【感想・ネタバレ】ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼 巨人たちは経済政策の混迷を解く鍵をすでに知っていたのレビュー

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Posted by ブクログ

時代遅れの大きな政府の推進者とみなされがちなケインズと、新自由主義の祖の一人にかぞえられることのあるハイエクという、二人の経済思想家が考えていたことをみなおしつつ、ベーシック・インカムやインフレ・ターゲットといった、現代において議論の的になっているトピックについても検討をおこない、現代の日本経済が直面している問題に対する著者の処方箋を提示している本です。

著者の主張の根幹にあるのは、政府の役割は人びとの予想を確定させることだというものと、リスクと責任と意思決定が一致するような制度を構築するべきというものに、まとめることができるでしょう。著者は置塩派の経済学者ですが、右と左の政治的な対立構造が生む不毛な議論に巻き込まれることなく、柔軟なスタンスと平易な語り口を武器に、具体的な問題にも果敢に切り込んでおり、非常におもしろく読みました。

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2018年08月19日

Posted by ブクログ

リスク、決定、責任の一致しなければ有効な政策は実行できない。
リスクも決定も現場で取れる体制が必要
サービスの低下を伴う効率化は本当の効率化ではない。
政府は予測可能な一般的ルールでバックアップする。

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2017年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

経済政策の流れの「軸」が整理されて分かりやすかった。
日本では、右派たるべき自民党が社会党の影響の下に、本来左派の取るケインズ的な大きな政府介入を行い、これに代わる連合の支持を受けた民主党が、緊縮財政の小さな政府を目指したことから、話がややこしくなっている。逆に言うと、それができるほど決定的な違いでないということ。

ケインズはともかくハイエクも、大きな政府に繋がる財政出動を否定していない。小さな政府と誤解されているのは、政府がルールキーパーに徹することで、各人の予想可能性が高くなり(リスクが低減し)、安心して経済活動に従事できることだ。非常時の財政出動もルールキーパーの重要な役割であり、治安や衛生、災害、ベーシックインカムなども、これに含まれる。小さな政府とは、政府の裁量や恣意的な政策でなく、ルール(法の支配)のみによって、参加者が安心して経済活動ができることが重要という意味である。
小さな政府が「民間活力を利用して、これまで税金で賄ってきた赤字事業を立て直すこと」ではないことがよくわかった。財政再建の意味合いはあるにしても、微妙にニュアンスは異なる。

予想可能性という意味では、年金を確実に受け取れる世代と、そうでない世代で消費行動に差が生じるのは当然であり、インフレやデフレがスパイラルに陥るのも納得できる。ベーシックインカムが自由主義の考え方であることも新鮮だった。社会主義陣営は、これにより様々な社会保障が削減される可能性について、かえって危惧することも多いようだ。いずれにしても、国としては目先の個々の政策よりも、トータルの社会像(ぶれることのないルールの全体像や非常時の安全策)を示さなければ、意味がなく、ましてや倫理的価値観を押し付けるようでは、どうしようもない。

筆者は、ソ連の経済システムの崩壊が生産手段の共有自体や個人のモティベーションにあったのでなく、リスクと責任の分離→現実と離れた無責任体制にあったと指摘する。いわゆる官僚支配による負の側面であり、現場の裁量でなく、現場を知らない官僚による計画経済は、現実を離れた過剰投資や過小生産など、無駄が多く、それは判断者の無限責任どころか有限責任ともならない。そのため、最終的には物の不足によって崩壊したとハンガリーのコルネイは指摘している。ノルマがロシア語とは、初めて知った。
その意味では、無駄な公共施設や施策に税金を使う日本の自治体も同様であり、官僚の裁量を増やすことが、賄賂や腐敗につながることも同様である。→これを廃して、ルールキーパーとセーフティネットに徹することが、小さな政府ということだろう。
リスクと責任の一致と分離という意味では、自己の資産をつぎ込んでいる個人経営の社長と、サラリーマン社長も類似の関係にあるかもしれないが、これは意図的なリスクの軽減かもしれない。

リスクと責任の一致の観点からは、物の生産とは違って、画一的な対応が難しい介護等のサービス業においては、中央集権的なコントロールは難しく、営利団体よりも(形式的でなく実質的に)協同組合やNPO法人のような、ボトムアップの意思決定が望ましいという意見は傾聴に値すると思った。リッツカールトンの現場主義(現場の人間の裁量権が大きい)も、それに通じるところがあるかもしれない。
一方、国が実施するとなると、無駄な税金を使わないように、細かい基準を作って厳密に対応しようとすればするほど、役所の仕事は複雑になってコストも増え、裁量も発生し、利用者も不便になる。→利用者の選択の自由も尊重されるべきであり、後方支援で十分だという。

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○大不況(ケインズ:財政出動)→インフレ拡大(→ハイエク:小さな政府・あるいは無分別の財政出動が問題だった?)→格差増大・失業(→第三の道:マイルドに修正)・・・→再び財政出動

○福祉のスタンス:新自由主義(削減・供給側・受益者負担)→第三の道(ワークフェア・供給側・官民共有)→新スウェーデン形式(アクティベーション・需要側・資金の公的負担)

○政党分類:
・自由ライダー党
規制のない自由闊達でイノベーティブな経済社会。
カジノ・麻薬・売春・臓器売買すべて自由化。
資産課税の廃止・無駄な公共事業廃止。
ベーシックインカムに一元化(年金制度廃止)
インフレ目標で不況やインフレを防ぐ。
自由貿易推進・外国人労働者・女性・高齢者の就業促進

