あらすじ
生命のしなやかさと多元性を生み出す「DNAの偽装」。エピゲノムは同じDNAの配列を用いて柔軟で多様な表現型を生み出すしくみだ。生物はエピゲノムを獲得することで環境にしなやかに適応する力、複雑な体を作る能力、記憶や認知能力を得た。エピゲノムの世代を超えた影響や、病気との関係も明らかになってきた。遺伝の概念を覆す生命科学の最前線。(ブルーバックス・2013年8月刊)
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Posted by ブクログ
エピジェネティックスとは、DNAによらない遺伝の仕組みを指す。本書では、DNAのメチル化、ヒストン修飾をはじめ、ゲノムの刷り込み、トランスポゾンなど幅広い項目に関する丁寧な解説にとても興味が湧いた。また、セントラルドグマの機構だけでない生物の奥深さに関心した。
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生物の細胞内のDNAがコピーされてその設計図を元にタンパク質が作られる事で生命活動が維持されるという知識は一般に普及しているが、この本ではDNAに備わる別の機能である「エピジェネティクス」に関して丁寧に解説している。エピジェネティクスに関してはまだ教科書的な知識として普及してはいないが、現代の分子生物学に関するさまざまな知見の前提知識として大変重要なもので、この本を読むことで他の生物学関連の本を読んだ時の理解がずっと深まった。エピジェネティクスは生命現象に興味がある人にとっては必読の知識だと思う。
Posted by ブクログ
源氏物語からの導入はとてもわかりやすくて、洒落ている。
全く源氏物語の例えは言い得て妙で、中身は同じでも、服によって人の雰囲気は変わるものだ。ビキニを着たら泳がないといけないし、喪に服したら派手なことは控えないといけないだろう。そのばその場の環境に合わせて、DNAの「服」が、ドレスコードのように一つの意味を持つ。
エピジェネティクスとは、DNAという情報の上位の階層に、もう一つの情報を書き込む仕組みである。
Geneticsはいわば遺伝子Geneの制御のことだ。一方、EpigeneticsはGeneticsというシステムそれ自体を制御する。
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エピジェネティクスについて学ぼうと思い読みました。
全く同じ遺伝情報を持っていたとしても、環境が違えば表現型が異なることがある。この現象は、ヒストン修飾やDNAのメチル化などによって引き起こされるエピジェネティクな遺伝子の制御によって説明できる事が具体例を交えながら分かりやすく解説されていて、勉強になりました。
エピジェネティクな変化により獲得形質が遺伝することもあることから、進化は単純な理論だけでは説明出来ないことを改めて実感しました。
Posted by ブクログ
全般的に難しかった。それは用語の難しさから来ているように思う。しかし、じっくり読めば、生命発現の基本的な機構は理解できる。
日本人がノーベル賞を受賞したiPS細胞やオートファジーなども出てきます。
*興味深い話題
・女性でスーパー色覚を持っている人が8人に1人いる。
・顔の形を決定する遺伝子は5つ。
・雌だけから生まれたマウス「かぐや」。
・胎児期に母親がどういう栄養を取っていたかで子どものメタボを始めとする疾患と関係してくる。
・飽食のツケはエピゲノムにしっかり記録される。
・一度は学説として否定された獲得形質の遺伝がエピゲノムを通して、世代を超えて伝わっていることが分かりつつある。
Posted by ブクログ
分子生物学・遺伝学の専門家が、「エピジェネティクス」の世界を解説したものである。
従来、遺伝形質の発現は、「DNA→RNA→タンパク質」という全ての生物に成り立つ遺伝情報の流れにより、DNAに記録されている遺伝情報が実現した結果とされる、「セントラルドグマ」と呼ばれる原理で説明され、その形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、それはDNAの塩基配列の変化が原因とされてきた。
しかし一方で、DNAが全く同じ一卵性双生児に後天的要因を超えた差異が現れたり、一卵性の三毛猫の模様が全く異なっていたり、ロバとウマを掛け合わせてできるラバ(雄ロバと雌ウマ)とケッティ(雄ウマと雌ロバ)が外見も性格も全く異なっていることなどが観察されている。
