【感想・ネタバレ】問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論のレビュー

あらすじ

大ベストセラー『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』に続く第2弾!
現代最高の知識人、トッドの最新見解を集めた“切れ味抜群”の時事論集。
テロ、移民、難民、人種差別、経済危機、格差拡大、ポピュリズムなど
テーマは多岐にわたるが、いずれも「グローバリズムの限界」という問題に
つながっている。英国EU離脱、トランプ旋風も、サッチャー、レーガン以来の
英米発祥のネオリベラリズムの歴史から、初めてその意味が見えてくる。

本書は「最良のトッド入門」でもある。知的遍歴を存分に語る第3章「トッドの歴史の方法」は、他の著作では決して読めない話が満載。
「トッドの予言」はいかにして可能なのか? その謎に迫る 日本オリジナル版。

「一部を例外として本書に収録されたインタビューと講演はすべて日本で
おこなわれました。その意味で、これは私が本当の意味で初めて日本で
作った本なのです」(「日本の読者へ」より)

【目次】
日本の読者へ――新たな歴史的転換をどう見るか?
1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?
2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」
3 トッドの歴史の方法――「予言」はいかにして可能なのか?
4 人口学から見た2030年の世界――安定化する米・露と不安定化する欧・中
5 中国の未来を「予言」する――幻想の大国を恐れるな
6 パリ同時多発テロについて――世界の敵はイスラム恐怖症だ
7 宗教的危機とヨーロッパの近代史――自己解説『シャルリとは誰か?』

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Posted by ブクログ

ネタバレ

遅ればせながら読み始め…前作を上梓してフランス国内では批判の対象となった著者。前作の前書きでは「読売と日経の記者が心のよりどころになったこともあった」と明かしていたが、今作では「あの本を出したことで今、自由に物が言える立ち位置になった」と話す。
前回よりだいぶ読みやすくなって、持論の人口学的な話もわかりやすかった。

トッドいわく、イギリス人のいないヨーロッパ、それはもはや民主主義の地ではない。1930年代の大陸ヨーロッパはポルトガルのサラザール、スペインのフランコ、ムッソリーニ、ヒトラー、チェコスロバキア以外はいたるところに独裁者がいた。

フランス、アメリカ、イギリスは自由を強制されている。絶対核家族のアングロサクソン世界の平均的個人は権威主義を許されていない。
「自由」が強迫観念になっていない日本のような権威主義的社会のほうがトッドの「家族構造が政治的行動を決定する」という決定論を受け入れやすい。日本で最初の講演を終えたら「トッドさんは長男ですか、次男ですか?」と聞かれた。スキャンダル視されることなく受け入れられた。「人間の自由には限界がある」ことを認識できるという意味で日本のほうが実質的に自由なのかもしれない。そういう能力を今日の西洋人は失っている。自由が強迫観念になり、ゆがんだ人間観を持っている。リベラルと言われる社会が実はさほどリベラルでなく、先進国のナルシズムともかかわる問題。「シャルリとは誰か?」のテーマでもある。

日本は出生率を上げるには、女性により自由な地位を認めるためには、不完全さや無秩序も受け入れるべき、子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきではないか。
歴史学者、社会学者から見れば、ISは西洋が生み出したもの。ジハード戦士の大半は西洋から現地入りした者。アルジェリア人は「なんでヨーロッパ人は、あなた方のクソみたいなものをこっちへ送ってくるのか」イスラム社会から生まれたとはみなしていない。
グローバリズムへの漠然とした不満がイスラムヘイトにつながっている。社会と国際関係の安定を望む民衆は過剰なまでのグローバリズムの進展に小休止を呼び掛ける権利をもっている。経済格差の拡大はスケープゴートを求めてイスラム恐怖症という妄想のカテゴリーを生み出している。

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2018年11月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

EUが欧州統合の象徴ではなく、ドイツをトップにしたヒエラルキー構造であることを分かりやすく説明してくれる。

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2022年12月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カバー裏の窓には筆者の肩書として歴史人口学者・家族人類学者とあります。私は存じ上げなかったのですが、数字を引き合いに出して議論するちょっと面白いことをいうオジサンだな(失礼!)、という印象でした。

何が面白いかというと、時事的なトピックについて欧州人として率直かつ分かりやすく語っている点。例えば表題ですが、Brexitの件です。私がぼんやり考えていたのは、折角国連みたいな連帯組織であるEUにいるのになぜに抜けてしまうのか? もったいないなー、英国、みたいなとらえ方です(バカ丸出し済みません)。筆者から言わせると、いやいやEUがやばいのであって、寧ろ英国はフツーですよ、と説きます。一部移民の制限をしたいという英国側の思惑も報道がありましたが、筆者の言わんとするのは英国の「主権の回復」です。英国はこれまでも通貨発行権も手放していませんでしたが、より自国を中心に考えるという事のようです。まあ主権の話も社説等でチラチラ出ていたりしますが、実際EUに住まう学者から説明されると、真偽はともかく「やっぱりそうかぁ」的に思いました。

ちなみに、ここから敷衍して、自由主義を標榜する英米二大巨頭が一方はBrexitとして他方はトランプ元大統領が行った保護主義として自己否定しているという事を述べており、行き過ぎた自由主義にはちょっと反対な私としては、心のなかで激しく同意した次第です。

他方で、いまいちだなと感じたのは、まとまりのなさ。
7つほどのインタビューや論説の寄せ集めであり、余り深さを感じませんでした。人口学や家族論が専門の方ですが、そうした方が移民について語ったり、フランス国内のテロが移民家系の国民が起こした点について語るのはなるほどと思うのです。ただ、そうした学者が米国政治の行方とか、中東情勢について語るのは、あたっていることもあるかもしれませんが、ぱっと見、テレビのコメンテーター的な雰囲気を感じてしまいました。

・・・

上にも書きましたが、ちょっとコメンテーター的ではありましたが、言っている内容は割と同感する部分が多かったです。家族論が専門とのことで、うちのように国際結婚した家からすると筆者がどんなことを考えているのか他の専門書も読んでみたいと思いました。

欧州やEUについて学びたい方、フランスの現代社会の歪みや移民政策に興味のあるかた、政治全般に興味のあるかた、人口学・家族論に興味のある方にはおすすめできる本だと思います。

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2021年07月27日

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