あらすじ
息詰まる創作の現場、あの名作の秘話が今、明かされる
「生きものの記録」以後はどうも冴えない作品ばかり――。『羅生門』『生きる』『七人の侍』の共同脚本家が見た映画人、黒澤明の真実
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Posted by ブクログ
菊島隆三、小國英雄と並んで黒澤明の全盛期を支えた脚本家、橋本忍の自伝。
伊丹万作に師事した後、黒澤明と出会い、『羅生門』が生まれるまで。またその後『七人の侍』の地獄のような脚本製作の話、また天才監督の野村芳太郎との出会いなど、日本映画の黄金時代を支えた人たちの驚くような話の数々に舌を巻く。
国立フィルムアーカイブから出ている『脚本家 黒澤明』展、『羅生門』展の図録なんかと合わせて読むと、より黒澤明、橋本忍、そしてその周りの人たちのスゴさが理解できるかな、と。
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物心ついてからの黒澤明作品といえば「影武者」であり「乱」だった。巨匠の作品は私にはどうもわからないようだと何十年も彼の作品を見ることはなかったが、たまたま映画館でみたデジタルリマスター版の「七人の侍」に度肝を抜かれた。このあまりに鮮烈な作品のことが知りたくて本書を手に取った。戦いにも似た共同脚本という形式を初めて知った。橋本氏は黒澤明は職人から芸術家になったという。80年代の作品がどうにも理解できず重苦しさだけが残った理由が分かったような気がした。「夢」を観てみようと思う。
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映画で重要なことは何か。脚本はどういう役割でどう作られるべきなのか。その答えが書かれている。まさしく、ある時期までの黒澤映画は「複眼の映像」なのだ、ということがこの本の”テーマ”だ。
脚本家として出発したこの人らしく、この本の書かれ方もとても脚本的。たとえば、感情を直接描かず、風景や画面、もしくは行動や仕草で示している。
映画をそれなりに深く楽しみたい人にはとても示唆に富む一書。
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まず、久々にのめり込んで読んだ
そもそもこれが日本を代表する脚本家の技なのであろう・・・
映画ファン、黒澤ファン必読
また、職人と芸術家の差異、プロフェッショナルとは何か、など、仕事論としても価値ある一冊
明らかに名著です
Posted by ブクログ
「激マン」好きはぜひ。大傑作。「生きる」「七人の侍」など数々の黒澤明作品の共同脚本を手がけ、独立後は「砂の器」「白い巨塔」などの傑作を残した日本映画界の巨峰にして脚本家の中の脚本家・橋本忍が、黒澤との出会い、シナリオの書き方、そして生涯をハイテンションに綴る。文章うめえし、勉強になる。
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黒澤明監督作品で橋本忍が脚本に関わったものでは、
『生きる』『七人の侍』『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『悪い奴ほどよく眠る』を
橋本忍が脚本に関わっていない黒澤作品は
『野良犬』『天国と地獄』『用心棒』、
黒澤作品ではない橋本忍脚本は
『砂の器』『八甲田山』
を見たことがあります。
その中では、『悪い奴ほどよく眠る』と『天国と地獄』が好きで、
黒澤映画の現代劇が好きなのかなーと思ってました。
製作年をはっきり把握しておらず、『生きる』は後期のものと思い込んでおりました。
どうやってあの名作映画の脚本を作り上げているのか興味がありましたが、
想像しないものでした。そもそも脚本作りについて全く知らないので意外も何もないかもですが…。
近現代の小説家なんかが宿に泊まっていたのは耳にしたことありますが、本当に宿に止まって書き上げるんだー…。
定刻できっちり仕事するところにも驚きました。
共同脚本の初期の小國さんの司令塔のような働きぶりは驚き、最初はそのすごさを理解できなかったのですが、全体を見渡せる人のいる重要性がだんだんわかりました。またそのプレッシャーも。
がむしゃらに書いて、豪腕でまとめる方がそれはそれで楽なのですかね。
