【感想・ネタバレ】わたしがいなかった街でのレビュー

あらすじ

離婚して1年、夫と暮らしていたマンションから引っ越した36歳の砂羽。昼は契約社員として働く砂羽は、夜毎、戦争や紛争のドキュメンタリーを見続ける。凄惨な映像の中で、怯え、逃げ惑う人々。何故そこにいるのが、わたしではなくて彼らなのか。サラエヴォで、大阪、広島、東京で、わたしは誰かが生きた場所を生きている――。生の確かさと不可思議さを描き、世界の希望に到達する傑作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

あらすじ的なことは省略するとして。
凄まじく超絶技巧が凝らされた実験小説で、大傑作だと思う。
視点人物が移動するのは「春の庭」でも素敵だと感じだが、本作はその前哨戦か。
とはいえ「春の庭」の唐突さではなく、「伝聞の中に、視点人物にしかわからない内面や感情やが入り込んできて」、あれ、あれれ、と徐々にわかる仕組み。
ただの実験ではなく、わたし→中井→葛井夏、と、「観念だが情念だかが移行する」という話の筋ともリンクしているので、正しい実験でもある。
次は自動販売機の小道具に着目して再読すること。

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2018年12月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

時間や距離が隔たった場所の戦争によく思いを馳せる女性がいる。
なぜこの今が、ああではなくてこうなのか。あのとき少し駆け足をして電話に間に合っていたら、違う物語が展開していたのか。はたまたなぜ自分は他人ではなくて自分の中から世界を見ているのか。そんなこともよく考えている。
この砂羽という女性は人とのコミュニケーションは苦手なようで、生き辛さを抱えているように見える。この辺は非常によく分かる。
せっかくなので、引用してみる。
”複数の人間が関わって、二重三重に暗黙の了解みたいなもので囲われた状況が苦手だ。それは三十六歳にもなって人の気持ちを考えられない、もしくは人づきあいのルールがわからない未熟な人間ということなんだとも思う。”(P.30)
”続きがない。1詳細を言う、2聞いてほしいと言う、3言わない、のいずれかを選んでほしい、と思う自分はコミュニケーション能力が欠如しており人の心がわからないということなのだろうか、と気が引けてしまう。”(P.31)
”なぜみんな、こんなふうに気軽に、素早く、なにかを伝えることができるんだろう、と思う。なにか伝えたいことが浮かんでも唐突で変に思われるかもとか、連絡していない別の友人が読んだら快く思わないのではとか、こういう返事が来たらその次はどう書こうとか、つい考えてしまって時間ばかりが過ぎるわたしにとっては、まるで、走っている電車に飛び乗るくらいに、難しいことに思える。”(P.66)
”この根拠の乏しい不安は、子供のころからの考え方の癖のようなもので、待ち合わせ相手が遅れたり近くにいる人が不機嫌なときにも、ほとんど自動的に浮かぶ。”(P.76)
”チューナーになってくれる人がいないとき、他人となにモードで話せばいいかわからない、と前に有子に説明したことを思い出す。”(P.101)
”わたしは、相手が言わないことは聞かないし、聞かれないことは言わないので、やっぱりそれまでと同じように話した。”(p.174)
とても共感できるとともに、解像度のこのあまりの高さは、筆者自身が同様の感覚を持っている以外には考えられない。
ああ、それでこの作風、この文体か、となんとなく納得してしまう。文章が長くてくどいんだけど、分かりやすいくどさというか、すごくしっくりしながら読める。

砂羽には若い頃に通っていた写真教室の時の友人がいて、その一人の妹である夏が途中から主人公のように振る舞い始める。砂羽は急に熱中症になって病院に担ぎ込まれ、フェイドアウトしてしまう。ラストの美しい夕日と妙な火事の、何かカタルシスのようなシーンも夏が引き受ける。ちょっとびっくりするような構成だった。

もう一人、写真教室時代の友人で中井という非常に魅力的な登場人物がいるのだが、もう書ききれない。

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2023年02月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公の砂羽は色々考えすぎて、人の目を気にしすぎて、まわりにうまく溶け込めない。あと、色々心配性すぎる。いざという場面でコミュニケーションを失敗する。脳内会議の感じ、私も同じようになってることよくあって、共感した。

砂羽は、戦時中の作家の日記を読んで同じ場所にいったり、戦争のドキュメンタリーを見たり、戦争を体験した祖父に思いをはせたりしながら、今の自分に起きてることは(どんな出来事も)場所とか時間とかいろんな無数の条件の組み合わせでできているんだ、という普遍的事実を再確認してるようにみえた。
そこまで達観してるから無感動なのかな…?(いいのか悪いのかわからないけど)と思った。
 
砂羽は、理解されにくいメンタリティをもってると思うけど、それなりに周りに、理解はされなくても共有できる人がいて、ある意味の救いが書かれてる気がした。

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2022年11月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

すごく良い本でした。
日常のありふれた経験をこんなにも感受性豊かに捉えることができるなんて、本当に素敵な感性。
ある経験をするのがなぜ私でなくて、この人なのか。なぜ私はこの時代に生まれて、この環境で、この人間関係の中で、この生活をしてるのか。きっとその不可解さやあるはずのない可能性に想いを馳せる「うわの空」さが、私の根幹にあるのだなと思った。他者の人生の奥ゆきを想像する根源はそこなのだなと。それこそが他者への思いやりや想像力につながってゆく。

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2021年01月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

登場人物の思考の巡らせ方がとてもリアル。
人には言えない、説明できない、したところで理解されないであろうなと思う、自分の中でぽろぽろと湧き出てくる思考が、細かく丁寧に描写されていた。
その考えを他人に話してみたり、わかってもらいたいと思っている平尾さんが自分とは違っていて、不思議な気持ちになった。
バーで会った嫌味っぽい男ともっと話してみたいと感じているところが、自分だったら絶対そんなことは思はないだろうと印象に残った。
上手く喋れないとわかっているのに、この先に自分と繋がりがあまりないかもしれない人にも、自分の内側を言葉にして発してみる。ものすごく不器用な生き方に終始ハラハラしていた気がする。
そこにばかり目がいってしまい、苦しくなってしまった。
でも、小説の中の人々が生々しくて、暮らしていて、知らないどこかで繋がっていたりして、生きて日々を過ごしていくのだなあと感じた。
また、会えるかもしれないと思うことはできる。

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2021年06月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

現在と過去、あちこちに思いを馳せながら「なんで私はここで生きているんだろう」と問い続ける。時代や視点の交わり方が丁寧。
途中で集中力が切れてしまったので、ゆっくり、もう一度読み直したい。
「会えない人と死んだ人と、全然違うとしたら、どこに決定的な違いがあるのか。」という一文が印象的だった。

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2021年03月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

柴崎さんらしい雰囲気の文章だった。(どことなく『フルタイムライフ』を彷彿とさせる)

物語の行き先は私にはちょっと難解だったなぁ。
主題を見つけ損なってしまった><

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2015年02月01日

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