あらすじ
僅かに虚名が上がり、アブク銭は得たものの内実が伴わぬ北町貫多は虚無の中にいた。折から、藤澤清造の自筆原稿が古書の大市で出品された。百四十一枚の入札額を思案するうち、ある実感が天啓の如く湧き起こる(「形影相弔」)。二十数年振りに届いた母親からの手紙に、貫多の想念は激しく乱されるが……(「感傷凌轢」)。孤独な魂の咆哮を映し出す、私小説の傑作六編。『歪んだ忌日』改題。
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Posted by ブクログ
9冊目。文庫化しているものに関して粗方読んできたが、それを踏まえた上で、丸くなった印象を受けた。20年以上没交渉になっていた母から手紙が届く『感傷凌轢』のセンチメンタルはまさにそれで、あぁ、こういうのも書くんだなぁという感じ。さすがに実母にまで悪態尽くしにしてしまっては読み心地が悪過ぎてしまうからだろうか、あるいは著者が持つ子心か。
ただ、作風に慣れたためか、最初に同著者の小説を読んだ時の衝撃はなくなった。6篇のうち3篇は芥川賞受賞後の貫多を描いた作品であり、従前の爆発的な憤怒や雁字搦めにねじ曲がった感情はややトーンダウンしているように思える。
より破壊的、というか破戒的な小説が読みたいと望んでしまうのは、贅沢な悩みだろうか?