あらすじ
面白いけれども、きつい仕事に燃え尽きてしまった36歳の女性主人公が、1年で異なる5つの仕事を経て、自分と仕事との健全な関係を取り戻すまでを描く連作短篇。芥川賞作家・津村記久子さんの注目作が電子書籍で登場!
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
## 感想
私は今の仕事を14年続けていて、この本の主人公と同じ年齢と経歴だ。
そんな主人公が仕事で燃え尽き、様々な仕事を転々とし、不思議な体験をしつつも、「仕事」対して色々考えていく話。
「こんな仕事あるの?」というニッチな仕事と、ちょっと不思議な体験。
そして最後の結末に至るまでに、ちょっとずつ過去の仕事のことが出てくる感じ。
淡々とした主人公で、仕事や同僚に対して冷ややかな目を向けたり、変なところで仕事に熱意を傾けたりしていて、面白い。
同じ仕事を長く続けてきて、結局どの仕事でも合う合わないはあるし、人によって感じ方は様々だということを実感してきた。
なんなら今でもそう。
私は新しい仕事をするのが好きだし、自分のやりたいことをどうにか叶えたいと、なんとかそんな部署に身を置いて仕事をしている。
やりがいはあるが、無力感や苛立ちを覚えることもあり、最後の仕事で主人公と会話をする菅井という人物の言う、「喜びが大きい分、無力感や疲労感も大きい」というのは納得できる。
この本の主人公は「透明な仕事」と言っていた。
言われたことだけやるというような、考えず、人と交わらず、責任は小さく、いてもいなくてもいいような感じのことを言うんだろうと思ったが、そういうことに身を置いて現実逃避したい、というのは分かる気がする。
普段そうではないからこそそう思うのかもしれない。
結局、どんな仕事でも良い面も悪い面もあって、合うか合わないかは人次第だ。
だから最後に主人公が思うように、「ただ祈り、全力を尽くす」ことが、仕事で実りある時間を過ごすヒントなのかもしれない。
置かれた場所で咲く努力が必要だが、咲かないと分かったら、そそくさと場所を変えることも同じくらい大切だ。
## メモ
### 履き古した靴の裏のような表情
> そんなつらい思いを抱えた夜にも、もちろん朝は来て、前職の末期の出社時と同じように、履き古した靴の裏のような表情で、私は実家の前の道路を渡り、監視の仕事に戻った。家と職場が離れすぎているのはもちろん良くないことだが、近すぎるのも良くないと思う。寝起きのどんよりした感じが、まったく抜けきらないまま出社することになってしまう。今の仕事は、朝の十時に出勤と始業が少し遅いのだが、帰るのが夜の十一時を過ぎていたら、その遅さには何の価値もなくなる。(p26)
>
### 透明に近い仕事
> 電線の上で鳴いているすずめを数える仕事とか、交差点を何台赤い車が横切ったかを調べるとか。それを言い足してしまうとあまりにふざけている感じがしたので、私は口をつぐんだが、半は本気だった。もはや、仕事と見做されるかどうかはあいまいなような、透明に近い仕事が良い。突然、何かを持て余した上品な老婦人が現れて、お疲れなのね、頼りにしてるわね、なんて言われない仕事。それでやっぱり、一人でできる仕事。いや、そこから出なければいけないことは重々わかっているのだが、とにかく、今のところは。(p191)
>
### 弱さに居座る
> 私が助けて欲しい時はな、誰かの中に弱さを作り出してそこに居座ろうっていう人間じゃなくて、「申し訳ないけど助けて欲しい」ってはなっから言頼している人か専門家に言うよ坊や。(p217)
>
### 話を聞くと受け取る
> 「話を聞く」と「話を受け取る」の間には、かくも大きな溝が横たわっている(p222)
>
### さびしくない人はいない
> いや、さびしくない人はいないんだ、それをそういうものだと思えるかどうかだ、と。みんながみんなさびしいとして、そのさびしさを誰とのどの深さの関わりで埋めるか、もしくは埋めないのかは、本人の自由なのだ。(p239)
>
### どんな仕事でも
> またそれを受け入れる日が来たのだろう。どんな穴が待ちかまえているかはあずかり知れないけれども、だいたい何をしていたって、何が起こるかなんてわからないってことについては、短い期間に五つも仕事を転々としてよくわかった。ただ祈り、全力を尽くすだけだ。どうかうまくいきますように。(p347)
>
Posted by ブクログ
休職して1ヶ月が経ったころ、タイトルを見て「ほんとそうよな、」と思い、読み始めた。
この本に出会えて本当によかった。
最後の文、言葉に出会えて本当によかった。
ただ祈り、全力を尽くすだけ。
どうかうまくいきますように。
Posted by ブクログ
*「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」燃え尽き症候群のようになって前職を辞めた30代半ばの女性が、職業安定所でそんなふざけた条件を相談員に出すと、ある、という。そして、どんな仕事にも外からははかりしれない、ちょっと不思議な未知の世界があって―。1年で、5つの異なる仕事を、まるで惑星を旅するように巡っていく連作小説*
この人の世界観、どうしてこんなに面白いのかな。
こんな仕事が…!と言う着眼点と、冷静かつドライな突込み、繊細であたたかなユーモア溢れる心理描写、全てが融合して最高の津村ワールドが展開されています。
ほっこりした読後感と、仕事に対する意欲と元気をもらえる秀作。
Posted by ブクログ
36歳女性の主人公が様々な職を転々とする様を描いている。
個人的には1番最初の話が好きで、監視対象がこちらを覗き見ているような描写がぞくりとして楽しめた。
主人公はどれもメジャーとは言い難い仕事を経験していくのだが、各所で得た経験やスキルを発揮して仕事に没頭していく進行がとても良くできているなと思う。
最後に人生の波を受け入れる事について書かれており、主人公がこれからひとつの職場に落ち着くのか、また波乱が続くのかという先を考えさせる終わり方もとてもよかった。
Posted by ブクログ
もともとジャンルとして「お仕事小説」が好きなのと、タイトルが自分の持論ズバリそのままだったので思わず手に取った。
主人公は自己肯定感が低く、仕事を評価されても素直に受け取れない。また、仕事にのめり込むと生活に事情を来すほどになってしまい、一つの仕事を長く続けられない。
新卒で働き始めた職場を辞した後、さまざまな短期の仕事に就くも、どの仕事にものめり込みすぎてしまう。
仕事にのめり込んでしまうというのは時給労働であれば無駄だが、自分で事業をするのであれば大きな強みになる。この女性はどちらかというと個人事業主のほうが向いているのではないかと感じた。