【感想・ネタバレ】ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼 巨人たちは経済政策の混迷を解く鍵をすでに知っていたのレビュー

あらすじ

公共事業や福祉のバラマキは巨額の財政赤字を生み出したと言われ、それに代わる新自由主義政策もグローバル資本主義の犠牲者を増やし続けている。右派も左派も行き詰まったいま、日本経済が進むべき道はどこにあるのか。本書では、ケインズやハイエクを筆頭に、経済学の巨人たちの論に共通する「ある視点」を提示する。それはすなわち「リスク・決定・責任の一致が必要だ」という示唆であり、「予想が経済を動かす」という真実である。気鋭の理論経済学者が1970年代から現在に及ぶ経済論争の潮流と矛盾をとき明かす、知的興奮にあふれた1冊!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

経済政策の流れの「軸」が整理されて分かりやすかった。
日本では、右派たるべき自民党が社会党の影響の下に、本来左派の取るケインズ的な大きな政府介入を行い、これに代わる連合の支持を受けた民主党が、緊縮財政の小さな政府を目指したことから、話がややこしくなっている。逆に言うと、それができるほど決定的な違いでないということ。

ケインズはともかくハイエクも、大きな政府に繋がる財政出動を否定していない。小さな政府と誤解されているのは、政府がルールキーパーに徹することで、各人の予想可能性が高くなり(リスクが低減し)、安心して経済活動に従事できることだ。非常時の財政出動もルールキーパーの重要な役割であり、治安や衛生、災害、ベーシックインカムなども、これに含まれる。小さな政府とは、政府の裁量や恣意的な政策でなく、ルール(法の支配)のみによって、参加者が安心して経済活動ができることが重要という意味である。
小さな政府が「民間活力を利用して、これまで税金で賄ってきた赤字事業を立て直すこと」ではないことがよくわかった。財政再建の意味合いはあるにしても、微妙にニュアンスは異なる。

予想可能性という意味では、年金を確実に受け取れる世代と、そうでない世代で消費行動に差が生じるのは当然であり、インフレやデフレがスパイラルに陥るのも納得できる。ベーシックインカムが自由主義の考え方であることも新鮮だった。社会主義陣営は、これにより様々な社会保障が削減される可能性について、かえって危惧することも多いようだ。いずれにしても、国としては目先の個々の政策よりも、トータルの社会像(ぶれることのないルールの全体像や非常時の安全策)を示さなければ、意味がなく、ましてや倫理的価値観を押し付けるようでは、どうしようもない。

筆者は、ソ連の経済システムの崩壊が生産手段の共有自体や個人のモティベーションにあったのでなく、リスクと責任の分離→現実と離れた無責任体制にあったと指摘する。いわゆる官僚支配による負の側面であり、現場の裁量でなく、現場を知らない官僚による計画経済は、現実を離れた過剰投資や過小生産など、無駄が多く、それは判断者の無限責任どころか有限責任ともならない。そのため、最終的には物の不足によって崩壊したとハンガリーのコルネイは指摘している。ノルマがロシア語とは、初めて知った。
その意味では、無駄な公共施設や施策に税金を使う日本の自治体も同様であり、官僚の裁量を増やすことが、賄賂や腐敗につながることも同様である。→これを廃して、ルールキーパーとセーフティネットに徹することが、小さな政府ということだろう。
リスクと責任の一致と分離という意味では、自己の資産をつぎ込んでいる個人経営の社長と、サラリーマン社長も類似の関係にあるかもしれないが、これは意図的なリスクの軽減かもしれない。

リスクと責任の一致の観点からは、物の生産とは違って、画一的な対応が難しい介護等のサービス業においては、中央集権的なコントロールは難しく、営利団体よりも(形式的でなく実質的に)協同組合やNPO法人のような、ボトムアップの意思決定が望ましいという意見は傾聴に値すると思った。リッツカールトンの現場主義(現場の人間の裁量権が大きい)も、それに通じるところがあるかもしれない。
一方、国が実施するとなると、無駄な税金を使わないように、細かい基準を作って厳密に対応しようとすればするほど、役所の仕事は複雑になってコストも増え、裁量も発生し、利用者も不便になる。→利用者の選択の自由も尊重されるべきであり、後方支援で十分だという。

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○大不況(ケインズ:財政出動)→インフレ拡大(→ハイエク:小さな政府・あるいは無分別の財政出動が問題だった?)→格差増大・失業(→第三の道:マイルドに修正)・・・→再び財政出動

○福祉のスタンス:新自由主義(削減・供給側・受益者負担)→第三の道(ワークフェア・供給側・官民共有)→新スウェーデン形式(アクティベーション・需要側・資金の公的負担)

○政党分類:
・自由ライダー党
規制のない自由闊達でイノベーティブな経済社会。
カジノ・麻薬・売春・臓器売買すべて自由化。
資産課税の廃止・無駄な公共事業廃止。
ベーシックインカムに一元化(年金制度廃止)
インフレ目標で不況やインフレを防ぐ。
自由貿易推進・外国人労働者・女性・高齢者の就業促進

・人民戦隊・党レッド
充実したベーシックインカムの導入により、転職、協同組合の起業、再学習がいつでも可能な自由な人生を保障。
福祉・医療・教育・子育て支援では、現場の裁量や自治に基づいた活動を公財政で手厚く支援。
インフレ目標を設定し、不況のときは財政出動、インフレのときは大企業の課税強化で対応。

・ウルトラの党
自立した国民経済。輸入品すべてに高額関税。
企業の海外進出も、外国企業の受け入れも外国人労働者の受け入れも禁止。
日本人への福祉供給は十分な審査の上支給。支給決定者の不正監督の審査員も設置。

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2017年10月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

水野和夫さんの本よりはためになる場所があるかも。現実にはこういうことですって説明はしないほうがいいと思うけどね。例えば漁業は漁師さんの判断のところでやるほうがいいでしょという主張をされていますが、漁業の話を今すると共有地の悲劇にふれないとおかしなことになっちゃうと思うんだよね。特に、ソ連がうまくいかなかったことは慢性的供給不足のせいです。そしてその理由はとかはすごく簡単にわかりやすくまとまってる。あとハイエクの思想とかも。この本に共感するのは心情左派だからなのかな

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2015年01月19日

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