あらすじ
ママを看取ったちひろは、ななめ向かいのアパートに住む中島くんと奇妙な同居生活を始めた。過去に受けた心の傷によって、体の触れ合いを極端に恐れる中島くん。中島くんに惹かれながらも、彼の抱える深い傷に戸惑いも感じているちひろ。恋と呼んでいいかわからない二人の関係が続く中、ある日中島くんから、一緒に昔の友達に会ってほしいと頼まれてーー。苦しみを背負った人々を癒す希望の物語。
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Posted by ブクログ
中島くんの深刻で厳しい体験と心の傷。
みずうみのそばの友人。
どこかはかなげな感じの彼ら。
そのせいなのかそれともばななさんのタッチによるのか、深い悲しみも刺々しく突き刺すようなものではなく、薄いベールを通しているかのような感じで伝わってきた。
ちひろと中島くんの距離感。
無理をしないさせない感じがいい。
地面から少し足が浮いてるようなちょっと浮遊したような感覚もあって、なんだか気になる作品だった。
Posted by ブクログ
大好きなママが死んでしまった主人公。
過去に壮絶な経験をしたのであろう中島くんとの出会い。
付き合っていると言えるのかどうか、でも毎日一緒にいるような不思議な関係。
どうまとめたらいいのか分からないくらい、いい意味で物語の中に境目がなくて、起承転結というほどの話の転換もないのだけど、ただ水の上に浮かんでいるうちに流されて遠くまで来てしまったような読後感。
文量も多くないので、さらっと読めて、まとまった時間が取れない人にもおすすめだなと思いました。
ばななさんの作品は、作品に流れてる空気感がとても心地いい印象。
ほんの一瞬の、秋の過ごしやすい気候みたいな、そういう空気感が閉じ込められていて、重たくなくてくどくなくて、でも軽すぎないからいいなと思ったりします。
Posted by ブクログ
以前読んだ吉本氏の『鳥たち』という作品が、半カルト集団の生き残り・自死遺族を扱う、とてもドロドロとしたものだったので、今回も重たいのかなあと戦々恐々としつつ臨みました。
ところが、何でしょうか、本作品も独特のアクは有りましたが、希望が感じられる、読み口良い作品であったと思います。
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本作は母親を亡くしたちひろが、恋人未満の天才引きこもり的な中島くんとの仲を徐々に深めてゆく話。
で、中島くんもまた幼少期に負った傷を抱えて生きているのだが、ちひろはその傷にアプローチせず、彼から話が出るのをゆっくり待つ姿勢を取る。そして彼から話を打ち明けられて、徐々に中島くんにもちひろにも変化が訪れてゆくが…。
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捉えどころのない、章区切りのないスタイルは前回読んだ『鳥たち』と一緒でしたが、今回はそれが良い方向に作用したように感じました。
ちひろと中島くんの仲がまんじりともしない様子は、章区切りがあると、あああそこでやっぱ変化があるのかなとか勝手に想像がついちゃうのですが、本作のように区切りが無いと、展開は常に想像外であり、あたかも映画でも見ているかのような、展開の驚きを味わえたと思います。
そして恐ろしい過去の事実と不可思議な体験とともに、二人の将来が開けてゆく、という明るい展望が読み口を更に良いものにしていたと思います。
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ただ、相変わらず沈殿しているテーマは、暗め。
カルト教団に誘拐された過去を持つ中島君は自分の心を殺すことで精神の安寧を保つ(洗脳を回避する)ことに成功。
さらにその後カルトを救出されたあとも、心配性に輪をかけた母親の溺愛に辟易としつつも、彼女の死までそれに付き合った。要するに心の傷に更に塩を塗り込んで、鎧をまとった心を育て上げてしまった。
頭では理解しているなかで、心を殺してきたため、当然コニュ障的な人間(でも学問はできる、というか心を殺して打ち込む)になってしまった。
そういう人に寄り添える人が近くに居ないという状況こそ、自由過ぎる・紐帯を持たない現代の病根なのかもしれません。
そこまでではないにせよ心に傷を負うちひろはそんな中島くんに寄り添う姿が、ほっこり。
霊能力者とかも出てくるけど、やはり本作の主人公かつキーパーソンはちひろの心のひろさ。
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ということでよしもとばなな氏の作品でした。
作風全般は凄い好きというわけではないのですが、今回のは結構好きな感じでした。
今後もぼちぼちと渉猟してゆきたいと思います。