あらすじ
1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校に入った志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに魅了された。老女だが踊りは天才的。彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。だが、その行動には謎も多かった。あれから30数年、翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る。苛酷なスターリン時代を、伝説の踊子はどう生き抜いたのか。感動の長編小説。第13回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
面白かった、泣いてしまった、どうして今まで読まなかったんだろうと思った。いろんなことが思い出された。
何人からかおすすめされて、何年か越しに手に取った。最近読んだ系統で言うと、ハンガン『少年が来る』『別れを告げない』と同じく、歴史があってその中にうまくフィクションとして成立している小説。
1960年プラハのソビエト学校に入った主人公の志摩(シーマチカ)は、オリガ・モリソヴナという舞踊教師に魅了される。それから30年、日本に帰国後翻訳者となった彼女は、ダンサーになるという夢に破れ子供を持ち離婚を経験し、、といった後に、モスクワに渡りオリガ・モリソヴナの半生を辿り出す。ソビエト学校時代の親友に再会し、謎解きをするように過酷なスターリン時代の歴史を紐解いて行く、その謎解き自体がハラハラドキドキで面白いのもさることながら、きっとこういうことがあったんだろうというリアリティ、悲しと喜びのジェットコースターで、なんと表現したらわからない気持ちになる。良かったとも言えない(もちろん良かったんだけれど)、ただぐんと来るものがあった。
…こうして自分で刃物を手にした瞬間、途轍もない解放感を味わったんだ。自由を獲得したと思った。あたしの生死はあたし自身で決めるって。もうそのときは、自殺する気なんて完全に雲散霧消していた。絶対に自殺するものか、生き抜いてやる、と心に固く決めていた。そういう勇気と力をこの手製のカミソリは与えてくれた(p.445)
「シーマチカ、そんなことないよ。巨大なあくや力に翻弄されるのもしんどいけれど、そういう矮小な理不尽に立ち向かったり耐えたりしていくことも、それに劣らず大変なのかも知れないよ。いや、きっとそうだよ。引くか、踏み止まるか、選択肢が残されているってことは、常に自分自身の意志と責任で決めて行かなくてはならないんだもの…そういうあたしも、偉そうなことは言えないんだけどさ」(p.476)
リラの花が美しく咲き誇る五月だった。先生方や生徒たち、それに生徒の父兄が心から悲しんでくれた。棺にリラの花をいっぱい詰めたの。(p.487)
ルビャンカ、サボイ・ホテル、ルビャンスカや広場、マヤコフスキイ広場、フルンゼンスカヤ駅…どれもこれもが、どれもこれもが、リラの花を思い出させる。
Posted by ブクログ
すごかった。物語自体も面白かったけど、最後の対談の部分で放心してしまった。なんで自分はロシアや、共産主義の国に興味を(共感ではなく)うっすら覚えるのだろう?と思っていたが、なんか日本がニセ社会主義的だからだ、と指摘を読んで身にしみた。
それは、今まで読んだ本の感想とか自分が会社を辞めたとかで、すごい実感をもって理解できた気がしたからだ。そうじゃなければ、ああ、そういう見方もできるかもね、なるほど、で終わってたかもしれない。でも、会社をやめて、でもまだ息苦しくて、世の中の人たちを見ていてどうしても自分との感覚が合わない部分があって、その息苦しさを言い表すのが社会主義的、というのを見つけて、なんか救われたのかもしれない。
日本の、このみんな一緒の息苦しさ、ひとりひとり違うことこそが宝でそれに邁進すればよいのに他人を羨望することだけに終始する日常のこのうっぷんを、そしてそれをこれ見よがしに真似する若い世代の、見るにたえない気持ちを、この話で救われた気がした。
プラハの授業がすごく面白そうだった。日本の教育をほんとうに、こんなふうにできたら素敵なのに、そして大人になってからでも、どんどん人と意見を交換するような(他人に妬まれないための愚痴合戦ではなく)文化になればいいのにと思う。
日本の文化が社会主義的だと思えば、外国について報じるときも、バイアスがかかっていて当然だなと思う。ていうか、バイアスのかからないメディアなんてないと思うが、社会主義の人たちが好むようなものが、空気を読みながら放送されているのかもしれない。
