あらすじ
5年前、響(ひびき)の暮らす田舎町に、都会の小学生たちが校外学習で訪れた。同学年の5年生と言葉を交わすうち、彼らを廃校に案内する。きもだめしをすることになった響たちは、ある事件に遭遇し、一人の女子が大怪我を負ってしまう。責任を感じ、忌まわしい記憶を封印した響だが高校生活に希望を抱くなか、あの日の彼らと同じクラスで再会する――少年少女の鮮烈な季節を描く、青春冒険譚。
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Posted by ブクログ
小学生の5人の危険な好奇心が巻き起こした一つの事件。その過去の事件を巡る青春ミステリ。それぞれの視点による口語調を交えた軽めの文体だが、内容はややリアル寄りであり、起こした事件そのものではなく、事件の爪痕が残した現代への影響が話の主軸になっている。事件が現在進行形ではなく、過去に起こした事件(読者にとって既知の情報)が周囲に発覚するという体裁を取っているため、前半の小学生パートに比べ、本編の高校生パートはややスリルに欠ける部分がある。その代わりというわけではないが、高校生の造形はかなりリアル。男子はやや幼く愚かで、女子は少し大人びているように描かれており、スクールカーストの描写も見事。特に主人公を追い詰める急先鋒となるクラスのリーダー格の女子の描写は非常に興味深かった。単なる女王蜂のイケてる女子や不良女子ではなく、体制側の、ルールを順守するキャラだというのは面白い。クラスのはぐれものではなく、クラスの秩序を守る側が敵に回るというのが、高校生のリアリティなのだろう。ルックスだけがいい女教師の無能ぶりも素敵だったが、こちらは最後に下された罰がやや唐突でご都合主義めいた感じがあったのが残念。しかしこのリーダー格の女子と無能の女教師は、途中で読むのを中断するぐらいに胸糞の悪いキャラクターだったのは逆に素晴らしいと思った。ただ難点としては、ややキャラの掘り下げが甘く、リアルではあったものの、それが魅力として昇華しきれていないのがたまらなく惜しい。特に過去をバラした友樹の馬鹿さ加減や空気の読めなさは高校生男子としてはリアリティがあるものの、読んでいて不快ではあるし、やはりどのキャラもパンチに欠ける印象はある。唯一、教師に恋心を抱くユカリにだけ物語性があったように思う。総じて、キャラクターはやや書き割りで、魅力に乏しいものの、高校生の描写のリアリティはあるので、そこの部分を楽しめるならオススメだろう。