あらすじ
年上の娘への初恋が裏切られた時から、クヌルプの漂泊の人生が始まる。旅職人となった彼は、まともな親方にはならなかったが、自然と人生の美しさを見いだす生活の芸術家となり、行く先々で人々の息苦しい生活に一脈の明るさとくつろぎをもたらす。最後に雪の中で倒れた彼に神さまはクヌルプは彼らしく生きたと語りかける……。永遠に流浪する芸術家の魂を描いた作品である。
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Posted by ブクログ
あるがままに生きること、自分の人生を生きることを考えることができる本だった。
といっても、デミアンほど哲学書めいてはなくて、
淡々と暖かく、綺麗に書かれたクヌルプの生涯を通じて読者に疑問を残してゆくタイプの本。
ヘッセ文章の柔らかさをひしひしと感じた。
思わず宝箱に入れたくなるような一冊。
Posted by ブクログ
自由奔放に生きてきたけれど自分は何者にもなれなかった、と嘆くクヌルプに、人々に愛され、ときに嫉妬心を呼び起こさせる、それこそがお前の存在意義だったじゃないかと言い放つ神様。
この本を人生の本としてあげていた某私の推しさん、アイドルとしての存在意義をクヌルプと重ねたのかしら?…と思ったらなんか切なくなっちゃった。
他の方の感想を見ていたら、クヌルプを「我が家にやってきた猫」に例えていた方がいて、みんなを魅了してきたクヌルプの人となりがストンと理解できた!人間がこういう性格だと「ただのワガママじゃん」て思ってしまうところが面白いね。
猫はそうやって生きても「なんのために生きているんだ」とは悩まないだろうけれど(笑)
Posted by ブクログ
解説に小説としてのストーリーはないが、散文詩としてのまとまりがある、と記されている。その通りで筋らしいものはない。1部はクヌルプの気障なところが見える。2部は友との哲学的対話。3部がメインだろう。この最期に感じたクヌルプの人生の決着が、この小説の最も重要なシーンだと思われる。普通の人のように、人生に対して建設的に臨めなかったが、周囲に子供っぽい笑顔を振りまくクヌルプらしい人生だった、というわけだ。
「彼は才能があったのに、何故落ちぶれてしまったんだろうか」という問いに対する答えがこの小説にある。
落ちぶれた人クヌルプ…しかし彼は落ちぶれてなどいない。
自由気ままな旅人だ。解説にはエリートより共感しやすいとあるが、共感の対象になるにはあまりにクヌルプは人好きのする性格だ。太宰治の人間失格を読んだ時のような気分だ。持つものが、道を踏み外して落ちぶれていくのに、共感は来さない。持たざるものが道を踏み外した悲しみより、幾分救いがあるからだ。