あらすじ
十六歳のマリが挑む現代の「東京裁判」とは?少女の目から今もなおこの国に続く「戦後」の正体に迫り、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞受賞。読書界の話題を独占し“文学史的事件”とまで呼ばれた名作!
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Posted by ブクログ
赤坂真理の自伝的な小説?
初めは、様々な時空をいったりきたりしながら「我が家の秘密」にたどり着くお話なのだろう、と思っていたら、「天皇の戦争責任」というテーマに真正面からポジションをとった話だった。
めくるめく表現のメリーゴーランド。抽象的文章やありきたりの日常の後に、具体的・非日常的文章に浸るのは心地よい。と同時に、最後の章までは、辻褄がどうあってくるのがわからず、若干つらい思いもする。
東京裁判、平成最後、天皇、日本の戦後、1964年東京都生まれ、高円寺、落合、ハンティング、ビートル、ハロウィン、インディアン、ヘラジカ、大君、ベトナムといったあたりがキーワード。
最後の章になって、見えてくるのが「罪の次元の違い」といった視点である。国が組織的に相手の国を焼き尽くすような罪と戦争に送り込まれた人間が狂気にかられて虐殺を行うような罪とでは罪の次元が異なるということだ。前者は、国や集団としてどのような宗教を信じるかということに連動した罪であり、後者は個人としてどのような信念にもとづき行動するか(あるいはしないか)という罪としてとらえられていると理解できる。
その前提で、天皇の戦争責任は「英霊」に対して「はしごをはずした罪」「軍部に利用されるがままになっていた罪」といったことが指摘される。これが、国の罪なのか個人の罪なのか、というあたりの二重性を起点にした議論につながるかがテーマの困難さにつながっているような気がするがそういう理解でよいのかどうか。
Posted by ブクログ
『愛と暴力の戦後とその後』が素晴らしくて、それを読んで以来憲法改正には慎重な立場となった。それからずっとこちらの小説も気になっていて参院選の機会に読んでみたのだけど、けっこうしんどくて投票までに読み終わらなかった。
高校生なのに頭が良すぎる。外国語でディベートをするのもすごいし、それ以前に知識と知能がめちゃくちゃしっかりしていて、そんな子を落第させるなんて、アメリカの先生どうかしている。今50歳のオレの人生のどこを区切っても16歳の彼女より頭がよかったことなんかない。そういう意味ではあまり現実味を感じないほどだった。
時空と人格を超えて通信する場面は面白かったけど、ほかの幻想的な描写は頭に入って来なくて読むのに苦労した。そして何より長くてつらかった。
Posted by ブクログ
前半は天皇と日本国民の関係などを夢や幻想で比喩として表している部分が多く、読み進めるのがとても辛かったです。
後半は三島由紀夫の小説が引用されていることに象徴されるように、右翼的な(親米ではない)目線で物語は展開されていきます。東京裁判であまりにも不当に日本を裁いたアメリカへの批判はもちろん、戦後そのアメリカに何の反発も持たずに憧れすら抱いている日本人を痛烈に批判している様は見事です。
しかし総合すると、前半や後半にもたびたび出てくる夢や幻想の部分が私にはどうしても合わず、このような評価となりました。それがなければ星4つでした。
Posted by ブクログ
複雑。
いろいろ思うところはあるし、考えるネタは提供されるが、夢のような部分が長く、そこが個人的には共感し難く、読むことも苦痛に近かった。
そこを越えて、天皇の戦争責任に関するディベートのところは示唆に富み、なるほど、と思わされるところも多く、あらためて考えてみたいと思わせられた。戦後の日本人が「女」になったとの分析は、特になるほどと思わされた。妙に納得できた。媚びなのだな、と。
母親とのくだりや、幻想の場面よりも、ここに集中してくれれば良いのにと思ったが、作者にはこだわりの部分なのだろうな。
Posted by ブクログ
小説の面白さは素材選択の時点であらかた決まるようです。
「天皇の戦争責任」という重いテーマを、戦勝国の米国で、そして理詰めだけの議論競技「ディベート」という場で、さらに日本人一人という孤立無援の状況で展開されるストーリーの着想は秀逸です。
とはいえ、付随して展開されるサブストーリーは私には意味不明で、この小説の素晴らしさを減じたように感じました。
そして私がこの小説から気づかされた点が2箇所ありましたので、紹介します。
キリスト像はなぜ磔の図であるのか、なぜ拷問の果てに死んだ救世主の図を崇め、その後に復活した彼の方に興味を持たないのか?
それは、イエスを教会が神の一人子として独占するために、子孫のない絶対唯一の存在とした方が都合がよかったからなのでは?という指摘が1つ。(P516)
もう1点は、議論相手から真珠湾攻撃というだまし討ちを非難されたときに、これはあくまでも手違いの事故であってそもそも軍事施設を攻撃したもので民間人を狙ったものではないと主張すると、では南京大虐殺や731部隊が犯した残虐行為は?と問われたときの答えです。
この時、当時の天皇が彼女に乗り移ったかのようにこう答えます。
「彼らの過ちはすべて私にある。子供たちの非道を詫びるように、私は詫びなければならない。しかし、私の子供たちに対する気持ちを吐露する人の親であることをつかの間許していただけるなら、やはり、前線の兵士の狂気やはねっかえり行動と、民間人を消し去る周到な計画とはまた別次元であると言おう。そしてこの意味において、あなた方の東京大空襲や原爆投下は、ナチスのホロコーストと同次元だと言おう。だからといって何もわが方を正当化はしない。が、前線で極限状態の者は狂気に襲われうる。彼らが狂気の方へと身をゆだねてしまったときの拠り所が、私であり、私の名であったことを、私は恥じ、悔い、私の名においてそれを止められなかったことを罪だと感じるのだ。私はその罪を負いたい。」(P521)
この小説を読んでよかったと心底思えた箇所でもありました。
解説の池澤夏樹は「小説にはこんなこともできるのか」という言葉で締めくくっていましたが、間違いなく小説の可能性を味わうことができる1冊です。
Posted by ブクログ
「16歳の少女マリがたった一人で挑む「東京裁判」」という帯など諸々の情報から、地道に東京裁判について調べる、という小説かと思っていたので、(その側面は確かにあるのだけれども)それ以外のある種妄想的要素を含む部分についていけませんでした。それ全部いらなくね?と言ってしまうのは簡単なのだけれども、天皇とは日本人にとってなんなのかというテーマを作者が扱うにあたって、それこそが重要なんだろうなと。なんだろうなとは思うのだけれど、もう少し読者に“媚びて”いただけるとありがたい。ちょっと自分ワールドが広がりすぎていて、消化不全です。
ラストのディベートはなかなか圧巻ですが、それまでの主人公マリの英語のつたなさと、突然のペラペラぶりに面食らったのも事実。(”誰か”にのっとられてしゃべっているという解釈もできるんだけれども)
たぶん、優れた作品なんだろうけれども、腹を決めて読まないと、なかなか厳しい一冊でした。