脚本の仕事でも映像製作でもないですが、先にテーマをしっかり決めてぶれずにやりきるとか、豪腕で突き進んでも難しいとか、はっきりとは自分でも掴めないのですがどこか一般の仕事でも教訓にできそうな匂いを嗅ぎ取りました。
Posted by ブクログ
半世紀も前、パリのシネマテークで何の予備知識もなく蜘蛛の巣城を観た時、二十歳の自分は初めて日本人であることの誇りや嬉しさを感じた。
橋本忍さんは黒澤明の影に隠れているが世界の映画史上最高の仕事を残した人だとこの本を読んで初めて知った。感謝。
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稀代の脚本家、橋本忍が日本映画界の巨匠、黒澤明との葛藤を描く。
以下、まずは気になるところをつらつらと。
・黒澤明は閃きを掴む。
・脚本の善し悪しは誰もが手をぬきがちになる人物の彫り。黒澤明の脚本つくりの最大の特徴は手抜きしてはならないものは徹底的に手を抜かない。
・脚本直しは三流監督。
・黒澤明は芸術家へと変貌していった。
この本はいわば橋本忍が黒澤明との間に感じた自伝的書である。
作中に黒澤明が自伝はどんなものでも面白いと語っているが、全くその通りである。
人にはそれぞれの人生があり、ドラマがある。
それが面白くないはずはない。
感動する。
巨匠として日本映画界に君臨し続けるイメージのある黒澤明だが、この本の中では監督の苦悩と苦闘が見える。
それは常に複眼の目でともに脚本を作っていた橋本忍だから知っていることである。
橋本の黒沢映画への批評は黒澤という人物を知っているから出来る批評でもある。
そしてなんとまあ、面白く書いてくれるのだ。
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単行本で一度読みました。橋本氏の現在のお住まいが、私にとって馴染み深いところなので、何だかうれしいです。完全なノンフィクションなのかどうかはともかく、黒澤映画の共同脚本の執筆システムがこれでよく分かります。
Posted by ブクログ
黒澤明作品を見る中で、脚本への強烈なこだわりを知った。
脚本を書く、というか脚本家を巻き込んでホンを生もうとすること、さらにその手法を確立しようとすることが映画製作の一部であった、と。
それを脚本家の側から書いたのが、この本。
「ライター先行形」、「いきなり決定稿」なるほどなるほど。
ネットで知っただけの「侍の一日」という未完作についても。
で、面白いのはこの本の文体で、なかなかこってり味なのだ。
なんでも1918年生2018年没の作者が、2006年に発表したもの。
つまり80代後半。
日記の習慣がないという人なのに、あの時あの場面で誰がどうしたかを明確に描いている。
つまり多分盛ってる。
だからこそ面白いし、だからこそ事実ベースの研究とはそぐわない。
だいたい繰り返しが多いし。
そもそも橋本忍の個性も強いし。
ちょっと笑っちゃったのは、死にそうな人の病床にお見舞いに行って、半分説明半分恨み節なドストエフスキーばりの長広舌を繰り広げるところ。
そんなんに付き合わされたら死ぬわ。
また、伊丹万作の幽霊に語り掛けるところとか、もう作者半分向こう側じゃね。とか。
Posted by ブクログ
トップレベルの脚本家や映画監督の視点を垣間見れる作品だ。本書は黒澤明監督と共同で多くの名作を世に送り出した脚本家の橋本忍氏が書いた本だ。
「複眼」というキーワードに惹かれて本書を手に取った。複眼についての説明が現れるのは以下の部分。
「黒沢組の共同脚本とは、同一シーンを複数の人間がそれぞれの眼(複眼)で書き、それらを編集し、混声合唱の脚本を作り上げるーそれが黒沢作品の最大の特質なのである」
想像していた「複眼の映像」ではなかったが、たしかに素晴らしい作品をつくるためには有効な手法だと思った。プロフェッショナルが集まって、分担して作品を作るのではなく、一つの箇所を同時にかつ別々に書いてみて、もっともよく書けているものを採用する。この方法は作品が完成するまでにかかる時間は増えるが、作品の品質は段違いに高くなりそうだ。また、同じ部分について他の脚本家が同時に書いた文章を見ることができ、お互いの文章を比較して、次回の執筆に活かすことができる。この比較による技術の向上効果が大きいように感じた。
この手法は日々の仕事や小中学校での作文に活かすことができるように感じた。仕事で同じことに関する報告書を数人で書かせて、お互いの文章を読みあうことで、他人との違い、自分の欠点、もしくは優位性を把握することができそうだ。