あらすじ
見合い相手としてあらわれた夏目金之助(漱石)に一目惚れした鏡子。「苦労するが大成する」相手だという占い師の言葉を支えに結婚を決めるが、慣れぬ土地での新婚生活に戸惑う。しかし、それは今後ふりかかる苦難の序章にすぎなかった……! 漱石没後100年に読みたい、山あり谷ありの文豪一家グラフィティ。文庫書き下ろし作品。
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見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目惚れした鏡子。しかし、結婚生活は苦難の連続で…! 波瀾と笑いの数々を経て、深く結ばれた夫婦の絆を描く、文豪一家グラフィティ。
夏目漱石と言えば気難しそうな顔をしたあの写真と、ロンドン時代に心の病を発症したことが知られている。「吾輩は猫である」が実話に基づいていることは聞いたことがあったけれど、本作はさまざまな漱石作品の誕生の背景を鮮やかに描く。さすが植松三十里だ。
(B)
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内助の功という言葉がありますが、文豪の妻という他人にはわからない立場であるが故の苦労は相当なものだったと考えられます。悪妻との定評?のある鏡子さんですが、これを読むと、良妻という一般的な見方が、漱石との夫婦関係には全く意味を成さないものであることがわかります。
少し前にテレビでドラマ化されていたのを見て、良かったので興味を惹かれて小説でも読んでみましたが、原作どおりだったことがわかりました。
癇癪持ちで妻子に暴力を奮うという、今だったらDVに相当する仕打ちも、幼少期の心の傷や、仕事や創作活動のプレッシャーが原因だと理解し、漱石が気持ち良く過ごせるように気を配る姿は、誰にも真似のできることではありません。彼女がいてこそ、夏目漱石が文豪と呼ばれるような存在になったといえます。7人の子どもや福猫とのエピソードも微笑ましいものでした。
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夏目漱石の作品は読んだことがあったけど、その人となりは知らなかった。もちろん病気のことや妻のことも。
四女の出産シーンは滑稽で笑いが止まらなかった。
でも同じ場面に出くわしたら、自分だったら卒倒するかもしれんなと思った。
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漱石について書かれた本はいくらか読んだり、講座を受講したりとそれなりに理解しているつもりだ。初期のころは「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」など軽妙で笑える作品だったのが、晩年近くになるにつれ死生観や知識人の苦悩などの重厚なテーマに変わっていく。生い立ちは勿論のこと、イギリス留学を機に精神的に不安定になり闘病が続く。一通り漱石論も学んだが、文豪・漱石さんは苦手。読んでいると、小説の主人公である男たちにイライラが募ってしまう。親友の恋人を奪い自分を赦せないでいる『先生』、妻の愛情に疑念を抱き、弟に妻と旅行に行ってもらい愛を確かめたい男。かと思えば、罹患した病の詳しい説明や、愛娘が亡くなった時の様子や葬儀などが細かく小説にとりいれられたり・・・。苦しみから首をひん曲げて顔を背けて乗り切ってきた私には、到底理解できない。文章を綴る作業をやっていたら、始終向き合わねばならず忘れる暇がないのではないか。却って症状が治まらずにひどくなっていったのは仕方ない。漱石、50歳に届くか届かないかの死だった。
漱石の作品の中の女性たちは結構自由奔放な面が見受けられる。漱石は屈折した女性観の持ち主なので、あけすけに物言う女に安心感を抱いていた。
鏡子さんはまぎれもなくそういう女性だったと思う。漱石は仕事には几帳面で社会人としては常識を通していたが、家庭では怒り出したら妻や幼い娘たちにも手をあげていた。今でいううつ病で家庭内暴力をふるっていたという。一番近い家族に甘えて暴力に走るという典型的な症状に感じられた。
本書は妻・鏡子さんの視点から漱石を捉えてある。鏡子さんについて云々というより、家庭での漱石を描かれたことで、より漱石像が鮮明になって好きではなかった漱石に親近感が湧いた。
