【感想・ネタバレ】ティモシー・アーチャーの転生〔新訳版〕のレビュー

あらすじ

ジョン・レノンが死んだ日、ラジオからはビートルズの曲がずっと流れていた……。その日、エンジェルは、かつての友人たちを悲しみとともに回想する。死海砂漠で遭難して死んだ義父ティモシー・アーチャー主教。精神の安定を失い自殺した義父の愛人キルスティン。父への劣等感とキルスティンへの欲望に耐え切れず自ら死を選んだ夫のジェフ。絶望の70年代に決別を告げる〈ヴァリス〉三部作完結篇にして鬼才の遺作・新訳版。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本作はSFの巨匠、フィリップ・K・ディックの遺作。SFでは映像化作品も多く、圧倒的な知名度を誇る著者であるが、本作はSF要素がない所謂「一般小説」となる。「ヴァリス」、「聖なる侵入」と合わせて「ヴァリス3部作」とも言われているが、SF的要素のある前2作とは形を異にしている。

そして前2作と本作とでは語られる視点に大きな違いがある。3作とも共通のテーマとして「神秘体験」があるが、前2作は体験した者の視点で描かれるのに対して、本作は体験した者を客観的に観察する立場から描かれる。
本作では、「神秘体験」をした者(ティム、キルスティン)は悉く悲惨な末路(死)を辿っており、そこから救うことができなかった主人公(エンジェル)は自身の行動・判断を嘆く。そして彼らの死後、新たに「神秘体験」の当事者となったキルスティンの息子であるビル(ティムが転生して自身に宿っていると言う)を、今度こそは救済すると決意して物語を終える。
前2作と違い、本作は神秘体験・宗教・信仰という名の迷宮に陥った者を、他者が救い出すという希望が描かれているのが特徴的である。

「ヴァリス3部作」はディック自身の神秘体験をきっかけに著されたというが、元々彼の作品には「現実と虚構の曖昧さ」や「自己疑念」をテーマにしたものが多く、著者自身の永遠のテーマでもあったのではないかと思う。「神秘体験(=超自然的なもの。現実と虚構を曖昧にするもの。)」で心惑わされた者へ救済の手を差し伸べるラストを描いた本作が遺作というのは、どこか考えさせられるものがある。

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2020年07月13日

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