おそろしいのは、この社会主義的だ、という指摘はある程度の大人なら聞いたことがあったり思うところがあったりするのに、こんなに優秀な小説があるのに、したり顔でそうだよ、と言うだけであたかも自分はまっとうだと、あるいは世の中がそうだから仕方ないと言わんばかりの周りのひとたち。知ってるのに誰も変えようとしない、こそりとも音を立てない。なんと勇敢なことだろう!さすが侍の国。
欠点を指摘されて「それは言われなくても知っている」という、よっぽど、おつむがよろしいと見える。七面鳥が出汁にされてからゆっくり考える様に似ている。そういえばみんなの顔もどこか鳥のように華やか。だから日本はこの先ずっと安泰だし、この上なく自由な風が吹き荒れる、みんながやりたいことを見つけだして自分の好きな道を歩める希望にみちあふれた類いまれなる誠に住みやすい豊かな国だ。
……だめだ、彼女のように罵倒したり絶賛したりする言葉を、わたしは置いてきてしまった、学校の教室の道具箱の中かそこらへんに。もっと口汚い言葉を、いっぱい習得しよう。あと、諳じれる物語をいくつか持ちたい。あと、ヨガもやりたいなあと、思った。
Posted by ブクログ
スターリンの支配するロシアで収容所での暮らしを生き延びたオリガ・モリソヴナの謎を解き明かす物語。
不幸な時代をしたたかにしかも他者への思いやりを持って生きたオリガ・モリソヴナの姿には強い共感を覚えます。
作者の米原万理さんはゴルバチョフの通訳も務めたロシア語通訳者ですが、残念ながら亡くなられてしまいました。この作品は、米原さんの最初の、そして最後の小説です。そしてそれは、米原さんのロシア語通訳者としての知識と体験と類まれな言語能力を駆使し、全身全霊を傾けて書かれた逸品です。
読み終わったあとはしばらくは呆然としてしまいました。
Posted by ブクログ
あの人は誰だったのか——。
志摩は、プラハのソビエト学校にいた舞踊教師オリガ・モリソヴナのことを考える。エネルギーに満ちた恩師は、謎も多かった。あの頃から30年経ち、ソビエトが崩壊したモスクワで、志摩がたどる歴史。
一気に読んでしまった。志摩のソビエト学校時代の友人たちの魅力に、細い糸を辿っていく謎解きに、明かされるラーゲリの生活に、ページをめくる手を止めることができなかった。限られた滞在期間をめいいっぱい使う志摩も、再会したカーチャも、謎解きに参加するナターシャやマリヤ・イワノヴナも、大きな情報をくれるガリーナも、ついに現れたジーナも、そしてもちろんオリガ・モリソヴナも皆エネルギーに満ちていて、その言葉がイキイキと聞こえてくる。そのほとんどがセリフやモノローグ、手記で進むこの作品は、実に多くの声が聞こえてくる。誰もが自分の人生に誠実にあろうと、飲み込めないような苦いものを飲み込んで生きている。
作者の自伝的要素もありながら、資料に基づいて書かれたフィクションである。だからこそ、とてもリアルだった。迫ってくるものがあった。
Posted by ブクログ
人との繋がり。
旦那氏が買ってきた本。
米原万里さんのエッセイを読んだことがあったので気になって読んだ。
旦那氏は読みにくかったらしいけど、わたしはとても読みやすかった。(笑)
人物がたくさん出てくるけど、なんとなく覚えていれば大丈夫。
赤毛のアン好きな人は好きだと思う。
主人公がソビエト学校に通っていた時の強烈なダンスの先生(オリガ・モリソヴナ)の過去の謎を解いていく物語。
どんどん新しい事実が判明していって、先が気になる。
ダンサーをしていたけど、外国人と結婚をしたことから政府に捕まり、多くの人たちと収容所で過ごし、また日常生活を取り戻す、大変な人生を送ってきた人(たぶんこんな感じ。。)、ということが、当時の記録などでわかってくる。
いまの平和な世界じゃ考えられない非人道的なことが行われている。これが本当にあったことなんて。
そんな中でも、どうにか強く生き延びようとしたオリガ・モリソヴナの行動、それが周りの人々に与えた影響はとても大きかった。
主人公が日本に帰ってきて、日本の‘みんなが平等’の義務教育に馴染めなかった描写にハッとさせられた。
子どもの頃は当たり前だと思っていたから不思議に思わずに受け入れていたけど、いま思うとたしかに個性は潰されてたな〜と。
自分の意見を自分の言葉で発するの苦手だし、将来どうなりたいのか明確な目標がなかった(いまも特段ないけど…)もんな。
だからといって、日本の教育でしか得られないものを得られたとは思っていたりもする。。
正解はないからいろいろ試してみるしかないのよね。(誰)