あらすじ
コンピュータにはなく、人間の思考にだけあるもの、それは「死」の感覚と「他人の不幸を思いやる気持ち」。数学者だからこそ見極められた明晰な論理の底には、深い情緒が流れている。妻の初産にうろたえる夫の心、思考の限界に挑む学者の気概、父・新田次郎の足跡をいつくしむ旅の日記。そしてちょっとトボけた身辺雑記。数学者にして名うてのエッセイストが贈る、選りすぐりの随筆集。
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Posted by ブクログ
巻末100ページあまり、「父の旅 私の旅」が読みどころ。
1980年、ポルトガル人モラエスを主人公にした小説を毎日新聞に連載中だった父・新田次郎が急逝。新田は、その前年にポルトガルを取材旅行していた。息子・藤原正彦は、遺された取材ノートを手に、父親がポルトガルでたどった道をたどる。その地でなにを見、なにを聞き、なにを感じたのか、どのような人たちと会ったのか、いわば追体験の旅。同時にそれは父親との対話の旅でもあった。
なにやら真剣そうだが、いつものユーモアは健在。若い娘との多少妄想めいたアバンチュールもある。天正少年使節ゆかりの地(エヴォラ)で、現地の人間がだれもそのことを知らないのを嘆く場面もある
新田の連載小説は絶筆&未完……のはずだった。しかしその後、藤原はそれを書き継ぐことにする。『孤愁<サウダーデ>』の完成は30年後の2012年。なんという執念!
Posted by ブクログ
コンピューターにはなく、人間の思考にだけあるもの──それは「死」の感覚と「他人の不幸を思いやる気持ち」。数学者だからこそ見極められた明晰な論理の底には、深い情緒が流れている。妻の初産にうろたえる夫の心、思考の限界に挑む学者の気概、父・新田次郎の足跡を慈しむ旅の日記。そしてちょっとトボけた身辺雑記。選りすぐりの随筆集。
エッセイの随所を通して笑える箇所が多いのは相変わらずだが、父の旅した軌跡を自らも辿ったという「サウダーデの石」は、読んでいて胸の熱くなるものがあった。
大作を完成させられずに逝った新田次郎。その続きを、もし可能であるならば、ぜひ藤原正彦に書いてほしいと思った。
Posted by ブクログ
藤原正彦、父になる。
藤原正彦、女性問題について考える。
藤原正彦、父を辿る旅に出る。
エッセイ集だが、この3つが主軸になっているように感じた。
そして文学作品を読んでいるような言葉の美しさに胸を打たれ、彼の心の動きが自分のもののように感じた。
Posted by ブクログ
およそ数式の出てこないエッセイ集。おそらく日本語文章の論理性がしっかりして、段落の分かれ方が絶妙だからか、無意識のうちでも理解しやすく、とても読みやすい。
数学以外、家族のことなどを語る文章はやわらかく、数学教育への提言に近い内容になると悲観的ながらも熱い文章になっている。
後半1/3を占める「父の旅 私の旅」は沢木耕太郎の「深夜特急」を彷彿とさせる。