あらすじ
擬似神経制御言語ITPによる経験伝達と個人の文化的背景との相克を描く「地には豊穣」、ITPによる小児性愛者の矯正がグロテスクな結末を導く「allo,toi,toi」――長篇『あなたのための物語』と同設定の2篇にくわえ、軌道ステーションで起きたテロの顛末にして長篇『BEATLESS』のスピンオフ「Hollow Vision」、自己増殖ナノマシン禍に対峙する研究者を描いた書き下ろし「父たちの時間」の全4篇を収録した著者初の作品集
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考えさせられる・・・。
特に印象に残ったのは、allo, toi, toiと父たちの時間でしたが、どの話も考えさせられました。
それぞれの話に登場する技術は実際に未来で人々が使っていそうであり、それによって起こる数々の問題にもリアリティがありました。
特に父たちの時間は実際未来に起こりそうな話に思え、とても考えさせられました。
匿名
考えさせられる
ナノマシンや人工知能が高度に発達した世界を舞台に、そこで起こる事件を淡々と描いています。ヒトの脳の限界を超えた人工知能やナノマシンが支配する社会において、個々の人間が直面する問題とは何か。本作では、事件や事故の経過を抑制された筆致で綴りながらも、読後感は深いものがあります。
Posted by ブクログ
「人間性」をテーマにしたSF短編集。4篇収録。
「地には豊穣」別書既読
いつの日か、民族性などの文化が情報として脳に切り貼りできるものになったとしても、その苗床となる「人間」が生きている限り、文化は振るい落とされ失われるばかりでなく、新たに積み重ねられていくものがあるのだろう。例えば、失われゆくものに対する惜別の思いなど。
「allo,toi,toi」
感覚器からの情報に結び付いた動物的な「好き嫌い」と、文化と社会の上に築いた社会的な「好き嫌い」とを、私たちは区別できない。
食料や異性のような生きる上で必要なものだけでなく、芸術や教育のような抽象的な事柄に対しても「好き嫌い」の振り分けができることで、人間は多彩なモチベーションを持ち、社会を発達させてきた。
とはいえ、好悪の管理を精密に行う能力がないために、社会的要請に起因する快楽の意味を取り違えて暴走が起こったりもする――
そういった観点から小児性愛者の心情を描いたお話。
「好き」という単純な言葉のなかには、親愛・母(父)性愛・性的欲求等の雑多な感情が押し込められている。
コミュニケーションにおいて、「好き」という言葉に含められたものを消化できないとき、人間はそれを「好き=自分にとってよい」ものだと大雑把に丸呑みして受け入れようとするし、その錯誤がきっかけで道を踏み外す者がいるのも、特別おかしいことではないのだ。
「安全圏など本当はない」
普段日常から意識的に排除するものの、決して追いやってしまうことのできない恐怖を喚起された。
「Hollow Vision」
科学技術の進歩に伴い変化していく人間の在り方。脳の機械化技術が現実のものとなった世界で、あえてデザイン(かたち)のなかに人間らしさの証しを垣間見る、という話だろうか。
私には難しくてほとんど呑み込めた気がしない。
「父たちの時間」
放射線を吸収するナノロボット≪クラウズ≫が原子炉運用に活用されるようになった未来の日本の話。クラウズが自然環境に漏れ、自己増殖システムに異変を来し始めたため、主人公はその変異型クラウズを利用して、同種を共食いさせるという方向で対策案を模索する。
クラウズに起因する霧や原因不明の病の蔓延により、徐々に不穏な空気を増していく世情。
そしてそうした大きな世界に対し同じくらい差し迫った問題として、家族という小さな営みを再び自分の人生に結び付けていく描写が良かった。
それぞれの研究機関が好き勝手に手を加えたナノマシンたちの特徴が有機的に絡み合って、最終的に自然生物の営為に近づいてしまうところも面白くて、物語としてよく出来ているなあと思った。