【感想・ネタバレ】「奇跡の自然」の守りかた ──三浦半島・小網代の谷からのレビュー

あらすじ

源流から海までの生態系が自然のまま残された「小網代の谷」はどのように守られたのか? 地元の人や訪れた人たちが手伝い一緒に森を育てる、自然保護の新しい形とは?

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 三浦半島の先端にある小網代(こあじろ)という「源流から河口までまるまる保存されている自然」公園があります。都市に近い場所で、「流域」丸ごと保存されている場所は同緯度帯では世界でここだけ。
 この本は、リゾート開発や宅地開発の波からどのようにこの自然が守られて、それが継続されて、公園になって、市民に支え続けられたか、を、実践的な「プロジェクト管理」の視点から記載されています。
 今までの保全の常識とは異なる懐深い長期的な対策がこちら。
 1.珍しい絶滅危惧種を見つけて貴重だから守れという
 2.開発企業や自治体を「悪者」といいふらす
 3.開発は何が何でも反対。木一本でも倒すな!
 4.いろいろな人に声をかけて反対デモをする
 5.政治家にお願いして開発反対の声を拡散する

ではないんです。上記は典型的な開発反対・自然保護の例。でも今回成功した対策はこちらなんです。
 1.「流域丸ごとの自然」が貴重という。「多様性の保全」
 2.開発企業・自治体を一緒にやっていこうとする。
 3.開発反対!といわず賛成という。
 4.反対デモなどはやらない
 5.反対が得意な政治家や団体には声をかけない。
ということです。これじゃあ保全なんか出来ないんじゃないかと思って読み進めたのですが、「ステークホルダー」に寄り添って、関係者を絞り込むことでプロジェクトを言い方が悪いのですが、優位に進めていく様子がありありと分かります。

 さて、一旦保全が決まった後も、どのように継続していくかが課題になります。その方法はこちらです。
 1.せっかく守られた自然だから、モリには一切手入れをしない。「手付かず」
 2.木は一本たりとも切らない
 3.せっかくの自然だから、一切森のなかに人工物を入れない。
 4.国立公園、県立公園にして、公園管理のプロに任せる

 ではないのです。実際には

 1.森には定期的に人が入り、水の流れから湿原の木々の生えかたから手入れをする。
 2.重要な自然だからこそ時には木を切る。
 3.人口の木道を上流から河口まで一本通す。
 4.公園のプロが管理するだけでなく、NPOのスタッフが日常的な管理や案内を行う。

という、ことになってます。これは、開発こそされなかったものの、放置され荒れ果てた自然を、本来の姿に戻し、それを維持するため。そして、小網代自体は都市に密接している場所にあり、安全を第一として考えられる事故を事前に予防し、されに多くの市民に開放することにより市民に愛される自然にいるために必要なことなのです。
 都市から遠くはなれた、人間の影響を受けない自然を守る場合との違いがここにあります。

 実際の人工物は、ビジターセンターと一本の木道だけですが、この2つにより、むしろそれ以外の場所にひとが入り込まないので、多くの人間を受け入れても保全への影響を最小限に抑えています。

 結果、湿原の植物もカニも昆虫も大挙して押し寄せ、大繁栄することになっています。
 
 実はこの著者であり、実際にこの保全に最初から関わったのは慶応の先生なのですが、この人が「気持ちだけが先行」しがちな保全活動において、ある意味したたかとも思えるプロジェクト進行をすすめます。これは企業内でのプロジェクト管理にも通じるものがあると思います。

 なお、注意点が一つ、、、流域保全なので、マムシとスズメバチもいます。行く時には白い服を着て(黒は熊と間違えて攻撃してきます)、ジュースなどの甘い飲み物は飲まないように(花だとおもってよってきます)してください。木道はマムシ対策でもあるので、木道以外は歩かないようにしてください。

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2016年08月05日

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