あらすじ
仙台在住の著者が3.11を描く現代小説
ある出来事がきっかけでピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、鳴瀬の喪失と再生を描く連作短編。
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Posted by ブクログ
ピアニストを断念し調律師として働き始めた主人公の物語。
ピアノの音が臭いでわかる嗅聴という不思議な共感覚の持ち主、というちょっとファンタジーな感じ。
物語としておかしいというわけではなく、むしろピアノの音が持つ表情や感情の揺さぶりをとてもうまく表現しているように思う。
ピアノの音がいかに環境に左右されるかなど、その設定などの描写がとても面白い。
音、色、臭い、環境など、4感が刺激される素敵な作品。
最後の2話、東日本大震災をはさんで執筆したとのことで、本来とは施作コンセプトが変わったそうで、執筆途中の苦悩が伝わって来る。
逃げるしかなかったことを仕方なかったと正当化するか、贖罪の意味で偽善に見えようが何か行動を起こすか、どちらにも正解はないのだろう。
「自然の力の前で、言葉の無力を思い知りながら、書き続けた。」
これが正しい思いなのかも知れない。
Posted by ブクログ
第一話から大好きなOp.64-2が登場し、
文字を追っているのに脳内にはメロディーが流れ、
とても爽やかに読み進めていたのに、
突如起きた予期せぬ転調。
しかし、そうだったではないか、あの体験は。
日常を急に破壊した14時46分のあの瞬間が、
フラッシュバックした。
仙台在中の小説家が、
目下執筆中だった喪失と再生の物語に、
震災をなかったことにできなかった切実さが伝わる。