あらすじ
丹波の山奥に大工の倅として生れ、若くして京の植木屋に奉公、以来、四十八歳でその生涯を終えるまで、ひたむきに桜を愛し、桜を守り育てることに情熱を傾けつくした庭師弥吉。その真情と面目を、滅びゆく自然への深い哀惜の念とともに、なつかしく美しい言葉で綴り上げた感動の名作『櫻守』。他に、木造建築の伝統を守って誇り高く生きる老宮大工を描いた長編『凩』を併せ収める。
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Posted by ブクログ
『櫻守』と『凩(こがらし)』の中編二作を収録。どちらも、死場所を求めて旅を重ねる物語のように思える。
「死にたい」という意味ではない。
どちらの主人公も、己の生業(なりわい)に真摯に生きた人生の「上がり」の場所を定め、そこで静かに眠りに就きたいのだ。
変わってゆく世の中への嘆きや不満はある。しかし、自分の人生を生ききればそこで潔く終わる。
作者の死生観があらわれている。
どちらも自然の描写がとても美しく、葉ずれの音、その色、風や光、水の流れを近くに感じる。
【櫻守】
木樵であった祖父について小さな頃から毎日のように山に入っていた、北弥吉(きた やきち)。
山桜の散る中で見た、母と祖父の姿が目に焼き付いていた。
やがて庭師となり、桜の研究者・竹部庸太郎の片腕となる。弥吉は師にならい、あちこちの桜を見て回り、無償で手入れをした。
多くを語らない人物だったが、見て回った木のことを「桜日記」に残す。
40代で病を得た時、彼は故郷ではなく、年に何度となく手入れに行った、一本の桜の下に眠ることを望んだ。
【凩】
宮大工の倉持清右衛門(くらもち せいえもん)は、老いて脚に神経痛を患い、思うように働けなくなった。
村民たちとそりが合わず、自分の葬式には何人来るだろうということばかりを考える。
京の町中で暮らす娘のめぐみに、家と土地を売って自分たちの近くで暮らすよう勧められるが、娘とその相方・達之の生き方にはことごとに反発を覚える。
達之の、己の手では何も作り出さない、インテリアデザイナーという仕事も理解の範疇を越える。
近代化を頭ごなしに否定するわけではないが、やはり木造建築の、何百年と変わらない美しさを保つ寺社を見れば、自分のしてきた仕事を誇りに思うのである。
やがて清右衛門は、自分の死場所としての堂を建てることに、宮大工としての技術の全てをつぎ込んでいく。