あらすじ
非力なヒトはなぜ厳しい自然選択を生き残れたのか。走る能力の意外な重要性とは何か。脂肪が健康を害するなら、なぜヒトの体は脂肪が溜まりやすくできているのか。2型糖尿病など、現代人特有の病はそもそもどうして現れたのか……。人類進化の歴史をさかのぼることは、不可解な病がどこから来たのかを教え、ヒトの未来を占うことにもつながる。「裸足で走ることへの回帰」を唱えて名を馳せた進化生物学者リーバーマンが満を持して世に問う、人類進化史の決定版。
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Posted by ブクログ
2型糖尿病、骨粗鬆症、がん(特に乳がん)、など現代病と呼ばれる病気が生物学的進化と文化的進化のミスマッチから生じていることを説明している。
まず、生物学進化によって人間がいかに効率的に糖を接種できる能力を獲得できたを示し、次に農業革命、産業革命を経て、人間がいかに過剰に糖を接種しやすくなったを示すことで、現代病の原因となる肥満になることが必然であることをわかりやすく説明している。
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・600万年前、Last Common Ancester (LCA)から人類の祖先(サヘラントロプス・チャデンシス、アルディピテクス)とチンパンジーが分かれる。人類の祖先は果実食だったが、気候変動に伴い二足歩行で省エネしつつ、遠くまで食べ物を探しに行くようになった。また、栄養的により粗悪な食べ物である葉、茎も食べなければならず臼歯が発達した。
・400~100万年前にアウストラロピテクスが出現。イモ類を掘って食べる。
・190万年前、ホモ・エレクトスが出現。よりカロリーが高くミネラルも豊富に含む肉を食べる。
・旧ホモ属(ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・フロレシエンシス、ホモ・ネアンデルターレンシス)
・旧ホモ属からホモ・サピエンスが進化。脳が発達し、コミュニケーション、協力、思考、発明等のスキルがつく。これにより文化的行動が可能になり、環境に自らの工夫で適応するようになったが、これによってミスマッチ病が生まれていく。
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本文だけで上下巻合わせて500ページを超える大作だが、著者の言うように、これでもまだ事象の表面をなぞっただけ、もっと深いところまで考察を進めたものを読みたくなる、そんな総論だ。
非常に壮大なテーマを高く掲げ、網羅的かつ論理的に、それでいて平易な言葉で分かりやすく見解を説いているという点では、ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」にも匹敵するようなスケールのノンフィクションといってもいいのではないだろうか。
和訳者がいい仕事をしているというのも同じく。
ベアフットランニングやパレオダイエットなどに代表されるように、現代の科学技術や文明の利器による恩恵を受ける前のあるべき人間の姿に戻ろう、という主旨のムーヴメントが近年、特にアメリカを中心に広がりつつあるが、そういった傾向を感覚的にではなく、進化医学や文化的進化といった概念を軸に、カチッと理屈で説明している、とも言える。
本論中のディテールに目を向けてみても、例えばカロリー消費における脳と腸のトレードオフの関係とか、人間が例外的に口呼吸を行う根拠、虫歯のメカニズムなどなど、興味深いトピックスは数多い。
学術論文とは違うので、著者の主観が強く反映されている箇所ももちろんあるが、そういった見方も含めて、読者が現代社会の抱える問題群を有機的に考える際に、有用な示唆を与えてもくれる。
そして考えれば考えるほどに、我々人類はおそらくは最近の数百年のうちに、もはやなかったことにすることは決してできない、致命的な過ちを一度ならず犯してきてしまったのだろう、ということが確信される。
個人的なレヴェルでささやかな抵抗を試みることは可能だが、種族として、慣れきってしまったこの大量生産・大量消費・大量廃棄社会を根底から作り直すことはできない。
ホモ・サピエンスという動物としてナチュラルに生きることよりも、利便性と経済性をとにかく優先して人間は月日を重ねてきた(つまり著者のいうところのディスエボリューション)、ということがここでも自ずと分かってしまうのだ。
