【感想・ネタバレ】父・金正日と私 金正男独占告白のレビュー

あらすじ

故・金正日(キムジョンイル)総書記の正男(キムジョムナム)の肉声を世界で初めてスクープした新聞記者による衝撃の記録!

2001年に初めてその存在が報じられて以来、たびたびあらわれては、その言動やファッションがディープなインパクトを残してきた金正男。“自由人”として面白ライフを満喫する北朝鮮のプリンスに隠れファンが急増した。しかしここ数年は姿を現さず、異母弟の正恩(ジョンウン)が後継者となってからは動静がめったに表には出てこない。

2004年9月25日、北京国際空港の1階ロビーで日朝協議に出席する北朝鮮代表の到着を待っていた著者は、金正男と思われる男性と遭遇し、声をかけます。後日、正男は著者をはじめ、そのとき渡された記者へメールを送信。このときから著者と正男の、あわせて150通にもおよぶメールの交換が始まった。その内容や、2回の面会など、正男の肉声が克明に記される。

「三代世襲には反対」「父上には国家元首という点を離れて、厳しいながらも情が多かった記憶しかありません」「異腹の弟正恩の成長過程は知りません」などと率直に語る正男。ホテルのエレベーターでは日本語で「お先にどうぞ」と先を譲るなど、本書を読めば知的で冷静、ユーモアのセンスにあふれた彼の実像をあまさず伝えるのみならず、正男を温存する中国の意図を著者は鋭く洞察する。

日朝関係を考える上で外すことのできない一冊。

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Posted by ブクログ

本書は北朝鮮の「プリンス」である金正男氏が自身の言葉で語る日本への不法侵入事件の顛末、弟である金正恩との水面下での対立、彼を保護している中国、北朝鮮のあるべき姿について率直に筆者に語る貴重な資料です。




漫画家の西原理恵子画伯によると、2001年の5月に金正男氏が『ディズニーランドにいきたかった』という理由で来日した際に、新宿二丁目界隈は上に下にの大騒ぎとなり、専門誌では『やったぜ! 地上に降りた僕らの天使』というコピーの下、大々的な特集が組まれたのだそうです。

それはさておき、本書は北朝鮮のプリンスこと金正男氏と筆者による2004年から2011年の足掛け7年にもわたる150通ものメールのやり取りにとる『対話』と本人へと敢行した7時間にも渡るインタビューの様子を収録し、今、最も注目されるキーパーソンへ肉薄した貴重な記録であり、ここではじめて公開され貴重な文書も多いことから、今後、北朝鮮を研究する第一級の資料になることはいうまでもないでしょう。

僕は一気に読み終えて最初に戻ったときに、筆者と金正男氏のやり取りが7年を一気に凝縮したものだということを再確認しました。読んでいるときは時間の概念を超越できるので、リアルタイムで物事が進んでいるものだとつい錯覚してしまうのです。

つまりは、それくらいスリリングで刺激に満ちたものであったということです。様々な毀誉褒貶が飛び交う彼の人物像ですが、ここでのメールをやり取りを見る限りでは非常に思慮深く、取材者に対する丁寧な言葉遣いや、メールの末尾には必ず『よい週末を! 金正男拝』というメッセージを欠かさないなど、相手に対する尊敬の念を絶やさない彼の姿が浮き彫りになっていて、その辺は凄く衝撃的なものでありました。

筆者とのやり取りで、大変な読書家でもある彼は祖国である北朝鮮の動向を冷徹なまでに観察しており、弟であり現在国家元首でもある金正恩に対しても手厳しいながらも、よい方向に導いて欲しいというある種の『願い』もしくは『祈り』にも似たようなメッセージを送っていたことが印象的でした。

途中で筆者が公開したメールの内容が北朝鮮本国を刺激したとかで彼自身の下に『警告』が送られてきたとされるときはメールの内容はより婉曲的になってきたものの、一国の「プリンス」それも我々から決してうかがい知ることができない国のキーパーソンであるだけに貴重な発言が多かったと思いました。