また、人間には60兆個の細胞があり、その一つ一つの細胞は、基本的に1個の受精卵と全く同じ、一人の体全体を作るのに必要なDNAを全て持っているが、細胞の分化に伴い、それぞれの細胞は一定の機能(脳だったり、心臓だったり、骨だったり)のみを発揮する。
そして、こうした、同じ塩基配列のDNAを持つ細胞が異なった性質を表すのは、それぞれの細胞の中ではごく一部の遺伝子のみが使われていることによるもので、それは、「染色体クロマチンを構成するDNAのメチル化」や「ヒストンの化学的修飾」といわれる現象で遺伝子の活性が抑制されることにより生じ、そうしたDNAメチル化や ヒストンの修飾が規定する遺伝情報(エピゲノム)を介して、環境によって獲得された形質の一部が次世代に引き継がれることもわかってきたのだという。
まさに、エピゲノムとは同じDNAを使って柔軟で多様な表現型を生み出す仕組みであり、生物はエピゲノムによって、環境にしなやかに適応する能力や複雑な体を作る能力を得たと言えるのだろう。
更には、iPS細胞について、山中教授が発見した方法(山中因子と言われる遺伝子を細胞に加える)とは異なる、DNAメチル化やヒストンの修飾状態を変えることで作り出すことができるといい、臨床面からも更なる研究が期待される分野でもある。
専門外の私には、中ほどで説明される「DNAのメチル化」や「ヒストンの修飾」についての細かい説明には正直ついていけなかったが、エピジェネティクスの世界のイメージを掴むことはできたように思う。
(2015年7月了)
Posted by ブクログ
最近の生命科学の発達は著しく、なかでもDNAにまつわる研究は枚挙に暇が無い。様々な病気や、障害の原因DNAが次々と発見され、素人目には、まるで寿命から知能指数、性格に至るまで、ほとんどすべてがDNAで決まってしまうような錯覚に陥る。しかし、だからといって一卵性の双生児が、まったく同じ人間に成長することはなく、例え、その一人が遺伝性の病気を発症したからといって、もう一人も必ず発症するということはない。そもそも、自分たち一人一人の身体がすでに、全て同じDNAを持った細胞の集まりであるにも関わらず、個々の細胞はまるで別々の形をしていて、種々の働きをこなしている。さてもいったい、個々の細胞のDNAはどのようにして発現しているのか。最新の研究結果の明らかにする「DNAだけでは決まらない新しい遺伝学」=エピジェネティクスのダイナミズム。なぜ、三毛猫のクローンは成功しないのか、女性が遺伝的に強いのは何故か、スーパー色覚発現の条件から、老化、社会的遺伝に至るまで、興味に事欠かない濃い一冊。DNAを突き詰めるほどに、生命は、機械的でも、宿命的でもなく、自らの意志と、めぐりあわせの偶然が織り成す奇跡だと信じさせられる。
Posted by ブクログ
分子遺伝学のホットトピックであるエピジェネティクスを紹介した一般書の中ではかなりオススメできる本.高校生物程度から解説が導入するので,じっくり読んでいけば理解できると思います.
ただし,用語は大学レベルのものがガンガン登場するので,重量感のある印象をうけるかも.読み切るのは簡単ですが,この本の内容をマスターするには教科書を読むのと大差ないほどの努力を要するかも知れません.
これまではラマルクの「獲得形質の遺伝」の否定に見られるように,生後の自分の行動や努力が,遺伝的に自分の子供へと与える影響は無いとされてきました.
しかしそうした社会的な影響もエピジェネティクスを介して遺伝的に後世まで継承される可能性があることが分かってきました.これは単なる生物学の発見だけでなく,我々が社会生活を営む意味を考える機会にもなりますね.
より詳しく学ぶ場合は『生態進化発生学』などがオススメです.
Posted by ブクログ
当方にとっては難しすぎるという意味で★3つ、この本の価値では決してないと思いますのであしからず。
初心者向けか、、、大学受験で生物を選んだレベルでは、この本で言うところの初心者には当たらないものと思われる、無念、、、
ただ最後半はなかなか面白い、著者が非常に俗なレベルに話を落としてくれているからだろうな。
それにしても科学とは「我々はどこから来たのか、我々は何者か、そしてどこに行くのか」を知ることですか、自然科学は今もって学問として成立していますなぁ。
それに比べて人文系でこのような純で壮大な目的を高らかに宣言することは最早稀じゃないかな、やはり共産主義の崩壊という現実が「社会科学」の息の根を止めたのかも。