あらすじ
昭和天皇の生誕から死去までを年代順に記述した「昭和天皇実録」。その細部を丁寧に読みこむと、これまで見えてこなかった「お濠の内側」における天皇の生活様態が明らかになってくる。祭祀への姿勢、母との確執、戦争責任と退位問題、キリスト教への接近……天皇と「神」との関係に注目し昭和史・昭和天皇像を刷新する。
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昭和史という一見身近な世界にも既に謎がある。
「昭和天皇実録」の圧倒的な分量、通読するものではないか歴史的に貴重な資料。そんな資料の見どころを解説する、元々は公演の内容。
皇太后との確執やローマ法王との交流、終戦後の退位やカトリックへの改宗の可能性など意外な事実が浮かび上がってくる。
昭和史に興味を持つきっかけになる1冊。
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講演禄ということで、著者の語りの雰囲気が伝わってくる。趣味の鉄道にかかわることはほんとうに楽しそうだ。が、1冊の著作としてはまとまりのな雑駁な感じをぬぐえない。実録への関心を高めるための入門書なのだろうけど。
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原武史 「 昭和天皇実録 を読む 」
昭和天皇実録のポイント、読み方、背景がわかる本。皇太后との関係、キリスト教改宗など 驚きの内容だった
昭和天皇実録をどう読むか
*天皇に戦争責任はない→天皇は退位を考えたことがない というスタンス
*祭祀に注目→アマテラスと国民の間にいる天皇
*宗教、家族関係
驚きの内容
*後宮=一夫多妻→昭和天皇が後宮廃止へ
*皇太后の敬神の強さ、政治介入に対する警戒
*昭和天皇は太平洋戦争前から ローマ法王を通じた終戦を模索していた
*太平洋戦争の本土決戦は 皇太后の意向
*神道には宗教の資格がない→キリスト教への接近
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長大な「昭和天皇実録」を読む際のポイントがわかりやすくまとめられており、面白かった。とくに「神」ー天皇ー臣民の関係、天皇の宗教観、家族関係と実母との確執などが興味深い。ほかにも昭和天皇の政治への積極的関与のあり方など論点は尽きないが、この新書だけでもかなりのことがわかる。
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興味深く読めた一冊。
「神ー天皇ー国民」の図式を上手に説明している。それにしても太平洋戦争末期、天皇が一撃講和論に執着していたのにはちょっと驚いた。東京裁判を受け入れることでサンフランシスコ講和条約が成立したことを理解し、靖国に対する態度を明確にしていた人なのに。やっぱり国よりも天皇家が大切だったのかなぁ。
神道に対する絶望感は哀しい。香椎宮と宇佐神宮に勅使を参向させた直後に原爆投下だもんなぁ。そりゃあ裏切られた気持ちにもなるよね。
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昭和天皇実録とは、昭和天皇崩御後の1990年より宮内庁により編纂が開始された、昭和天皇の伝記である。編纂期間は2014年までの25年間であり、全61冊1万2,137ページ(うち一冊は目次・凡例のみ)に及ぶ膨大な量の書籍となっている。考えてみれば、昭和という時代が1926年から1989年迄の63年以上続いたわけだから、それだけ在位期間も長く、編年体で描かれた本書の量が多くなるのも理解できる。因みに、同じ様に編纂された天皇の伝記としては、明治天皇紀が全13巻、大正天皇実録(補正版)が別巻含む7巻となっており、文字数や出版サイズとの違いがあるため、単純な量の比較は難しいものの、それらが公開にあたっては一部個人情報を黒塗りにしていたのに対して、昭和天皇実録は公開を前提に塗り潰しなしで公開された。また、読み易く口語体で書かれているのも特徴である。とは言え、その様な膨大な量を我々一般人が端から端まで読むには相当の時間を要するし、それなりに時代背景に対する理解が必要になってくるから、原本本体を読もうとされる方は覚悟と時間が必要である。私にはこうした新書サイズの訳本がちょうど良い。
自分が生まれた昭和の記憶については、昭和天皇崩御と共に時代が終わり、既に40年近くになろうとしている今、リアルな頭の中の記憶も薄らいでいるが、戦争経験のある年齢にしてみれば、正に激動として記憶に残る時代であったに違いない。日本は諸外国特にアメリカと戦争し、2600年以上続く天皇制の存続そのものが大きな危機に見舞われた。この戦争一つとっても昭和天皇1人が決定し開戦を決意したものではないが、当時の戦勝祈願の内容や天皇ご自身がどういったお考えをお持ちでいらっしゃったかなどをある程度推測可能でもある。それらは更に生い立ちの時代に遡って、幼少期を誰とどこでどの様に過ごされたかも関係してくるだろう。特に一般の国民とは異なる皇室という世界観は我々には余り多くの情報がない上、特に天皇即位前の時代はこうした実録的なものが無ければ、中々想像するだけでは解らない世界だ。
本書はそうした我々には理解が難しい皇室のしきたりや伝統について昭和天皇とその周辺の人々を生き生きと描く事により、少しでも読み手に天皇の体験を伝えようとする内容となっている。読みながら不思議と皇居の周りを散策している様な気分になるし、伊勢神宮や熱田神宮を訪れた際の情景も思い出される。天皇家の重要な役割である祭祀についても、その意味合いなどを学びながら、日本という国が何なのかという事への理解も深まる。激動の戦争時代に国家のトップとして君臨し、戦後も長期に渡り、天皇という地位にあり、その責任の取り方に苦悩し続ける日々。そうした昭和天皇の苦しみも伝わってくる気がする。今は既に平成天皇(現上皇)の時代から生前退位により、令和の世になっている。皇室のあり方も昭和以前のものとは大きく変わっているだろう。だがこの国に形は変わらない。我々が暮らす日本という国には、神武天皇から世界最長の王族が続いているとされる(今上天皇は126代目)。太平洋戦争という元寇以来の国難も乗り越えた昭和天皇。そしてその後の長きに渡り戦争放棄し平和な時代を築き上げた日本。自分の所属している国という感覚を改めて思い起こす機会はそれ程あるわけではないが、紛れもなく日本人である私は、オリンピックやワールドカップでの日本人の活躍に熱狂し、エールを送り、そして私以外の日本人と一体になって喜び、君が代を歌う。改めて自分の属する国である日本について、こうした書籍で学び直す事は、更なる一体感を醸成し、平和の尊さを感じる機会になる。
Posted by ブクログ
『昭和天皇実録』の講義録。著者がこれまで研究してきた「巡幸・行幸啓」や宮中祭祀をはじめとする宗教との関係に重きを置いており、政治史・軍事史的な観点は薄い。目新しいところでは、戦後占領期に昭和天皇がカトリックに接近を図り、改宗の可能性すらあったという指摘が興味深い。旧著『昭和天皇』(岩波新書)と同様、昭和天皇と母親の貞明皇后との確執・緊張関係を強調しているが、史料批判の上で異論はありえよう。
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著者の『皇后考』を読んでいたのが参考になりました。やはり昭和天皇は母貞明皇后(後、皇太后)を恐れていたことが、判然と示されています。それと、私が特に気になるのは、天皇がカトリックに接近する背景には、神道に対する悔悟に加えて、A級戦犯にすべての罪をかぶせることに対する精神的な葛藤があったと思われることと、一九五〇年まではカトリック教徒との密接な関係が続いていたが、サンフランシスコ講和条約と同時に日米安全保障条約締結によって、ローマ法王へと接近して別の枠組みを模索する道が途絶えたことが指摘されていたことです。