あらすじ
あなたは“その過去”を知っても友達でいられますか? 埼玉の小さな町工場に就職した益田は、同日に入社した鈴木と出会う。無口で陰のある鈴木だったが、同い年の二人は次第に打ち解けてゆく。しかし、あるとき益田は、鈴木が十四年前、連続児童殺傷で日本中を震え上がらせた「黒蛇神事件」の犯人ではないかと疑惑を抱くようになり――。少年犯罪のその後を描いた、著者渾身の長編小説。
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Posted by ブクログ
600ページ近くある大作だが、薬丸岳さんの本はとても読みやすく、すぐに読み終わってしまう。今回は友達が殺人を犯した過去があると知った時、どう行動するのか、という視点で話が書かれていた。苦しみながら生きていてほしい、そして一緒に償いを探していく、ということが、主人公が導き出した友情の証だった。難しいことを曖昧に終わらせず、結論を出してくれるところも、私が薬丸岳さんがすきなところの1つでもある。他にも、恋人が殺人を犯していたら?自分の息子が子どもを堕ろすと言ってきたら?自分がいじめに加担したせいで、友人が自殺してしまったら?たくさんの考えさせられる視点があって、読み終わった後は本当に複雑な気分になる。でもまた読みたいってなるのが不思議。
Posted by ブクログ
ジャーナリストになろうとしてなれず、食うに困って埼玉にある寮付きの工場で働くことにした益田。
同じ日に採用された鈴木とともに、寮生活を始める。
寮といっても、もともと一部屋だったものを薄いベニヤで壁をつけただけのような、狭苦しい3畳間。
隣の鈴木の部屋は益田の部屋とは違って押し入れはあるが、窓はない。
人とのつきあいを極端に避けるような鈴木に益田は声をかけ、徐々に鈴木は皆とうちとけてゆく。
言葉にウラオモテがなくまっすぐな正義感を持ち、妙に世間知らずの鈴木を、益田は好意を持って受け入れたのだが。
十四年前に日本中を震撼させた連続児童殺傷事件の犯人ではないかと疑いを抱いたことから、話は加速する。
その事件は益田の実家のすぐ近くで起こったもので、地元の、犯人の少年時代を知る人に、現在の鈴木の写真を見せたところから、世間が鈴木の正体を知るに至るまでの展開があまりに早くて、益田だけではなく、読者の私も戸惑ってしまった。
鈴木の会社の事務員で、過去から逃げながら暮らしている美代子は、鈴木の優しさに好意を抱く。
休みの日に映画を観たり、家に呼んでご飯を食べたり。
女性と付き合うということが分かっていない鈴木にとっても、その時間は安らぎの時だったと思う。
鈴木の正体が分かった時、一度は彼を拒絶したが、時間がたつにつれて、本当に彼と過ごした時間はおぞましいものだったのか?と考える。
彼の優しさは、不器用で世間知らずの正義感は、嘘ではなかったはず。
ジャーナリスト志望だった益田には、マスコミ関係に人脈がないわけでもなく、身近で見た「黒蛇神事件」の犯人についての記事の執筆を依頼される。
一度書いては見たものの、その影響の大きさを考えて記事を出さないよう頼むが、手渡された原稿は出版社の悪意のある情報などを加えられて、発表されてしまう。
なぜ、ジャーナリストを目指す益田が、記事を書くことを躊躇したのか。
それは中学生時代に自殺した友だちを、守ることができなかった悔いを今も抱えているからだった。
いじめられている友だちを見捨てた過去が、自分の記事で日本中の人たちから忌み嫌われ憎まれることになるのを、怖れたのだ。
また同じ過ちを…。
記事がでたあと、鈴木は姿を消した。
誰のことも、運命ですらも責めることなく、またどこかでひっそりと生きていくのだろう。
死に場所を求めて。
タイトルの『友罪』は、友の犯した罪、というほかに、友に対する罪という意味も含んでいると思う。
最後の最後に益田は、実名で鈴木あての手紙という形の手記を発表する。
匿名の告発ではなく、実名で。
自分にも火の粉が降りかかってくることは覚悟の上で。
自分がその立場になった時、過去の事件で友だちをだった人を切り捨てるだろうか?と考える。
そうではない、フェアな人間でありたいとは思っているけれど、犯罪者に対する嫌悪と恐れ、日本中の悪意に巻き込まれるかもしれないという不安に、立ち向かえるだろうか。
自分はそれほど強い人間ではないという自覚はあるが、理想が高いのも事実だ。
つないだ手を振り払うような人間ではないと思いたい。
最後まで、書かれているのは鈴木の周りの人々の気持ちだ。
鈴木が何を考え、どう感じているのかは直接には書かれていない。
だた、鈴木は益田のことを初めてできた親友だと思い、誰のことよりも大切にしていたことが強く伝わってきて、余計に切なかった。
Posted by ブクログ
重い一冊だった。テーマは重厚なのに、人物の悩みや立場が明確なのでスラスラ読めるのが不思議。
少年事件の本人や被害者ではなく、その後の人生に関わる人の葛藤を描くのは新鮮。
主に取り巻く4名の視点がどれも重いが考えさせられる。
Aではない君とと、似た部分もあるが、全然飽きないししっかりと心にくる。
Posted by ブクログ
重く、考えさせられる話。
自分が益田と同じ立場だったらどうするか。
刺激しないよう愛想笑いでうわべだけ付き合って、徐々に距離を置くかなぁー…。。
それにしても益田が偽善者の優柔不断野郎で読んでてイライラした。
偽善者のふりして結局学も鈴木もいちばん傷つけている。
こういう人間は嫌いだ。
ラストは益田の手記で終わるのではなく、それを読んだ鈴木がどうするのか、どう感じたのかとか、その後の益田との再会まで書いてあると私としてはよかった。
その後が気になる。
加害者の人生って?
どうして殺人を犯したのか知りたかった。
そこが本文になかったのが残念。
しかし内容はすごく考えさせられた。
犯罪が蔓延する中、隣の人が前科者なんてこともありうる。どう接する?接する事ができる?自問自答しながら読んだ。
でも最後私はスッキリした。
やはり人間と人間の付き合いってもんは愛がなきゃと思った。