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上下巻読んで評価が難しい。上巻は面白かったと思う。類人猿からホモ・サピエンスまでの進化を時系列でまとめつつ、それぞれの特徴がわかりやすく解説している。ホモ・サピエンスとはなんなのか。狩猟時代から農耕時代への移管など、忘れかけているが、ジャレド・ダイアモンド「サピエンス全史」に近いのかもしれないが、サピエンス全史の方が新しかった。しかし下巻になると主にディスエボリューション、ミスマッチといった言葉で、糖尿病などの病気に焦点がうつる。人類は現代社会に主としてまだ適合できていないため現代病にかかってしまう。そうなのかもしれないが、私の興味フレームからは飛び出てしまい、飛ばし読みしてしまった。
Posted by ブクログ
・人間の身体の進化の物語であり、人は何に適応しているのかを問う
・その問いに対して明快で単一な答えは見いだせないことが人体の神秘的な結論
・人類の身体は現代の食事や運動不足にうまく対応できるように適応できていない
・これまでの人類の生物学的進化に対して、文化的進化により私たちの身体は現代の環境に適応できず、ミスマッチとなる病気が起きる
・「食べたものが人をつくる」というが、進化の論理では、場合によっては「普通なら食べないものが人をつくる」
・チンパンジーは果実中心の食生活だが、アウストラロピテクスは果実の依存をなくし、土を掘って茎を摂取するなど食生活を多様化にした
・なぜ人類は他の動物よりも脳が大きく進化したか? 大きな脳にはそれだけ多くのエネルギーが必要となるが、人類は狩猟採取により多くのエネルギーを獲得できたことでコストを補うことができた
・遺伝的には常に自然選択により進化してきたが、加速度的に進化した文化的進化が遺伝的に適応できていないために現代のミスマッチ病(糖尿病やがん、うつ病などの現代病)がおきた
・ミスマッチ病を予防するには、昔ながらの食事や運動をし、タバコや炭酸飲料、ジャンクフードをやめること
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人類と類人猿の最終共通祖先(last common ancestor=LCA)=約600万年前。
サヘロントロプス・チャデンシス(約720~600万年前/チャド)
オロリン・トゥゲネンシス(約600万前/ケニア)
アウストラロピテクス(約400~150万年前)
ホモ・エレクトス(約190~20万年前)
ホモ・ネアンデルターレンシス(約35万~2万年前)
ホモ・サピエンス(現生人類/約20万年前~)
第一の変化:二足歩行(LCA)
第二の変化:主食(果実)以外の食物適応(アウストラロピテクス)
第三の変化:脳の進化と狩猟の開始(ホモ・エレクトス)
第四の変化:更なる脳の進化と体の巨大化(ホモ・ネアンデルターレンシス)
第五の変化:言語・文化・協力という特殊能力の獲得(ホモ・サピエンス)
(第六:農業革命、第七:産業革命)
進化とミスマッチとディスエボリューション(有害な進化)
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人類の進化を「適応」をキーワードに語る。上巻で現生人類まで到達する。アウストラロ・ピテクスと現生人類の違いは、ちょっと頭骨の形が違うくらいしかないというのは知らなかった。しかし、そのわずかの差が大きな違いとなったのだと。
二足歩行がどの時点で完成し、何をもたらしたのかといったあたりがこの人の専門らしく、その部分はとても詳細かつ説得力に富んでいる。「適応」というキーワードをたてたうえで、「文化」もまた「適応」の方法なのだというところへつながっていく。
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表題の通りの大作。上巻は人体の起こりと進化が詳細に書かれており、環境変化に適応した人体の輝かしい軌跡が描かれる。下巻は打って変わって"ディスエボリューション"と作者が呼ぶ、農耕とその後の産業化に伴う人体と生活環境とのミスマッチ病の原理と予防法(その多くは現代人の怠惰さによって予防できないのだが、、)とがこれでもか、これでもかと繰り返しかかれ、自分の普段の生活を振り返るにかなり憂鬱な気分にさせられる。。
生物の進化のほとんどは環境変化への適用と繁殖の最大化にあり、その特徴は非常に長い年月をかけて少しずつ適応していくことにある。ちょうどその長い期間の間、ホモサピエンスはずっと狩猟採集生活をしていて、少し前まで長い氷河期が続いた。つまりはそううい生活に適合するように人体は進化している。これに対して1万年前ぐらいから農業と牧畜というイノベーションが起こり、食料の安定化と種類の単調化(狩猟採集生活でははるかに多様な食べ物を摂取していた)、そして牧畜による感染症の拡大が人類に環境の変化をもたらせた。それを数百世代を経て進化の力で適応すれば人類はまた違った展開があったのだろうが、その次のパラダイムをわずか数十世代で産業化という形で成し遂げてしまったため、体は狩猟採集生活のままだが、生き方は産業化による"高カロリー、高血糖、運動不足、感染症撲滅"的な生活にこの250年で急激に突入し、結果として、糖尿病、心臓病、がん、腰痛、近眼、親知らずの痛み等々のミスマッチ病が我々を襲うことになり、各国共に医療費は国家の首を絞めるほどの莫大なものとなっていった。
