あらすじ
カルナバル(カーニバル)の国、ブラジル。15歳のアリコは、不思議な少女ナーダと出会う。自由奔放に生きる彼女が、孤独なアリコの目には眩しかった。サンバのリズムと鮮やかな色彩で描かれる幻想的な物語。
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Posted by ブクログ
全部読み終わると、物語の冒頭でアリコが観ていた『世界の始まりへの旅』という映画のタイトルが意味を持って来る気がする。あの世とこの世、日本とブラジルとポルトガルのあいだを、アリコの心は旅をするんだもの。みんなが明るく楽しく生を謳歌するリオ・デジャネイロにおいて、父親と二人で目立たないようにひっそりと暮らすことで、かえって目立ってしまうナオキとアリコ。ポルトガル人の母は、アリコの幼い時に亡くなっている。陽射しの強いところには影ができるように、底抜けに明るいカリオカ(リオッ子)の中にも、サンバのリズムにも、悲しみを感じ取る、おとなしく引っ込み思案で感受性の強いアリコ。子どものころの思い出で、バイーアからきた黒人の白いスカートの中で踊る、ちっちゃなアリコ。その中でママエ「アリコ!」「ママエ!」と呼び合う、アリコの原体験ともいえるシーンが鮮烈で印象的。
詳しくは書かれていないけれど、バイーアという場所はサトウキビ産業の働き手として連れてこられた黒人による、アフリカ文化が残る場所。描かれている白いレースも、画像検索すればその美しく繊細な生地を纏った、現地の女性たちの姿を見ることができる。その歴史を思うと、明るいリズミカルなダンスも哀愁を帯びて聞こえることだろう。
ナオキとたった二人のちいさな「ファミリー」が、ポルトガルでママエの家族と会うことで広がって、同時にアリコの世界もぐんっと広がるところでちょっと泣いてしまった。これが冒頭の映画のタイトル『世界の始まりの旅』の伏線だったんだ。そして、アリコはこれから、ジッドと手を取り合って新しい自分を生きることになるんだな。姉妹のナーダにも見守られながら。
ナーダのオッドアイは、何かのメタファーなのかな。この世を見る目と、あの世を見る目? 「姉妹」っていうよりも、ナーダはアリコの分身なのかもしれないな。真逆のキャラクターが自己の中に内在してる、みたいな感じ。