あらすじ
愛、臓器、人気企業への就職、有名大学への進学・・・世の中には「お金」では買えないものがある。互いが互いを選ぶ「組み合わせ」が必要だ。最適・効率的な「組み合わせ」はどうすれば実現できるか。マッチメイキングとマーケットデザイン研究で世界をリードするノーベル経済学賞受賞者が、従来の経済学が扱わなかった新領域を分かりやすく解説します。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本書は2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス氏によるマッチメイキングとマーケットデザインの入門書になります。価格の調整だけですべての参加者が納得するような市場はコモディティ市場と呼ばれていて、小麦などがその例になりますが、多くの市場では価格という「見えざる手」だけでは売り買いを調整できない市場がたくさんあり、そこではマーケットをデザインする(エンジニアリングする)必要があるのです。つまり市場の失敗を、人間の叡智で解決していこう、という実践的な領域だと言えます。本書では、「市場の厚み」「混雑への対応」「安心そして簡単に利用できること」をマーケットデザインの要諦としていて、これは最近のプラットフォーム企業にとっても非常に重要な視点だと思いました。
経済学を理論経済と実証経済という風に2つに分類することありますが、本書の内容は両方を網羅していることになります。つまり、まず仮説(理論)を構築し、それを実際に導入してうまくいくかを見る、ダメなら仮説を修正して再度実践する、というスパイラル的な動きです。その意味では、工学分野のエンジニアのように経済学者も世の中に役立つのだ、ということを示す領域だと言えるでしょう。リーマンショック後、混乱を引き起こした諸悪の根源として経済学をみるような風潮も生まれましたが、経済学すべてが悪いわけではなく、人間理解を深める中で経済学の知識を正しく使えば、本書で示されているように人々の生活を向上させることができるのです。
さすがにノーベル賞を受賞した方だけあって、各所に含蓄を感じましたし、初心者にもわかりやすいように本書は書かれていると思います。一番印象的だったのは、著者が市場を言語のアナロジーとして議論している点です。市場も言語も、人間の社会生活をスムーズに進めるために人間が生み出したもので、時代が変わればそれに適応するように変わっていく必要があるのでしょう。
Posted by ブクログ
マーケットデザインの分野で2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・E・ロスの本。臓器の交換移植や学校選択のアルゴリズムが紹介されている。ゲール・シャプレーメカニズムはNHKのオイコノミアでも紹介されている。
Posted by ブクログ
今まで漠然と、概念として知っていたこと。
どうしたらもっと良くなるのだろう。
そういった疑問の幾つかを、この本は解決してくれた。
「一人の臓器提供者から、臓器を求める複数の人たちに提供する方法。」
「合コンパーティーのような形で、男女が互いに、第一希望第二希望・・・第N希望を出し合った時、誰もが納得する方法」
この方法の素晴らしいところは、パソコンに「この方法でマッチングを行う」と、予め入力さえしておけば、参加者が自分の希望を出し次第、直ぐに処理してくれる。
とにかく早いのだ。世の中には無駄なマッチングで溢れてる。そのせいで不幸になる多くの人がいる。
今後、様々なケースに適したマッチング方法が確立され、広がっていくことを予感させる、未来が楽しみになる本だ。
Posted by ブクログ
価格では需要と供給が一致しない市場の存在。臓器移植の患者とドナー、研修医と病院プログラム、人気企業への就職、公立学校の割り振りなど。そうした市場にある、抜けがけ、混雑などの問題、ネットやコンピュータの利便性や処理速度によって拡大している一方、最適・効率的なマッチメイキングを目指すマーケットデザインの工夫もITを通じてなされていることが分かる。
現実の役に立つ経済学だと感じるが、例えば人気企業への就職でも双方のグループとも相手方の十分かつ平等な情報を持ってはいないし、結局のところ就職・採用してみて改めて分かること・変化することもありうるので、最適はモデルでしかないとも感じる。
16-85
Posted by ブクログ
マーケットデザインでノーベル賞を受賞した著者自身による本書はかなり具体的な例をたくさんあげており、数学的な話もなくかなり読みやすい。マーケットというものの存在意義自体についても考えさせられる点が多かった。