これらの予防はきわめて単純である。糖質のものはなるべく採らないようにし、食べ物は種類を多く食べ、立って歩いたり走ったりすることを生活の大半にし、共同で子育てをするだけである。ただ、現在の文明化、分業化された生活はそれをなかなかさせない。させないのでミスマッチ病におかされ、生活改善ではなく科学的な薬の力で抑制するのみである。また、都合の悪いことにこれらのミスマッチ病はゆっくりと進行し、繁殖とは関係のない年齢になってから発症するので、生命の得意技である"進化圧"が加わりにくい。という現状認識を行って残念ながらこの本は終わる。ミスマッチ病を防止するため、知識と行動が重要だとすると、まずは適切な知識を与えてくれるのがこの本で、それを基に行動するかは自分次第というところか。まずは甘ったるい炭酸飲料を飲むのを止める事からはじめるか。。
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人類は昔からしたら進歩していて、そのおかげで健康になって便利な環境で生きていられる。それは事実だが、便利になったのが、健康にとって命取りになっている面がある。そんな側面を浮き彫りにしたのが今回の本だ。
「人間は何に適応しているのか」と著者は問いかけている。そこから現代、問題になっている症状が見えてくる。
「進歩とミスマッチとディスエボリューション」の章を読んでいると、現代人は結構体に悪い生活を送っているのがよくわかる。
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人類のこの1万年の文化的進歩、狩猟採集、農業、産業革命に体がついていっていないためのミスマッチを明らかにする。上巻ではその前提のどういう環境に初期人類から適合し、ホモサピエンスだけが残ったかを考える。
近視、虫歯、腰痛、がん、心臓疾患、アレルギー、糖尿病、親不知はミスマッチ病であり現代では対処療法により自然選択を妨げない形で対応されておりこれからも特に新興国の経済成長とともに増えるだろう。これら快適とのトレードオフを防ぐ方が対処療法より経済合理的であるが予算は割かれていない。
昔に戻る必要はないが、運動とバランスのとれた食事は重要である。
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上巻では、ヒトがどのように進化してきたかを解説している。扱っている範囲は類人猿のあたりから旧石器時代までだった。最後の章でミスマッチ病の簡単な説明をして、下巻への橋渡しとしている。
現代の社会にヒトの身体は適応できているのか、という疑問に答えてくれると信じて下巻を読み進める。
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上巻の約8割は、サルから新人類に至るまでの進化の過程、とくに身体的特徴について焦点をあてて説明されている。
サル→原人→旧人→新人という過程の中で、身体的にどこが変わったのか、そしてその進化は自然淘汰上、何に優れていたのか。
知っている人にはかなり退屈かもしれない。
上巻の最後の2割は下巻のイントロである。それがサブタイトルにもなっているように、健康と疾病である。
新人類が登場して数千年がたつが、そこから劇的な身体的な特徴の変化はなくなっている(ように見える)。
細かく見ると、身長や皮膚の色などは地域ごとに差が出ており、自然淘汰の結果だそうだ。
しかしその代わりに、文化的な側面で劇的な変化を経験しており、それによりある問題を引き起こしたという。
それは、本来人間の環境には適合しないはずが、文化(道具)によってそれを克服しているように見えていながら身体に影響を与えるという問題であり、本書ではミスマッチ病と呼んでいる。
稲作技術や食物の保管方法が確立される前は、その日の食料を取ることが中心的な課題であり、それ故にその日に摂取した食物を長く保持できるように、脂肪を効率よく蓄えられるように進化した。
しかし、現代の過剰ともいえるような食生活によって引き起これる糖尿病は、現代の環境と身体の進化のミスマッチによって引き起こされる病気の代表例ともいえる。
下巻はこれらについて詳細な考察がなされるのだと思う。