あらすじ
出稼ぎに出たきり戻らぬ父を尋ねて、ひとり東京に着いたキワ、自分は電気仕掛けで動くのだと頑なに信じる少年・作次、晴れ着を着て父親とメリー・ゴー・ラウンドに乗るチサ――。危ういバランスをとりつつ、生と死の深淵を覗き見る子供たち。この、人生の小さな冒険家たちの、様々な死とのたわむれを、清冽な抒情と澄んだユーモアを重ね合せて描く「接吻」「睡蓮」「厄落し」「星夜」「初秋」「ロボット」「遠出」「遊び」「出刃」など12編。著者会心の連作短編集。
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Posted by ブクログ
小説家としての三浦の業をこの一冊でみた気がした。
はじめの「接吻」がほんとうにすごいと思った。
出稼ぎに出ているお父さんに東北から会いにきたキワは、上野駅のホームで見知らぬ女の人に自分の名前を呼ばれる。
とにかく三浦哲郎の文章は一切の誤魔化しがなく、身を委ねられる。話がいいようにも思うのだけど、この作家はひとつひとつの文章が作品を作っているのだとやはりつよく感じる。
自分が短篇小説を書くときに、これらの作品はお手本になるだろうな。
子供が招く不幸とひとつの救いの
落とし穴にストンと落とされるような、うすら恐ろしくもの悲しい話が多かった。子供の無邪気さが不幸を招く。けれど子供は遊びの延長なのでその重大さに気づいていない。『人釣り』という一編。人間の好奇心と浅ましさを餌に「人」を「釣る」。釣られた老婆とその背中の赤ん坊。おそらく結末は…。最後まで書ききらない。読み手の想像力に深く食い込み、その残像を強烈に与える。引き際が見事で、魔力に取りつかれたように読んでしまう。いずれの話も概ねミゼラブル。しかしそんな中での『メリー・ゴー・ラウンド』。明るい光で包まれた救いの一話。
Posted by ブクログ
もともと短編が好きなこともあるが、つくづく『上手いなぁ』と感嘆の声が洩れてしまう。
子どもを主人公とした短編ばかりが集められているのだが、三浦さんはことに子ども目線での話の描き方が素晴らしいのだ。
こどもの目線。こどもの目に映る世界。こどもが気づいていない出来事。読者は、それらから背後にある大人の世界の複雑な事情を読み取ることができる。
簡潔で美しい文体のなかに詩情が溢れている。
それでいて、どれも切なく物悲しい。
Posted by ブクログ
2012年のセンター試験の追試問題で「メリー・ゴー・ラウンド」に出会いました。
その話の悲しさに驚き、思わず周囲の友達に読ませたのを覚えています。
特にそういった描写がないのにぞっとさせられる文章に出会ったのは、小野不由美の「くらのかみ」以来です。
こちらの文章のほうがより洗練されている気もしますが。。
この短編集の中では、メリー・ゴー・ラウンドの次に「睡蓮」が好きです。
真っ暗な背景に、足まで泥に使った子供と、ぽっかり浮かぶ睡蓮の花。そのような情景がありありと思い浮かび、背筋が寒くなります。
子供の無邪気さ故の恐ろしさが丁寧にかつ簡潔に書かれています。
ただかわいいだけの存在ではなく、何をしでかすかわからない未知の存在であることを認識させられます。
他の話も胸を締め付けられるものばかりです。
短編ですぐ読めるので是非他の人にも読んでほしいですね。
特に中身のない小説ばかりを読んでいる人には是非。小説とはこういうものだと思ってほしいです。