例えば小麦なども、もともとは相対での取引であった。そこでは実際に小麦の質を見聞し、農家の素性を調べ、、、ということが必要であったが、市場が「十分に厚みを増す(買い手はどの売り手からも買え、売り手はどの買い手にも売ることができる)」ことによって小麦市場はコモディティ化した。コモディティ化してしまえば品質や種類は格付けされ、買い手は実際に確かめなくても安心して買うことができるようになった。
コモディティ市場の対極にあるのがマッチング市場である。こういう市場ではデザインによって市場がうまく機能したり厚みを増すように改善できる。
物々交換取引が難しいのは「自分がほしいと思うものをもっていて、かつ自分のもっているものをほしがっている相手を見つける」という点にあり、これが「欲求の二重の一致」という難問である。貨幣を媒介とできる場合は解決が簡単である。自分がほしいものをもっている人さえ見つければよい。しかし、腎臓移植のように金銭を解することが望ましくない場合は
金銭を介さずに効率的に機能する、クリアリングハウスをデザインする必要がある。
・腎移植
腎臓の場合はドナーAからレシピエントAに移植すればそれで終わりだが、ドナーAとレシピエントAの組織型が適合しない場合も多く、そのような場合、別の腎移植ペアを見つけてきてドナーAからレシピエントB、ドナーBからレシピエントAとすることで、0件の腎移植が2件に増える。このペアの数をどんどん伸ばせばそれだけ恩恵を受けられる患者が増える。ただし、自分のレシピエントが移植を受けたらドナーになるのを拒否するというペアが出ても困るので、通常はすべてのペアを同時に手術する。そのため、チェーンをあまり長く伸ばすことができないでいるが、レシピエントが腎臓を受け取ってから同じペアのドナーが提供するまでに数ヶ月の期間が空いたことも何度かあり、約束を反故にするような人はこれまでいなかったという。
・抜け駆け
研修医のフェローシッププログラムの責任者はできるだけ優秀な研修医を採用したいと思っている。どのプログラムも同じことを考えているため、早期採用がどんどん進み、三年間の研修医生活の一年目でプログラム先が決まることが常態化してしまい、その結果、採用側も人となりがわかりやすい地元の研修医の採用にかたよるということになっていた。
著者らは早期採用の中止を提案したが、これは受け入れてもらえなかったため、早期オファーを受けた応募者は、後でクリアリングハウスを介してよりよいオファーがあれば断ってもよいということにした。この方式であれば、研修医の資質を見極める前に抜け駆けして青田刈りをすることのインセンティブがなくなるため、早期採用がなくなった。囲い込んでも優秀な研修医ほどよりよいオファーを後で受けて断ってくるため、プログラムとしては期待を下回る効果しかあげられないからである。
・早すぎる市場
証券市場ではサーバーのすぐ近くに端末を置き、ミリ秒単位の取引を繰り返すトレーダーがいるが、リアルタイムの取引をやめ、一秒ごとに板寄せする方式にすればよい
・シグナルを送る
就職や大学(米国では)の出願は、近年随分簡単になっており、数百件の応募を一気にすることもできるようになっている。受け取る側も多量の応募を受け取るため、有能な応募者を見附、本当に関心を持っている(面接をするに値する)者をよりわけることが困難になっている。カバーレターに志望動機を書いたり、見学に行ったりすることは本当に関心を持っていることを相手に示すシグナルとして働く。オークションなどは、最高入札者が「自分はその品物を他の誰よりも高く評価している」というシグナルであり、しかもそのコストが無駄にならないため、オークション形式は古くから重宝されてきた。
Posted by ブクログ
経済学者はこれまで市場を所与とし、そのふるまいを研究してきたが、これからは市場の設計に関与できることを具体例(臓器交換、学校選択)で詳細に示している。日本での大学新卒の就活に関して、本書の知見を活かして、学生、会社双方にとって効率的にならないか?と考えた。
Posted by ブクログ
マッチメイキングとマーケットデザインのお話。著者はノーベル賞受賞の経済学者。紹介されたシステムは幼稚園とかのマッチングシステムに導入したら、待機児童減りそうだなと。こういう本もたまに読むと面白い。学校選択と腎臓交換の例が多いけど、結構おすすめ。
Posted by ブクログ
matching は経済学の一部分なの?