『銀河鉄道の父』で賢治の隠された面を知り、より深く理解できたのと同じ感覚だった。
※漱石は「漱石枕流」から筆名を取った。
昔中国に『流れに漱(くちすす)ぎ石に枕す』という言葉を、『石に漱ぎ、流れに枕す』と言い間違えた男がいたが、負けず嫌いで間違いを認めなかった。負けず嫌いやへそ曲がりを『漱石枕流』と言うようになったという。負けず嫌いは苦しかろう・・・。
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夏目漱石の妻、鏡子視点の漱石。史実とは違うエピソードもあるしヒステリックではない穏やかで肝っ玉女性的に描かれているが、総じて私のイメージから離れてはいないし、良く描かれているのでスムーズに読むことができた。ま、ちょっと良い話として仕上がっている軽い読み物。おもしろかった。
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悪妻という言葉はあっても悪夫という言葉はありません。良妻賢母はいても良夫賢父はいないように、すべて男目線だからなのでしょう。
ちなみに悪妻の特徴はというと、
権力欲が強い
嫉妬深い
自己主張が強い
夫に従順でない
だそうです。(ノ-""-)ノ~┻━┻”
一方…夏目漱石の妻、鏡子が悪妻と呼ばれる理由をみると、
朝寝坊で起きられない
夫に口答えする
漱石の死後、家や物を売り散財したこと
などがあげられるようです。
確かに散財のイメージは大きいですが、
そんなことを言うなら
妻や子どもに暴力を振るった漱石の方が、よっぽど悪夫(あえていう)でしょう。
それに、鏡子なくして漱石の活躍はなかったことを考えると、果たしてそれは悪妻と言えるのかどうか?
時代とともに価値観は変わります。
作者はタイトルにあえて〈悪妻〉と入れることでこの違和感を提出したのかもしれません。
悪妻バンザイ!
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漱石の妻を主人公にしたドラマの原作本かと思ったが、さにあらず。
こちらは漱石関係の資料を駆使して描かれた、文庫書下ろしの作品だという。
ちょうど、そのドラマと同時期に発刊されてるので、当時は漱石の妻にスポットライトを当てるブームだったのか??
あくまで悪妻と呼ばれた妻、鏡子さんの目線から書かれた物語で、文体も現代人が読みやすいものとなっている。漱石作品へのアプローチになるかも??
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夏目漱石の奥さんからの視点で小説が生まれていくところが面白かった。亭主関白というか暴力を振るうのはどうかと思うけど、植松さんの文章で嫌な感じもなくすんなり読むことができた。
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この本を見た時に、昨年秋にNHKドラマで「夏目漱石の妻」を放送していたのを思い出し購入した。
漱石門下の小宮豊隆等によって、漱石の晩年には「則天去私」の心境に達したという「漱石神話」と「鏡子の悪妻」が言われ続けたが、近年は「則天去私」「悪妻」のそのどちらも違って、漱石自身がかなり精神をやられていたという説が主流になっている。
因みに漱石の病名は「神経衰弱」と言われているが、現在では、そういう病名はなく、精神分裂症、躁鬱症の類ではないかと推察されている。ただ、通常の社会生活はきっちりと熟していて、謂わば「家庭内暴力」の要素が強く、複雑な症状と思われる。
全体の視点は夏目鏡子の「漱石の思い出」を下敷きにしている。
見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目惚れした鏡子・・・ここから物語が始まるが、そこから山あり谷ありの苦難の生活に突入していく。
そしていつしか家庭内暴力が始まる。ただ鏡子は、漱石の異常性は小さい時に親の愛情を受けることなく育ったことが原因で、「子供の我がまま」と同じようにしてその愛情を自分に求めているとして、温かく包み込んでいく。
著者は、本来暗い題材を、明るく、そしてやや軽めの感じに仕上げており、文豪漱石ではなく、肩を張らずに、漱石・鏡子の素顔に触れながら読み進める。