あらすじ
1錠飲めば1日分の記憶を飛ばすことができる薬、アイリウム。薬が効きはじめると、他人から見れば意識もあり普段通りの生活をしているように見えて、その間の記憶がまったくなくなってしまう。つまり、嫌な思いをする出来事の前に飲んでおけば、その事を思い出すことなく日常生活が送れるのだ。記憶を薬でコントロールできるようになった時、その人の生はどんな彩りになるのか…。
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技術と人の関係
記憶をとばせる薬があれば人はどう使うのか,また,期待した結果と違う場合に何が起きるのか? ある意味,SF の王道である,「ある技術が社会に,人間にどう影響するのか」の話で,その部分が面白かった。
数年前,PTSD に対する新薬を開発した科学者の1人が TedTalk で得意気に話をしていたが,その応用が戦争での PTSD であったことに,コメントでは批判があった。そもそもその場合は人為的な病気なのだから,病気を予防する方に力をさくべきではないのかというものである。
後に,戦争で心に傷を追った人を回復させてはまた従軍させた話,薬の開発スポンサーが武器製造会社という話がでてくるにつれ,人の命を金にかえている産業が浮かびあがり,個人的にはなんとも後味の悪いことになった。また,現実問題としてその新薬はアイリウムほど完全ではないため,直せない人も多数いた。あの科学者は本当に PTSD を直したかったかもしれない。しかし,その薬が,直せるんだったらどんどん病人を作ってもいいのでは,という方向に利用されていた。アイリウムの話にもそのような利用法があり,興味深い思考実験だと思う。