彼が国を追われたのはスイスに留学し、資本主義的な思想に染まり、その言動が父親である金正日の怒りを買ったからではないかということをほのめかしておりますが、今後の彼の動向が一国の運命を左右することはおそらく明確であると思われますので、そういった意味でも本書は世に問われた意味があるかと思われます。

※追記
本書は2016年10月7日、文藝春秋より『父・金正日と私 金正男独占告白 (文春文庫)』として文庫化されました。金正男氏は2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で顔面に神経剤「VX」を塗られ毒殺されました。享年45。この場をお借りして、あらためてご冥福を申し上げます。

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2025年04月20日

Posted by ブクログ

今は暗殺された金正男とのメールのやり取りとインタビューを集めたもの。

彼のパーソナリティはもちろん、北朝鮮について知ることができた。

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2019年08月24日

Posted by ブクログ

先月に発生し世界中を騒然とさせた金正男暗殺事件。もともと謎多き人物であった正男氏に対し、メールあるいは直接の対面を通じて行われたさまざまなやりとりをまとめたものが本書である。正男氏との接触は世界的に見ても例がすくなく、ましてや「渦中の人物」となった現在は、広く知られるべき貴重な資料であるといえるだろう。じっさい、ワイドショーの解説においては、本書からの引用も見受けられた。さて、肝腎の内容であるが、なんといっても気になるのはやはり政治的な主張。通信はつねに傍受されるおそれがあり、また行動もつねに監視対象となっているため直接的におおきな主張はしていないが、それでも正男氏がつねに強い改革志向を抱いていたことがうかがえる。オビ裏には「反世襲、反核開発、反原発。」との文字が躍っているが、このような先進的な主張が、独裁者の代名詞である「金王朝」のプリンスから発せられたことは大変な驚きである。悪の象徴といった正日氏や正恩氏と比べ、正男氏はネット住人に「まさお」の名で呼ばれるなど人気があったが、じっさい本書を読んでみても、正男氏が正恩氏とおなじ遺伝子をもっているとはとうてい思えないほどで、とても感じの良い人柄がしのばれる。生まれてきた家が悪かったのかなとも思ってしまう。ただ、暗殺されたいまとなっては、正男氏の真の姿はもはや誰も知ることはできないであろう。また、正男氏は本作の出版について、もうすこし時間を置くことを要望していたという。時間的な開きを考えると、本作が暗殺の直接的な契機となったとは思えないし、じっさい本書の出版とは関係なく、数年前からずっと暗殺計劃が存在していたことが報じられているが、やはりそういう人物であるからこそ、もうすこし慎重に記すべき部分もあったと思われる。また、せっかくなのだからもっと写真や図版を載せてほしかった。

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2017年03月01日

Posted by ブクログ

しばらく積ん読になっていて、事件を機に読んだ。
事件を知る前に読めばまた感じ方は違っただろうか。
紳士ではある。結構著者は頻繁に返事が必要なメールを送り、それに対して金氏はちゃんと返している。最後は相手を気遣う言葉を必ず添えて。
指導者になったら、あの国は変わっただろうか。中国の思惑にもふれている。

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2017年02月21日

Posted by ブクログ

難しい問題だ、しかしながら、この本の内容が真実であれば私は、金正男、と父親である金正日の事を誤解してたようだ。
自由を生きる事をがこんなに困難な事が実際にあることを思い知らされた。

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2023年12月19日

Posted by ブクログ

クアラルンプールで暗殺された金正男とのメールダイアログ。正男ともっとも個人的な関係を築いていたとされる東京新聞記者による記録だが、この本自体が正恩が正男を暗殺する動機になったのではないかと思える。

五味氏からの出版打診に対して、正男は北朝鮮の反応を警戒して断っているにもかかわらず、五味氏はこの本を出版している。記者として取材源のコンフィデンシャリティを全然尊重しておらず、五味氏のかっこつけのジャーナリスト魂とやらが、正男氏の暗殺の一因となったとも思う。

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2017年03月24日

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