あらすじ
掏摸(すり)に騙(かた)りに美人局(つつもたせ)。住人が全員悪党の「善人長屋」に紛れ込んだ本当の善人・加助が、またしても厄介事を持ち込んだ。そのとばっちりで差配母娘は盗人一味の人質に。長屋の面々が裏稼業の技を尽して救出に動く中、母は娘に大きな秘密を明かす。若かりし頃、自らの驕(おご)り高ぶった態度が招いた大きな罰のことを――。流れゆく大川が静かに見つめた、縺(もつ)れた家族の行方を丹念に描く人情時代小説。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
「善人長屋」「閻魔の世直し」の続編。
表題作回は、お縫の父・儀右衛門と、母・お瞬の馴れ初めの話。
なぜ、母はこんなにも父を慕うのか。こんなにも信じているのか。
儀右衛門がお瞬にプロポーズをした日、大川は嵐に見舞われ、氾濫寸前だった。身投げをしようとしたお瞬の下に、ずぶ濡れの儀右衛門が現れる。
お瞬は限界だった。水仕事で調子に乗って、男たちを手のひらの上で弄んでいたと思っていたら、仕返しとばかりに拉致監禁の上、手籠にされてしまった。
一命は取り留めたものの、残していた財産は強盗に奪われ、一文無しになった。江戸から離れようと決心したその日、嵐がやってきた。
嵐の中、病に臥した祖母を背負い、深川八幡のお堂にたどり着いたお瞬の迎え入れたのは、男衆の好奇の目と、女衆の嫉妬の目だった。
「私は出て行くから、ばあさんは置いていくよ」
啖呵を切って、嵐の大川まで戻った時には、川の堤ははち切れんばかりだった。
死のうと思ったが、川に飛び込む一歩が出ない。
身体を汚され、金も奪われ、人々から忌み嫌われ、生きることに絶望しておきながら、まだ私は生にしがみ付くのか。
馬鹿馬鹿しい自分に嫌気がさした時、儀右衛門が現れた。
儀右衛門は、お瞬の行きつけの質屋の店子をしていた。水仕事で貢がせた男たちから受け取った品物を、質屋に出してお金に換えていたころに知り合ったのだ。儀右衛門は常にお瞬に言っていた。「人の心を粗末にしちゃならねえよ」と。
嵐の中やってきた儀右衛門を見て、お瞬は、自分が生にしがみついていたのは、死ぬ前にもう一度儀右衛門に会いたかったからだと気づいた。同時に、儀右衛門の過去の言葉が胸を抉った。
この人の、言った通りじゃないか。
自嘲したお瞬の両肩を、儀右衛門の力強い両手が抱える。そして、
「お瞬、私と結婚してくれ」
「大川契り」の中には、色んな短編が入っているが、個人的には「侘び梅」の話が良かった。あまり物語の中心にいない人物にスポットライトが当たる回は、スピンオフらしくて素敵だと思った。
Posted by ブクログ
2021/2/5
儀右衛門さんかっこいい!
人間が大きいわ。
これもっと読みたいのにここまでしかないんよな。残念。
髪結い伊佐次ばりに出て欲しい。
Posted by ブクログ
目次
・泥つき大根
・弥生鳶
・兎にも角にも
・子供質
・雁金貸し
・侘梅
・鴛鴦の櫛
・大川契り
裏稼業を持つ悪党ばかりが住む善人長屋のはなし、これにて幕なんだなと思った。
理由は後に回すとして。
善人長屋に住む唯一の善人・加助が連れて来て世話をしている怪我人が実は悪党で、長屋で空き巣を行い逃げた。
これには加助もショックを受け、長屋を去る決意をしたのだが、加助の知らないところで加助から人の情けを教わり救われた人もいるという、ちょっといい話。(兎にも角にも)
卯年の御隠居さんの話は、まるで今年のための話のようでほっこり。
痛みというものを知らずに生まれてきた子ども。
人の痛みを知らずに大人になれば大変と思う親心。
人の心の機微をわきまえているからこそ、騙りのお竹は痛いということの意味を教えることができたのだ。
体に痛みは感じなくても、心が痛くなることもある、と。(子供質)
テレビドラマの方を先に見てしまった(雁金貸し)。
これ、詐欺の仕掛けが難しいから、先にテレビで見ていてよかったな。
さて、書下ろしの(鴛鴦の櫛)と(大川契り)は、続き者であり、主人公お縫の両親のなれそめの話でもある。
テレビドラマでは出てこなかったと思うけれど、お縫には10歳年上の姉と5歳年上の兄がいる。
二人とも家業を嫌って家を出たのだけれど、年に一度は実家に顔を出す兄と違って、結婚してから一度も実家に顔を出さない姉。
この謎も、この話で明らかになる。
美人で切符のいい母のお俊が若かりし頃、自分の慢心からピンチを招き、生まれ育った家を出ていかなければならなくなったとき、同じく若かった儀右衛門はどう接したのかを、母が娘に語る。
悪人に囚われて縛られているときに。
帯の一文に噴き出す。
「ねえ、とびきりの人助けをしたはずなのに、なんであたしたち、縛られているのかしら?」
絶体絶命の時に聞く両親のロマンス。
これでお縫の腹は決まったと言える。
そして、最後まで自分の気持ちに気づかない薄らとんかちの文吉より先に、お縫は自分の気持ちに気づいたんだね。
いい話を読ませていただきました。
ありがたや~。
Posted by ブクログ
三冊目も大層楽しめた。
読み終えて、ふと。
まだこのシリーズは続くのではないかと。
大川契りはてっきりお縫と文吉の大団円かと
思っていたのだが…なんとなく中途半端に終わって。
続くのなら…うれしいのだが。
Posted by ブクログ
安定の加助さんの善行に、それを半ば諦めて巻き込まれてる長屋の面々。善人長屋を読んだのが結構前だったので、長屋の裏家業や人柄とかを忘れてるところもあったんですが、やっぱりおもしろかったです。お縫ちゃんの姉のお佳代、気持ちはわかるけど…自分がしんどかろうなとかわいそうになりました。文さんとお縫ちゃんもこれからどうなることやら。鈍いからな~2人とも。幼なじみは難しい。