あらすじ
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小説家と女性誌編集者が過ごす、京都の一夜を繊細な心理主義的方法で描き、現代の「性」を見つめる「高瀬川」。亡くした実母の面影を慕う少年と不倫を続ける女性の人生が並列して進行し、やがて1つに交錯する「氷塊」。記憶と現実の世界の間(あわい)をたゆたう「清水」など、斬新で、美しい技法を駆使した短編4作。
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Posted by ブクログ
短編「清水」
中編くらいの表題作「高瀬川」
詩「追憶」
2つの小説が並行して進む実験的な「氷塊」
の4つが入っています。
「高瀬川」と「氷塊」はすごく良かった。
「高瀬川」は、最終的にパンティがペットボトルに入って流れて行っちゃう話。
その情景がすごく印象的なのと、コトに及ぶ男女の会話のぎこちなさが良い。
村上春樹の小説で男女の会話がウィットに富んでいてリズミカルな感じなのと真逆で、すごくぎこちなく恰好悪く描いているのが妙に魅力的。
「氷塊」はページの上半分が少年目線、下半分が30代の女性目線で進んで行って、ときどき真ん中に共通目線の文章が差し込まれる。
どう読むかは読者次第だと思うが、読み進め方によって印象も変わるだろうし、とても面白い。
共通の文章の差し込まれる感覚が、最初は長く、後の方は短くなっていくので、小説にスピード感が出てきてドキドキする。
おもしろかった。
Posted by ブクログ
近作『空白を満たしなさい』の感想ツイートがわたしのTLを潤す今日このごろ、待って待ってまだ追いかけ切れてない作品いっぱいあるねん!! ということで読んでみた『高瀬川』。
ざっくり言うとおもしろかったです。
■清水
この人の小説には、いつも説明が明晰すぎるところがあると思う。「存在が、――そう、今はもう疑うべくもなく、この私の存在が、次々と過去へと放り出されてゆくのだった。」(p22、原文は「この私の存在が」に傍点)この段落を書けるならば、この小説はあまり書かれる必要がなかったのではないか、というような気がした。滴り落ちていく清水とか、鳩の屍体とか、そういったイメージを付随することに意義があるというなら異論はとくにないけれど。
■高瀬川
生々しいのになぜか下品ではないエロス。
会話文のぎこちない感じは相変わらずだなあと思ったけど、細かい心理描写はけっこう楽しく読めた。
鴎外の『高瀬舟』は、どのくらい関係あるのかな。裕美子が流産について語るところは、弟殺しの罪を告白する喜助と通じるところがあるかも。
そういえば、流産も「流れる」といいますね。
最後の、鷺が流れずにひっかかっちゃったペットボトルを不思議そうに眺めているシーンが好き。
余談ですがこれ読んでたら、電車の中で男子高校生がチラチラこっちを見ていた。
うーん、きみには、ちょっとまだはやいかな~(笑)
■追憶
レイアウトを駆使した視覚的な作品。
おぼろげ。読むというより絵のように眺めて鑑賞するものかな。
最後には全文がついているので、そこを読むと何が書いてあったのかはわかるけど。
これだけ視覚的だと、文庫と単行本では、同じ小説なのに全然違う作品になるのじゃないか。
■氷塊
少年と女性の両方の視点から二段組で同時に描かれる(二人にとって共通な部分は一段になる)という面白い試み。
少年は女性を見て死んだと聞かされていた母親が実は生きていたのだと思い込み、女性は少年を見て不倫相手の息子なのだと思い込む。
なんかアンジャッシュのコントに似てる。
少年パートを最初に読むか、女性パートを最初に読むか、どういう読み方をするかで感じ方が変わってきそう。わたしは両方少しずつ読んだ派。もどかしい感覚。
こんな風にいろんな文体や技法を駆使していろんな小説を書く作家である平野啓一郎が、「分人」という概念を思いついたのは、なんだかよく分かる気がするな、などと。