・人民戦隊・党レッド
充実したベーシックインカムの導入により、転職、協同組合の起業、再学習がいつでも可能な自由な人生を保障。
福祉・医療・教育・子育て支援では、現場の裁量や自治に基づいた活動を公財政で手厚く支援。
インフレ目標を設定し、不況のときは財政出動、インフレのときは大企業の課税強化で対応。

・ウルトラの党
自立した国民経済。輸入品すべてに高額関税。
企業の海外進出も、外国企業の受け入れも外国人労働者の受け入れも禁止。
日本人への福祉供給は十分な審査の上支給。支給決定者の不正監督の審査員も設置。

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2017年10月04日

Posted by ブクログ

ちょっとタイトル詐欺はいってると思う。

小さな政府だー新自由主義だー市場に任せろーいや第三の道だー といった叫ばれ続けてけっこう経つが評価の安定しない──評価することが無視されている──近年の政治的経済政策について、ケインズやハイエクといった経済学者がなにを問題にしていたのかに軸足をしっかりと置いて整理されている本。
ケインズやハイエクの主張に共通するもの、「リスク・決定・責任の一致」「予想は大事」という立ち位置からそれぞれの主張、当時の状況に対する解説、今必要な政策を考える内容。

作者の立ち位置(マル経)よりの言葉が付け加えられてたりはするけれど、なるべく様々な立場に立った理論だけの話になっている。
個人的には(理論で説明しにくい、推測でしか話せない)政治的思惑まで踏み込んで、未だに「勘違い」が続いている原因の考察も欲しかった。

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2016年05月01日

Posted by ブクログ

訳あって敢えて止めていた読書再開です。
どういういきさつで購入したのか忘れましたが、政局・経済情勢を見るとなかなかタイムリーな内容なので積ん読からこれを選びました。

大きくは経済学における大きな二つの流派が現在はどのようなスタンスを取って政治につながっているか、そしてそのどちらもが経済の変遷の本質を見誤ったことで誤ったポジショニングを取っている事を分析した内容です。

私は経済には全く疎いですが、これは面白かった!

著者の主張は、「リスク、決定、責任は同じとろこにないと、無責任かつ恣意的な自己拡張の歯止めが効かない」というもので、序盤に「そごう問題」が例に引かれていますが、経営やリーダーシップに関する深い洞察があります。

また、政府の役割を「人々の予想を確定させるルールキーパー」であるべきと説き、裁量的なマネジメントへの介入は細かなニーズを無視する事になるので後方支援に徹し、民間及び個人の意思決定が「望ましい方向への均衡する」よう振る舞うべきだというところは、そのまま企業運営に活かされる内容で、私が影響を受けたスティーブン・R・コヴィー氏の「リーダーシップとマネジメントの分離」にもつながる主張なので納得性が高かったです。

個人的に特に興味深かったのは、失われた10年と呼ばれた不況と、戦後の終身雇用・年功序列・企業特殊技能優先のキャリアパスについてゲーム理論とナッシュ均衡を使って分析をするところ。

不況については、ポール・グルーグマンの言う「割に合わない円高がまねいたもの」と藻谷 浩介氏の言う「人口減少が招いた定常的経済成長ステージ」というのが私の主な理解だったのですが、著者はそれを「人災」だと断じています。

また、日本の労使構造については『痛快!経済学 2』で中谷巌氏が説明してた政府主導の政策的な性格が強いと理解していましたが、労使が「同じ手」を使うならば複数ある「ナッシュ均衡」の一つとしてごく自然な状態であるというのは目から鱗でした。

ただ、企業競争や企業そのものがグローバル化していく過程でゲームのルールが変っていっているので、汎用技能の担い手としてしかホワイトカラーを雇えなくなってきている日本という指摘は身につまされます。

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2015年10月26日

Posted by ブクログ

自由主義経済政策と社会主義経済政策の歴史を振り返りつつ、これからの経済政策・社会政策を考えていく上で重要な論点について、作者の意見を具体的に述べてくれている本です。それほど期待せずに読み始めたのですが、予想以上に面白かったです。
経済政策としては、何よりも人々の「予想」に働きかけることが重要であり、そのための政府の役割は、明確なルールによって予想を確定させることであるということ、また、情報を持つ者がリスクと責任を負って決定する権限を持つべきであり、組織規模の小さいスタートアップの段階では独裁制が良くても、事業が安定してくれば現場中心の分権型意思決定の方が望ましいとする考え方には、十分納得・共感できました。
左翼の新しい方向を目指そうとする作者の最終的な方向性にはあまり共感はできませんでしたが、途中の議論はとても勉強になりました。安倍政権への対抗軸を見いだすのに四苦八苦している民主党には、特によく研究していただきたい考え方だと思います。

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2015年04月02日

Posted by ブクログ

移動中に読むには、難解な本です。読むのに苦労しました。30年前の冷戦時代に勉強した経済の理論は今は全く通用しないことがわかります。ソ連の崩壊が、社会主義の崩壊ではなく、経済政策の破綻ということはなんとなく理解できました。数年後は日本経済の破綻が話題になるのかな。

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2015年02月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

水野和夫さんの本よりはためになる場所があるかも。現実にはこういうことですって説明はしないほうがいいと思うけどね。例えば漁業は漁師さんの判断のところでやるほうがいいでしょという主張をされていますが、漁業の話を今すると共有地の悲劇にふれないとおかしなことになっちゃうと思うんだよね。特に、ソ連がうまくいかなかったことは慢性的供給不足のせいです。そしてその理由はとかはすごく簡単にわかりやすくまとまってる。あとハイエクの思想とかも。この本に共感するのは心情左派だからなのかな

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2015年01月19日

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