あらすじ
戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奧に響く痛ましい叫び――悔い改めろ! 介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味……。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る! 全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
この話に何度も何度も出てくる、「罪悪感」という言葉についてとても考えさせられる話だった。
介護なんて、どれだけしんどくて辛いかは実際やった人じゃないと分からないと思う。大友が何もしてないくせに綺麗事言い過ぎて斯波や佐久間に共感してしまった。羽田の気持ちもすごくわかる。
そしてそう思うことについて「罪悪感」を抱いてしまった。
救われたのは最後の羽田の「きっとこの世に誰にも迷惑をかけないで生きる人なんて一人もいない」という台詞。
Posted by ブクログ
介護業界が抱える闇を抉り出す社会派ミステリー。正義とは、救いとは、罪とは何かを否応なしに考えさせられる。
安全地帯にいる者ほど、介護をビジネスにするなんてと上っ面の綺麗事に囚われてしまう。主人公である大友自身が、安全地帯から空疎な正義を語る存在であるという点が皮肉である。
人の善性を信じて疑わない大友に読者が息苦しさを感じてしまうことこそが、この作品が投げかけている問いなのだと思う。
Posted by ブクログ
社会派な内容とどんでん返しのバランスが中山七里みたいだと思った。後者は邪魔者のようにも思えるが、ミステリー好きへのサービスでしょうね。
1番の衝撃は「相模原障害者施設殺傷事件」よりも前に発表された作品だということだ。現実の事件をモチーフにしたのだと思っていたが、フィクションが現実を先取りするなんて…
私は性善説を信仰する大友検事があまり好きになれなかったのだが、そこすらも著者の狙いだったのだろう。
「殺すことは間違っている!救いも尊厳も、生きていてこそのものだ。死を望んだんじゃなく命を諦めたんだ!」
だが、介護の世界は決して理想論では片付けられない。家が裕福でVIP待遇の老人ホームに父親を入居させた大友が言ってもただの綺麗事にしか映らない。
「あなたがそう言えるのは、絶対穴に落ちない安全地帯にいると思っているからですよ」
ストンと腑に落ちた。まさにこれが日本がいつまで経っても変わらない原因の一つなのだろう。
この作品を読んで平然としていられるのも、どこか自分とは違う世界だと逃避しているのかもしれない。だが、いつか親を介護する日はやってくる。子の顔を忘れ、糞尿を撒き散らし、暴言を吐く親を私は献身的に介護できるだろうか?少子高齢化が加速するこの国で、介護の現場は崩壊を起こさないのだろうか?本書を読んで、将来に対するあらゆる懸念が浮かび上がったが、明るい見通しは立たないまま、ただ絶望の淵に沈んで物語は終了した。
Posted by ブクログ
前代未聞の大量殺人
幸い自分はまだ経験していませんが、現場は生き地獄なんだなぁ
殺人によって救われるなんて本当はあってはならないけど
今の状況だと免れないのでしょうね
改善されることはないのでしょうか
読んだ後に映画も見ました。
ちょっと違うけど映画は映画でお父さんに手をかけるところが壮絶でした
Posted by ブクログ
斯波宗徳は、なぜ、父親の介護をして看取ってから、介護の職に就いたのだろうか?
疑問だった。
私も、介護をしていたけれど、介護職に就きたいという思いは今もない。
※介護に携わっているみなさんには、今もたくさん助けられています。
私は、そのかたたちのおかげで、生きていられると思っています。
介護をした経験があるから、介護の職がいいのでは?と思うのかもしれないけれど、ヘルパーの資格をとって仕事にしたいとは思わない。
だから、斯波が介護職に就いたのがとても不思議だった。
犯人が斯波だったということにも驚いたが、彼は、使命をもって、介護が必要な高齢者と、その家族を救うために正しいことをしたと主張した。
そこで合点がいった。
斯波は、それを使命としていたから、介護職に就くことができたのだと。
この小説が発表されてから10年ほど経つが、介護という問題に対して、この社会は変わったのだろうか。
むしろ、悪くなったのではないか。
医療費の予算は削られ、介護サービスは低下するばかりである。
所得格差、地域格差は益々広がりをみせ、介護サービスを受けられる人と受けられない人の差が、如実に現れてくるのではないか。
この物語は、他人事ではない。
私達の隣に、すでに座っている。
Posted by ブクログ
「絶叫」に続いて葉真中顕さん作、2冊目。
今まさに自分が抱えている問題でもあるので
読みながら共感する部分が多かった。
共感…かな?
ちょっと違うか。
複雑な気持ちが渦巻き、苦しい読書だった。
主人公の男は検察官でクリスチャン。
対する犯人は介護の仕事に携わる者。
そしてその介護を受けている人たちの家族が描かれる。
読んでいるうちに、正しいと思えていたことが
ほんとに正しいことなのか疑問に感じ始める。
主人公にもその思いが芽生え、苦しむ。
犯人の犯した罪はもちろん許されるべきことではないとわかりつつも、その気持ちが揺らぐ自分がいた。
介護する者、される者、
介護ビジネスと呼ばれる世界や
これからの高齢化社会への不安など、
いろいろなことを深く考えさせられる一冊。
検事の相棒的な存在の、数学得意な椎名くんが
重たいテーマのこの作品の中で、
唯一飄々とした存在でとても良かった。