あらすじ
オレオレ詐欺、騙り調査、やられ名簿……。平均2000万円の預金を貯め込んだ高齢者を狙う詐欺「老人喰い」が、いま急速に進化している。高齢者を騙すために合理化された組織をつくり、身元を徹底的に調べあげ、高いモチベーションで詐欺を行う若者たち。彼らは、どのような手口で高齢者を騙しているのか。どのような若者たちが、どのような心理で行っているのか。裏稼業で生きる若者たちに迫ることから、階層化社会となった日本の抱える問題をあぶりだす。
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Posted by ブクログ
特殊詐欺グループの内情に迫るルポ。
高度な組織化と、優秀な人材を選抜して育成するシステム、高いモチベーションの源泉、名簿屋、道具屋、A店舗(受け子外部委託)などののビジネススキーム etc。
啓蒙されながらも被害が無くならないのは、被害者の落ち度だけとは言えないのだと分かった。
頭が切れる人間がシナリオを日々研鑽して、
騙したり脅したりの素養が、ある人間を鍛えて、実行するわけだから、そりゃ引っかかる人もでてくるな、、、と。
Posted by ブクログ
老人を対象にした詐欺の実態のノンフィクション。まるでその場にいたかのような臨場感のある描写が続くが、残念なことにすべては“想像”でしかない。テレビの“再現映像”のようなもので、実際に取材はしているのだろうが全面的に信頼することはできない。さらにNFとしては致命傷(とぼくは思っている)の誤字が多い。見出しのサイズが本文より小さいのもどうなんだろう? このあたりは編集者の責任かな。総合的に「読み物としては面白いけど、話半分に」と判断せざるを得ない。ただ、その実体は凄まじいし、彼らの主張する大義名分に思わず頷いてしまった自分が怖い。
Posted by ブクログ
● P.10
大きな誤解を解いておきたい。高齢者を狙う犯罪とは、高齢者が弱者だからそこにつけ込むというものではない。圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃(やいば)なのだ。
● p.13
どんなに防犯対策を施そうとも、この「階層化社会」がある限り、老人喰いはなくならない。特殊詐欺犯罪がなくなったとしても、彼らは別の手段で高齢者に牙を剥き続けるだけだ。
● p.40
詐欺の現場プレイヤーは下見屋で擦った(情報強化した)名簿を使うことで、「相手が半分詐欺だと気づいても、詐欺だと確信していても、金を取れるようになった」というのだ。(略)
強化された名簿に「暴力耐性なし」と記されたターゲットにとって、キレ役の言葉はまさにその暴力を予感させるものであり、詐欺と断定して電話を切った後の暴力による報復をも予感させてしまうのだ。(略)
被害者も落ち着いて考えれば分かろうものだが、不安にさいなまれた結果「でも1%でも報復の可能性があるなら、お金を払って二度と電話がかかってこないようにしたい」という気持ちの方が大きく働いてしまう。
● p.45
詐欺の加害者側の取材の中でとにかく痛感したのは、「詐欺に遭う者は愚かだ」という言説がいかに愚かかだ。そうではない。騙す側が、圧倒的に洗練されているのである。詐欺組織は徹底的に管理された高度な集団で、プレイヤーたちがこうした役回りの技術を徹底的に磨き上げ、それを支える名簿の精度が急速に進化したから、被害は減らない。
● p.48
詐欺系名簿業者の男は「単に高齢者というだけの名簿で詐欺をかけた場合の成功率は0.25%程度だが、情報強化した名簿では成功率40%もありうる」と言う。
● p.150
共通して詐欺研修者に植え付けられるのは、以下の「大義名分」だ
・詐欺は立派な「仕事」である。
・店舗に編入されるプレイヤーは、編入されるだけでも選ばれた人間である。
・詐欺は犯罪だが、「最悪の犯罪」ではない。なぜなら、「払える人間から払える金を奪う」商法であり、詐欺被害者が受けるダメージは小さなもので、もっと悪質な合法の商売はたくさんあるからだ。
・詐欺で高齢者から金を奪うことは犯罪だが、そこには「正義」がある。金を抱え込み消費しない高齢者は「若い世代の敵」「日本のガン」である。
・ここで稼ぎぬくことで、その後の人生が確実に変わる。
● p.159
日本の高齢者に富が集中し若者が食えないのは、厳然たる事実。そんな現代日本で、彼らはその高齢者を喰らうことの大義名分を洗脳され、むしろ自らそれを信じ込む。そしてブラック企業以上に厳しい選抜に勝ち残ることの自己肯定感。身近な成功者像であり圧倒的な「男の求心力」「再配分の美学」を持つ上層部に心酔し、そこに属することに強い選民意識を得る。
これではやはり、老人喰いがなくなるはずはないのだ。
p.237
高齢化社会とは「生産力を失った多くの高齢者を、少数の若者が支える社会」。そして、かつてないほどに拡大した若者と高齢者の経済格差と、努力しても報われることがあまりに少ない現代の若者の世界観から、必然的に「支えることより奪うこと」を選ぶ者は生まれた。これが老人喰いだ。(略)
ただひとつ言えることは「奪われる前に与えていれば、こんなことにはならなかった」ということだ。
本来、富める高齢者がやっておくべきだったのは、みずからの子供や孫に教育費や労力を費やすことのみならず、将来的に自らの世代を支えてくれる「若い世代全体」に金と手間をかけて育て、支えてくれるだけの環境と活力と希望を与えることだった。だが現実は、まったく逆だった。
今後の老人喰いを収束に導く方法は、防犯対策でも彼らの手口を啓蒙することでもない。ただ、これからの世代に「与え、育てること」しかないように思われてならないのだ。