かびます。
「理不尽な怒声を浴びせられながら進めなければならない会議」というだけで胃が痛くなる。

終わってから1冊の本になっているので読む方は
「なるほど〜、大変だったけど良かったね!」
だけれども、渦中で闘っていた方々のご心労たるや想像を絶します。

人と人、集団と集団の間を繋ぐ「ハブ人材」の重要性についての本でもあると思いました。
良いものが個別に存在しても、繋がらないと力にならない。
これから社会が良くなるためのキーの1つなんじゃないかな。

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2019年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あいりん地区改革の日々が細かく臨場的に描かれていました。
テンポがよく、読みやすい一冊です。
自治体(役所)を動かすにはどうしたらよいか、地域の人を巻き込み街づくりを進めるにはどうしたらよいか、等参考になる内容が多かったです。

また、各章の最後にミニコラムがついており、経済学のミニ知識(ゲーム理論、外部不経済etc)がわかりやすく説明されているのも良かったです。

450ページ以上と分厚い本ですが楽しく読み進められました。

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2018年12月26日

Posted by ブクログ

「政策実行はかくあるべし。」
そう思わせてくれる本です。橋下大阪市長時代に行われた西成特区構想の特別顧問である鈴木亘学習院大学教授が行った構想の策定・まちづくり会議の組織・運営など、構想をボトムアップで行う道筋をどのようにつけていったのかを理論的(経済学的な視点も含めながら)に整理した「政策過程本」である。実現しなければならない政策は数多くあり、その多くの政策は政治的コストの高さ、行政的コストの高さから行われていない中で、その象徴的ともいえる大阪市が抱える西成区あいりん地域(昔のドヤ街)の再生問題をいかに取り組んできたのか、その内容がしっかりと記録されている。

少し話がずれますが、この本を読みながら和田中の元校長の藤原和博氏の講演をyoutubeで見ていたら、共通点がありました。藤原氏は「これからは情報編集力が求められており、数ある選択肢から正解を探す情報処理力はもう必要ない時代になっている」と述べていますが、まさにこの本で鈴木氏が取り組まれたのが政策分野でおける良き実例だと感じました。鈴木氏は、行政トップダウン方式では政策は実現しえないということを早い段階から気づいており、刻々と変化する住民の感情、大阪維新の会が仕掛ける政局をしっかりとキャッチアップし、その都度ごとに最適解を導き出して政策を進めていきます。言うは易し、行うは難しの「ボトムアップ型の政策実現」を見事にやり切った記録です。ぜひ自治体関係者は一読すべきだと思いました。

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2017年01月02日

Posted by ブクログ

「改革の中身より、どう実行するかがはるかに重要である」、冒頭に挙げられたこのテーマが見事に実践されていく様を、本書を読むと体験する事が出来る。

多少自画自賛が鼻につくこともあるが、地域の人、お役人、いわゆる活動家そして政治家やマスコミの間を縦横無尽に駆け回り、事案を動かしていく様は圧巻である。こうすれば、世の中動いていくのかという良いお手本である。もっとも、鈴木先生が当時の橋下市長と昵懇の間柄であったという、大きなアドバンテージは有ったが。

「社会保障亡国論」にも感心したが、鈴木先生はまだ若いし、学者で終わるのはもったいない気もする。もう少し、大きいところで、世の中の問題解決に大ナタをふるってもらいたい。

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2018年01月28日

Posted by ブクログ

大阪市特別顧問として「西成特区構想」に携わった経済学者の鈴木亘氏の実践の記録。
臨場感のある記述で、政策の遂行ということについて、とても参考になる内容となっている。「改革の中身よりも、どう実行するかがはるかに重要である」ということをよく感じることができた。また、今後の社会にとっての「アゴラ」の重要性の指摘も興味深かった。
そして、経済学の観点から、西成特区構想に関わるエピソードを読み解くコラムが秀逸。

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2017年07月07日

Posted by ブクログ

それにしても鈴木先生は、社会保障関連の専門家だと思ったら、こんなことまでやっていたとは驚きです。彼の年金問題の解決法等も非常に現実的でいい案だと思っていましたが、自分の理論を自分で証明してしまおうというバイタリティーとそれを本当に具現化してしまう実行力は、そのまま政治家になってもいいのではと思うほどのリーダーシップです。本の内容的には、日本の最貧困エリアである、あいりん地区の街づくりを経済学者としての視点から、実際に具現化するためのアプローチをドキュメントした本。そして街の住民含む利害関係者をしっかり巻き込んで、その道筋を作るところまでが描かれています。それもこれも橋下元大阪市長の元だからできたこととはいえ、ここまで持っていくだけでも相当の労力だったのではと思います。

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2017年01月09日

Posted by ブクログ

2012年に橋下徹大阪市長の下でスタートした「西成特区構想」は、西成区の(特にあいりん・釜ヶ崎地域)が抱える環境・治安・社会福祉などの複合課題を解決するために「西成をえこひいきする」=特別政策を集中的に投入する構想だった。

今の西成がどうなっているかは自分の目で見ていないので何とも言えないが、改善に力を入れるためにえこひいきを必要とする程、かつては治安が悪く日雇労働や生活保護など貧困が問題化していた。今は少し改善傾向にあるらしい。

日雇労働者たちは手配師たちにより、賃金や契約期間、飯場の宿泊代・食事代などの条件提示され、車に乗り込んでいく。地域全体で、現金や契約を合わせて、1日5000件ほどの仕事が決まるらしい。ちなみに私の知人はこれのボランティアをするといって消えたが、何をしているか不明。

今は、白昼堂々と覚せい剤を売っていた売人たちが一応姿を消し、あふれかえっていた不法投棄ゴミも一掃されたみたいだ。著者曰く、環境改善の仕事を市役所から民間にアウトソーシングし、それをホームレスの人々の仕事にすることによって、まちの環境改善とホームレスの貧困脱却を同時に達成する「一石二鳥」の事業もつくり出したと。

本書はこうした西成の活動を見るには良いが、肝心な「経済学者のチャレンジ」については、その活動の苦労話に盛り込まれるのではなく、コラムとして、経済学的キーワードの解説として切り離して語られるのが少し残念。

外部不経済、ゲーム理論、サンクコスト、エージェンシー理論など。最貧困地域としてのブランディングを活かし、復活劇を楽しめる内容を期待したが。現実は厳しい。

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2025年10月16日

Posted by ブクログ

大阪市西成区の地域問題に経済学者が挑む

橋下市長の特別顧問という肩書きだが特に法的な権限は無い。それでも地域の人々の中に飛び込みボトムアップ型の提案をまとめ上げた。

youtubeに当時の公開討議の録画があり見た。活動家のヤジが酷い。そんな中よくまとめ上げたものだと思った。まさに粉骨砕身。

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2017年02月24日

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