だとすれば,役に立つ経済学があることを初めて知った。
はるか昔修士の学生の頃に平面上の点群の最小重み完全マッチングの研究も行ったので,マッチングは数理的な概念だと思っていたのである。
脚注で引用さえている論文を見るとOR関連の論文誌に発表されたものもあるし。
Posted by ブクログ
コモディティの市場と、いろいろな差別化されたニッチな市場がうまく使い分けられて世界は動いているし、価格で決まらない市場もある。希少資源をいかに効率的に割り当てるかについて、一般均衡理論だけでは世界は動かないし、ビッグブラザーが完璧な配分計画を作り上げることができるはずもない。そこにゲーム理論と行動経済学を駆使し、マーケットをデザインするという学問がなりたつ、というお話だ。多分。
後半のオークション関係の細かい話は、やっぱり読みにくいかな。
Posted by ブクログ
マッチメイキングとマーケットデザインの経済学の本。
学校で習った、需要と供給のみで価格が決まる市場ではなく、それ以外の要素が絡む市場、たとえば臓器移植のドナーと、臓器提供を待つ患者のマーケットを、いかに厚みのある市場にデザインするか?
という研究について知見が深まった。
が、私の読解力が足りていないのか、読み終わるのにかなりの忍耐力と時間が必要だった(^_^;)
英文の日本語訳を読むのはどうも苦手だ…
Posted by ブクログ
マッチメイクを理論的に開設した1冊。マッチングビジネスに関する参考書と思って購入したので、少し内容が異なるものだったのは残念だった。経済学の理論としては興味深く、面白かった。
Posted by ブクログ
マーケットデザインによってより適したマッチングを実現できるという点が様々な実例や経験談を織り交ぜて語られており興味深かった。
マーケット=お金を媒介とした取引 というわけではなく、臓器移植や医学生の専攻先などあらゆるところにマーケットデザインの余地があり、応用の幅は広いのだと感じた。
Posted by ブクログ
参加者が個性を持たないコモディティ市場では、価格のみが取引の成否を左右する。一方、参加者の個性こそが重要であるマッチング市場では、その効率性は市場デザインのディテールの巧拙で決まってくる。本書はスピード、混雑、コスト等の切り口から市場デザインの重要性を説き、マッチングの一般理論を分かりやすく解説するもの。
著者は情報経済学の分野でノーベル賞を受賞したマーケットデザインの権威。と聞くと象牙の塔に籠った衒学的な内容を予想しがちだが、本書では実際に著者を始めとする研究者グループが腎移植や研修医リクルーティングの実地でトライアルアンドエラーを繰り返し、実践と理論のフィードバックを試みる様が描かれており、意外にスリリングな内容。より理論的な内容を望む向きには数学の一般向け啓蒙書で簡単な解説があるものが複数出ている。
Posted by ブクログ
マーケットプレイスは市場の厚みが必要。
決まった時間に取引するのは、市場の厚みをつけるため。
ただし、混雑をどうやって避けるか。
コモディティ市場によって厚みを実現できる。
クレジットカードのポイントは、最終的には消費者が払っていることに注意。
腎臓交換。金銭を媒介にしないマーケットを機能させるには?
クリアリングハウスを通じて望ましい交換の連鎖を見つける。
閉じたサイクルの腎臓交換は同時に行われないと提供を受けられないリスクがある。
提供だけをするドナーが存在すれば、連鎖が切れるリスクを避けられる。
マッチングの容易な患者を出し惜しみする=仲介業者の常套手段。
抜け駆けの問題=ロースクールの卒業生の青田買い。
時限付きのオファーを出す。
参加者の自制心頼みでは無理。
クリアリングハウスによって解決できる。
電子式注文台帳は先着順。
1秒ごとに板寄せで取引すれば、高速回線争いをする必要がない。
優れたマーケットデザインが採用されるとは限らない。
公務員試験の日に招集するのは時限付きオファーと同じ。
オークション方式でもスピードが大事。
AIRBNB、UBERもスピードがあるから成功した。
公立学校の制度。
留保付きで入学者を順に決める=受け入れ保留アルコリズム。
真の選好を表すことが最善であるようにデザインする。
結婚の鉄則=夫は妻より、妻は夫より幸せになってはいけない。
早期入学許可制度=早期に応募することは協力なシグナルになる。
恋愛でのシグナリング=2本しかないバラを添えてオファーする。=孔雀の羽根。
長い行列はレストランが美味しいというシグナリング。わざと行列を作らせる。
第二価格オークション=真の自分の選好価格を入れることが一番いい。
第二価格+αで購入できるオークション。
競り下げ方式オークション。切り花の卸売。早く決まる。=ダッチオークション(オランダの切り花市場で使われている)
金銭を介した取引に不快感を感じる場合=夕食に招待された場合のお礼。臓器売買。
臓器を売った者は英雄になれるか。合法化されたときに、不快感が解消されるか。
自由市場は注意深く作りこまれなければならない。レッセフェールの原則では解決しない。