あらすじ
映画撮影所の小道具係を辞めようかと悩む隆之さん、客の少ない食堂で奮闘する継治さん、月明かりのアパートで母をしのぶ良美さん……。 多摩川の岸辺の街を舞台に繰り広げられる心温まる人生のドラマ。 収録作品は「黒猫のミーコ」「三姉妹」「明滅」「本番スタート!」「台風のあとで」「花丼」「越冬」「月明かりの夜に」の全8篇。 名もなき人びとの輝ける瞬間が胸を打つ、珠玉の連作短篇集。
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Posted by ブクログ
花丼、越冬と月明かりの夜に、が好きだった。
花丼
もう家賃などの支払いも無理で、客も入らないどうにもならなくなったオーナーは、自死しようとしていた人を助ける。そして自分の食堂に連れていく。
すぐに温かいものを食べさたいが、仕込み前で何もない。仕方なく、まかない飯を出す。そうしたところ、大喜びで、お替りまでする。
その後、花丼と名付けたこのメニューを食べに来る人がたくさんあるように。あの時救った人は看板屋さんだった。食堂に、花丼の看板を置いてくれていた。
越冬
シングルマザーとシングルファザーの話。それぞれの子どもが、学校で隣の席に座っていたことから、一緒にバードウォッチングに行く。距離が、だんだんと縮まる中、シングルファザーに関西への転勤が。シングルマザーに、一緒に4人で関西に行かないかと言うと、おもいがけない返事が。一緒に行きますが、このままそれぞれの父、母として4人で暮らしましょう。それぞれの子どもに、他に好きな子ができたら、その時に私は50を過ぎてますが私を花嫁にしてもらえますか?
月明かりの夜に
シングルマザーの子どもとして育った良美。母親に散々わがままを言いながら育った。ある時、今日からあなたの母親は、いません。友達として暮らすので、正子ちゃんと呼びなさい、そして家事の割合を増やす、と。
そんな年月が流れ、母親は亡くなる。遺品整理の中、近所の人にあげた落語のテープ。これはあなたが持っておくべきものだ、と言われ、母親が最後に聞いていたものだと思い聞き直す。するとその中に、母親の肉声が入っていた。
どれも、少しずつ自分に似ているところがあったりして、じわじわくる。生き方、子どもとの接し方、など日々試行錯誤しながら、なんとかここまで来た。そんなに世の中、捨てたものでもないし、なんとかなるさ、そんな気持ちになったりする。でも、ここに描かれているのは、令和のいまでなく、昭和なのかな…
重い本ではなく、サラッと読み切れる短編集。