【感想・ネタバレ】いつも彼らはどこかにのレビュー

あらすじ

たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。――動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

小川洋子さんによる動物がテーマの短編集。2013年発行ですからちょい前のものです。

・・・
作りとしては短編集となっています。相変わらず不思議な物語を綴ります。

タイトルに動物が絡みますが、物語は時として重層的に進みます。

あらすじを書こうと思ったのですが、上記の重層性の関係で説明しきれんと思い、このようにバッサリやりました。

帯同馬・・・タイトルは『フランスの凱旋門賞で優勝が期待されるディープ・インパクト。慣れない土地への移動のストレスを緩和するためにピカレスクコートが帯同場として出国した。』という点より。主人公は(おそらく)大阪モノレール間のみ移動できる電車恐怖症の女性(職業;実演販売)。

ビーバーの小枝・・・主人公はとある作家。タイトルは、彼の翻訳を担当した外国人が翻訳の際にさすったという、ビーバーが表皮をキレイに食った小枝より。

ハモニカ兎・・・主人公は、とある村の朝食屋の主人の話。タイトルは、この男の村で開催されるオリンピック競技の開催までの日めくりのボードより。ここにかつてハモニカ兎という特産兎がいたという話から、この動物が日めくりボードになっている。

目隠しされた小鷺・・・主人公はとある私立美術館の受付係。タイトルは、ここに訪れるうらびれた修理屋で何をやってもダメそうな「アルルの女」が機敏に助けた動物から。

愛犬ベネディクト・・・主人公は若い男の子(大学生くらい?)。タイトルは彼の妹が可愛がる陶製の犬の名前より。

チーター準備中・・・主人公は動物園の受付で働く女。タイトルは、彼女の失ったhがチーターcheetahに含まれていており、また彼女が好きなのは展示の主人のいなくなった「展示中」の檻とその看板だったことから。共有されない「喪失」の悲しみが痛い作品。

断食蝸牛・・・主人公はとある断食施設に身を寄せている女性。タイトルは、彼女が足しげく訪れた近くの水車小屋、そこで買われている蝸牛と、彼女が入っていた施設の目的から。

竜の子幼稚園・・・主人公は身代わり旅行人のおんな。タイトルは、若くしてなくなった弟が通っていた幼稚園から。

・・・
今回も、美しくも静謐に満ちた表現の花園にうっとりしたのですが、読中ひらめきました。小川氏の表現は、ナチュラル・メイク的表現だな、と。

通常描写というのは隠喩であれ直喩であれ、手を変え品を変え、時に複数の角度から物事を表すと思います(違うって!?)。

でも小川さんの表現はこんな厚化粧ではないのです。もっとシンプルで美しい。あ、でも薄化粧というわけではないのです。
そこにはきっと計算と試行があり、一番質の良い表現が意図をもって配置されているのだろう。そして表現は適切に間引かれ、ミステリアスな雰囲気をまとうのだろう。

ああ、これって、(薄化粧でなくて)ナチュラル・メイクじゃないのか、と。という一人合点でした笑

・・・
表現が適度に間引かれているせいか、最初の「帯同馬」以外、舞台がどこであるか分かりません。

特に幻想度が強いのが、最後の「竜の子幼稚園」でしょうか。身代わり旅行人なんて聞いたことが有りません笑 でもあったら素敵だなあとも思いました。最後に死んだ弟と再会するかのような出会いも幻想度を高めていたと思います。

また、学校に通わなくなった妹がドールハウス世界に没入する「愛犬ベネディクト」もちょっとした狂気を感じます。妹の没入に祖父も陰に陽にサポートし始める点です。

・・・
ということで二週間ぶりの小川氏の作品でした。

今回も美しい静謐感に満ちた表現を頂きました。決して起伏が激しい展開ではありませんが、このワードチョイスあってのこの展開だと思っています。

ことばを楽しみたい方にはお勧めできる作品です。

0
2024年04月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2016年、31冊目です。

動物と人間のふれあいみたいなことがモチーフかと思って読み始めました。
それは、心地よく見事に裏切られました。まさに小川ワールドという感じです。
ストーリーや文体そのものに、大きな感動や心を揺さぶるメッセージがあるわけではないのですが、自分の心の中にある様々な考えというか既存の感情の隙間に、じわっとしみ込んでくる感覚がします。
これは、私の小川洋子作品に対して共通して抱くイメージです。
この小説は、何かしらの生物が出て来る8つの短編が収められています。
「帯同馬」/「ビーバーの小枝」/「ハモニカ兎」/「目隠しされた小鷺」/「愛犬ベネディクト」/「チーター準備中」/「断食蝸牛」「竜の子幼稚園」です。

「目隠しされた小鷺」に出てくる移動修理店の老人が、1枚の絵を見るために、小さな美術館にやってきます。そこで働く「私」は、老人がその絵を見るために行っている奇妙な行動を手助けすることになります。この老人の行為にすごい重たい背景があるのか?と思わせながら話は、「私」とその老人の関わりで進みます。”小鷺”が出てくるのは、最後の一瞬です。まさに、いつも彼らはどこかにという感じですね。

「帯同馬」というのは、海外の大きな競馬レースにでる本命サラブレッドの精神的安定をはかるために、一緒に移動遠征する時に”帯同”するレースに出ない馬のことです。この物語だけが、関東の競馬場であることが分かります。ちなみに他の作品は、まったく場所が分かりません。そもそも日本なのかさえも特定できないです。そういった物語の設定の場所を無機質で、白っぽい感じにすることで、登場する人間の行動の中に心の機微を感じやすくしているだろうかと思います。

「愛犬ベネディクト」は、もうちょっとのところでサイコパス的世界に入ってしまいそうな感覚をうけました。愛犬とは犬の置物なのですが、それに対する家族の思い入れ方というか、存在の受容性が、滑稽に思える反面、恐ろし世界を描いているという感覚を待たせます。(2016/11/19)

その他の小編については、また思い出せたときに、加筆します。

おわり

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2016年11月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

8編すべてに動物が登場する。
読み終わって、人も動物もみんな孤独だという思いを抱いた。それは決して悪いことではなくて、孤独な存在がそれぞれ感じられることが小さな光のようだった。
特に好みだったのは「愛犬ベネディクト」だった。祖父と孫ふたりの生活にはベネディクトという存在が必要なのは分かったけれど、ブロンズ製の犬を中心とした生活に、この家庭の喪失が浮き彫りになっている気がして胸が締め付けられた。手作りドッグフードを食べて病気にまでなっているのだ。この生活はいつまで続けられるだろう、と悲しくなった。
ラストの「竜の子幼稚園」も悲しかったけれど、空っぽの心にじんわりと温かい余韻をくれるような物語だった。

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2025年01月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『失った物をあなたは覚えていますか』

片方だけのピアス、仕舞って置いたはずの切手、大切な人と見たミュージカルのチケットの半券、臍の緒、なくした物をあなたは覚えていますか?

生き物がテーマだと言い放つにはあまりにも動物達は自然で、異質で、矛盾をはらんでいる。

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2016年06月23日

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